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グローバルで使える適性検査の条件―東アジア諸国における採用の現状と課題―

2014/05/20

  • 語り手 同志社大学大学院文化情報学研究科教授
    同志社大学東アジア総合研究センター長 鄭 躍軍 氏
    中央大学大学院戦略経営研究科客員教授 戦略的人材マネジメント研究所 楠田 祐 氏

※登場する方の所属企業、役職等は当時のものとなります。

グローバル採用における課題

楠田氏:グローバル採用。これについては7、8年前から日本の製造業、またはIT企業を訪問させていただいて、どこの国のどこの大学から何人採ってきたという具体的な話をたくさん聞いています。その中で課題もかなり出てきている。そこら辺をお話しすることで問題提起をしていけたらなと思います。 みなさんの課題感を聞くと、今まで日本人だけ、それも男ばかりの社会でやってきたのに、女性が活躍し始