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新春対談「人事の変革とイノベーションの潮流」

2015/01/20

  • 語り手 楠田 祐(くすだ ゆう)氏
    中央大学大学院戦略経営研究科 客員教授 戦略的人材マネジメント研究所 代表 特定非営利活動法人 女性と仕事研究所 理事
    日本テレビ NEWS ZERO コメンテーター 東証一部エレクトロニクス関連企業3社の社員を経験した後にベンチャー企業社長を10年経験。2009年より年間500社の人事部門を6年連続訪問。人事部門の役割と人事の人たちのキャリアについて研究。多数の企業で顧問も担う。 主な著書 「破壊と創造の人事」(出版:ディスカヴァー・トゥエンティワン)2011年は、Amazonのランキング会社経営部門4位(2011年6月21日)を獲得した。 最新の著書は「内定力2016~就活生が知っておきたい企業の『採用基準』」(出版:マイナビ)

※登場する方の所属企業、役職等は当時のものとなります。

楠田:大きな採用母集団をスクリーニングするプロセスは、同質人材を採用していればよい時代には有効だったわけだけれど、この時代、ダイバーシティの観点からも旧来の方法に、皆が限界を感じているのかもしれない。多様性が大事だから変わった人を採ってみた。でもフタを開けてみたらなじめない、使えないってことが多く聞かれる。

そこで、これまでよりも一歩踏み込んで、多様な人材どうしが一体となって、本質的な変革を起こし、新たな価値を創出していく、インクルージョン(※注)に基づいたイノベーションというものを、目指さなければならないと思うんだけれど、イー・ファルコンはこのテーマをどう捉えているのだろう?

(※注)「インクルージョン」とは? 異なる文化背景や、個性の差異を乗り越え、誰もが対等に関わって、組織参加できる状態を目指すもの。従来の「ダイバーシティ」は、多様性のある状態づくりが焦点であったのに対して、この「インクルージョン」は、多様な人材どうしの相互関係づくりや、組織としての一体感づくりに焦点がある。

志村:おっしゃる観点は、今日の極めて大切な命題です。

まず一つの重要な示唆として、ハーバード大学の歴史哲学家であるドゥ・ウェイミン教授が、今日、グローバリゼーションで生じる、国家や民族の対立を乗り越えるために、①個別性の基盤にある普遍性を見出し ②相手の存在の価値や条件を尊重し ③互いに参照し学び合うことの必要性を挙げています。
つまり、言い換えてみれば、互いの共通のアイデンティティ(普遍性)を見出した上で、ダイバーシティ(多様性)を認め合い、インタラクティビティ(相互作用性)をもって関わりゆく・・・この3点が、多様な人材が融和するための条件であるということです。

ここで語られている観点を手がかりに、3つの角度から申し上げてみます。

まず一点目の「普遍性」ですが、これまでにイー・ファルコンは、500を超える企業において活躍する人材のパーソナリティを分析してきました。そうした中、個社ごとに存在する“共通のパーソナリティ”・・・つまり、皆が合わせ持つ「土台」の存在が明らかになってきました。しかし多くの場合、そこに対する理解がないまま、多様であろうとするから、楠田先生が指摘されるようなアンマッチが生じる。そうした意味でも、企業や組織が、こうした「土台」に立脚して成り立っていることを認識した上で、多様性の協議に進むことが、インクルージョンを実現するための“第一の条件”ではないかと考えています。

次に、二点目の「多様性」についてです。我々は、特定の組織に存在する“固有の人材タイプ”を判別して可視化するメソッドを保持しているわけですが、その中で、少数での存在であり、一般的には遠慮されがちなタイプの人材を、意図的に採用していく企業・・・例えば“内向型”の人材を、一定枠を定めて獲得しているという企業があります。それは、彼らが秀でている“省察の姿勢”や“集中的思考”を重んじているからなのですが、このような異質と思われる人材を求めない組織は、人材の質のホモジェニシティ(単一性)によって、環境への適応や創造が困難になっていってしまいます。

いずれにせよ、あくまで第一の「普遍性」に則った上で、人材の「多様性」の状態を可視化する方法があるからこそ取り組める活動であり、それがインクルージョンへの“第二の条件”であると思います。

そして、最後の「相互作用性」ですが、パーソナリティの測定結果を、本人にフィードバックするとともに、(本人のパーミッションを前提に)組織内で開示し合うことは、それまで理解できなかった、お互いの“行動の理由”を知る手がかりとなりとなります。そして、それは「どちらか一方だけが完成している」などといった絶対性など、存在しないのだという気づきを促します。これが、互いが未完成を自覚しながら共に変わっていこうという、インクルージョンの“第三の条件”をかなえることになると思います。

ともあれ、一人ひとりの人材に内在する価値を見つめるためには、人間と組織に対する的確な“視座”と、それを実現する具体的な“方法”が共に必要であり、多様な人材の力によって組織が価値創出していくためのカギも、そこにあると思います。

人材を見つめる“人間観の限界”

楠田:なるほど。ところで、ボクが人事の仕事に携わる中での素朴な疑問なんだけど、人材を測定・評価するための、いわゆるアセスメントが、採用時や若年時、管理職の登用時などのステージごとに、別々のものが使われているけど、果たしてそれでいいのだろうか?

日本経済が右肩上がりで成長し、人口が増え続けている時代は、任用されなかった人に対して「ちゃんとアセスメントしたでしょ」といった、単にアリバイを果たすだけの役割があったのかもしれない。
しかし今日においては、人口が減り始め、グローバル化も加速しなくちゃいけない、また「業界」が崩壊して、他業界とも競い合わなくちゃいけない。さらにはM&Aの可能性を含め、他社の人材も意識しなければならない・・・そうした状況下では、採用や配置、また育成や登用にも通じていくような、人材を捉える視点が必要じゃないかと思うんだけど、その点はどうだろう?

志村:まず、なぜ人事活動のステージごとに、別々のアセスメントが扱われてきたのかと言えば、企業活動の機能が分化されてきた結果だと思います。部門どうしが縦割りの論理の中で、横断的な協議を持たないまま、それぞれの検討で使い始めてしまう。

しかし、この状況が生まれている、更に根本的な理由とは、人材を見つめる上での“人間観の限界”にあったのではないかと考えています。

それはどういうことかと言えば、人間とは本来、過去から未来に渡って刻々と変わり続けるものであり、その変化を見つめ続けなけない限り、本質的に理解したことにはならない。しかし、それには“持続的な観測”や、取り扱ねばらない“データ量の増加”という、やっかいな問題がつきまとうことから、自ずと人材というものを、手っ取り早く捉えて、決めようとする「固定的な人間観」が、形成されていったと言えるでしょう。

翻ってわが国の市場には、企業の人的把握のために用いられるアセスメントが数百もあるのですが、驚くことに採用・配置・教育・登用等の諸活動で、一気通貫して使用できるものが、これまで存在しませんでした。しかもそれらはあくまで、そのステージにおける今の状態しか見つめられないものである故に、いったんお蔵入りしたデータは二度と用いられることがない。
これらはそもそも、前述した人間の見つめ方や人間観が、色濃く影響しているものと私は考えています。

こうした状況を踏まえ、当社が昨秋にリリースした、適性検査【eF-1G】は、企業の人事活動における一連のステージにおいて、採用、育成、登用といった“垂直方向”、また配置や異動といった“水平方向”といったいずれの方向にも活用できるディメンション(測定測度)を持つとともに、各ステージにおいて①実態把握⇒②本質探索⇒③対策立案⇒④実行推進のサイクルを実現する機能を持つものです。
まさに「変わり続ける人間観」に則った、これからの時代に不可欠なアセスメントであると言えます。

楠田:昇格を決める瞬間だけに使われるんじゃ、採用スクリーニングと同じだよね、過去の実績や成果を見ているだけで、本当に未来に向かってリーダーシップを発揮できる人材かどうかなんて見ていない。そうした意味でも、人事活動において一気通貫で活用できるアセスメントが、これから本当に重要になるとボクも思うな。

「パーソナリティ・ダイナミクス」の確立へ

楠田:それでは、これまでイー・ファルコンが、企業人事への支援を通じて新たに見えてきたもの、また今後の新たなテーマについて伺います。

志村:今まさに、新たな取り組みが始まろうとしています。

それは、組織で活躍する人材の、過去から現在にわたるパーソナリティの変化と、その背景を解明しようというものです。

まず、人間のパーソナリティというものを、過去の行動や習慣が積み重なって形成されたものだと見れば、今の自分とは、過去の「原因」によって形成された「結果」であるということなります。また、それまで時間をかけて形成されたパーソナリティは、一定の恒常性を持つことから、未来のパフォーマンスを予測する手がかりとなります。

一方で、ある一定の時間をはさんで、過去と現在の自分のパーソナリティの“変化”を明らかにすると、自分とは、緩やかではあるが確実に変わってきた存在であることに気づきます。それはあたかも、地球の地底に存在する“プレート” や“地殻”が、短い時間の中では「固体」に見えるのに対して、長い時間の中で見れば「流体」の現象を示すことにも似ています。

すると、この変化の過程において、本人がいかなる行為を刻んできたのか、その中身を検証して体系化することで、未来に向かって新たな自分をつくるための行為が浮き彫りになってくる。そしてそれは、今の自分・・・まさに今刻もうとしている自分の行為が、未来の「結果」をもたらす「原因」になるという、新たなパラダイムを導くことにもなります。

今の自分というものを、“過去からの結果”と見る立場から、“未来への原因”と見る立場へ・・・この「因果観の転換」に基づいたメソッドが確立されることで、今を知り、未来を見つめ、積極的に自己形成していくことが可能となる。私は、これを「パーソナリティ・ダイナミクス」、つまり“動的かつ実践的なパーソナリティ論”と、呼びたいと思います。

そして、この理論と実践方法の構築に向けて、特定の企業との協力関係を通じて、その検証と体系化の取り組みがスタートしたところであります。

楠田:そうか。これからは、人材開発の役割を、セレモニーとしての研修や、OJTとかって言う言葉でごまかすんじゃなくて、キチッとサイエンスで見ていく。そして、配属先の上司が、そうした成長要件に則って関わり、定点観測を怠らないことが大事になるんだね。

世界をモデル化する原動力とは?

志村;それでは、次に私からお伺いします。これまで、楠田先生の数多くの講演をお伺いして、止めどもなく変化していくこの世界を、極めて明快なモデルとして我々に示して下さることに、そして、その世界に向き合う我々が、いったい何を為さねばならないのかという、明確な“スイッチ”を示して下さることに、いつも強い感銘を受けます。そうしたわけで、私には、こうした先生の発想や思考の根本はいったいどこにあるのか、そしてその原動力とはいったい何であるのか、強い関心があります。

これまで楠田先生が、自らこの点に言及される機会は少なかったと思いますが、優れたパフォーマンスの原因を探らずにはおられない・・・これは、私の“職業病”みたいなものだと受け止めて頂き(笑)、そこをお聞かせください。

楠田:なるほど(笑)
・・・そもそも、この人事の世界に、いわゆる研究者たちはたくさんいる。大学に所属して調査したり、因果関係を分析しながら、法律を作ったり、理論を作ったりしている。事実、私も尊敬する先生方と懇意にしています。

でも、54歳になった頃、ふと考えた。「この猛烈なスピードで変化している世界に対して、この日本が応じるためには、そうしたスタンスでは間に合わないんじゃないか・・・」って。
この時、一日で3~4社、一年で500社の企業人事に足を運んで、いったい何が課題なのか、その課題に対して何を取り組んでいるのか、またそれは上手くいったのか、いかなかったのか、あるいは課題があるけど野放しにしているのか・・・そんなことを徹底的に聞いてやろうと決めて実行したの。

こうして質問し、手元に留めていくと、ものすごい厚いノートが積み上がっていくわけですよ。戦争のジャーナリストは戦地に入り込んで、弾が飛んでくるなかでレポートしていく。それがジャーナリズムである訳だけれども、僕の場合は人事のジャーナリズムなので、企業の人事の中に入り込んでいるわけです。

一年で500社っていうのは、のべ500社です。つまり同じ会社に行くことも多い。一年の中で数回にわたって同じ会社に行くこともある。そして必ず1回の訪問で、最低1時間は滞在するので、年間500時間以上になる。
特定の業種に限って、よく知っていますって人は他にもいるんだけど、業種を問わず、企業の人事関係者はもちろん、採用エージェントや外資系のコンサルティングファームなど、人事を取り巻く世界のありとあらゆる人たちと、分け隔てなく会っているのはボクぐらい・・・そうしたら今のままじゃダメとか、次に何をしなくちゃいけないかとか、段々と分かってくるんだよね。

これを始めて既に6年、常に新しいものが入ってくる、常に外発的な刺激ある環境に身を置いているから、生み出すと言うより自然と言葉が選ばれていくという感じがあります。もし、ボクの言葉に力があるとしたらたぶん理由はそこです。そしてどうやら、それが今の日本の企業、日本の人事に、多少なりとも役立っているみたいだね。
そんな訳だからなのか、ある総研の日本を代表する労働エコノミストが、ボクを評して「日本で唯一の人事のジャーナリスト」と、呼んでいるようです。

志村:今日、エスノグラフィー等の方法論の重要性が語られますが、まさにその場に身を置いて、対象世界に鋭く迫る。つまり、仮説を検証するのではなく、仮説それ自体を発見する、あるいはこれまで定説と思われていたものをいったん排し、それによって見えてくるものを見つめ、世界のあり様を紡ぎ出していく。それは、いわゆる従来の定量的、定性的な調査だけでは決して実現できないことです。
実にそれが、先生の言葉がもつ迫力の源泉であると共に、人と組織の世界に向き合う我々が、真に学ぶべき本質であると気づかされます。

時代の潮流をつくる“奥底の動き”

志村:楠田先生がこれまで警鐘を鳴らし続け、また発信し続けてこられた言葉に鼓舞されるかのように、人事主導の変革が現れ始めた2014年でした。

かつて、20世紀最大の歴史家と言われた、アーノルド・J・トインビーが、究極において歴史を作るものは「水底のゆるやかな動き」であると述べています。我々の眼に映る社会の諸現象・・・つまり“水面の流れ”というものは、ときに極めて複雑に見えることもあるけれど、その社会活動の基盤となる、人や組織を捉える活動や視座といった“奥底の動き”は、確実に良い方向へと変化している・・・私はそのように感じているのですが、楠田先生はいかが思われますか?

楠田:ボクは、東京五輪を一つの着地点として、物事を考え始めたことがいいと思っているの。いろんな企業が、2020年までに何をしようかと未来向きになっている。この、思考のフレームの中で人事がこれからイノベーションを推進できる可能性は高まると思う。

こうした流れの中で、一つ語っておかなくちゃいけないのは、タレントマネジメントのあり方だ。
システム導入を目的とするのではなく、アセスメントをセットして、ポートフォリオの中で人材をマネジメントすることが重要であると思う。どんどん上にいって欲しい人、残って欲しい人、残って欲しくない人、そこをきちっとやっていかないと会社の経営状態は悪化してしまう。ここ2、3年、経営が悪化してからアウトプレースメント業者を使って、外に出すって会社が多いと感じるんだけど、ボクはこれには否定的だ。悪化する前にこそ、確かな根拠をもって人材を把握し、人と組織のポテンシャルを十全に引き出せるよう、取り組むべきだと思うんだ。

志村:企業の環境や状況って、ときに激しく変化しているように見えますが、実は道理に乗っ取って考えれば予見できたことが少なくない。だから未来を見つめ、なすべきことを定め、皆のコミットメントを醸成しつつ進んでいけばよい。しかし、そうしたことに愚直に取り組んでいない企業が、先生のおっしゃるような、急激な舵取りをせざるを得なくなっているように思えてなりません。

今の日本企業にバラ色の明日は描きにくい。だからこそ、“未来”というものを「水面の流れに身をゆだねて辿り着く場所」と受け止めるのではなく、「奥底の動きに目を向けながら、時に水面の流れに抗ってでも創り出すもの」と捉えていく・・・そこにこそ、経営の覚悟が現れるのではないでしょうか。

楠田:そうだね。本年、2015年をもって戦後70年を迎えるわけだが、大企業の人事執行役員や人事部長の中には、少子高齢化による労働力の低下等、わが国が初めて直面している状況に、戸惑いが隠せない人たちがいるようだ。またそれらの中には、この数年間で“やらない理由を見つけるプロ”と、化してしまった人たちも少なくない。

一方で、‘90年代後半の就職氷河期に、社会に出てきた世代には、大変優秀で、しかも高い意識を持っている人たちが多い。そして彼らは、現況を見つめて「このままじゃいけない」と思っている。

こうした、世代間の“大きな乖離”を見るにつれ、今、必要なのは“人事部の組織開発”であり“人事部自らのイノベーション”であると、私は言いたい。例えば、他でもなく人事部が、まず360度調査を行う。そして、研修を準備する側に立つのではなく、自らのパフォーマンスを高めるために、自分に対して研修を果たしていく・・・つまり、人事部が自らの「見える化」と「できる化」をやるということです。

経営の覚悟と共に、こうした人事の変革への、労を厭わない努力こそが“奥底の動き”となって、一企業のイノベーションを巻き起こし、やがては我が国のイノベーションの潮流を、確かなものとしていくに違いないのだろうね。
(終わり)

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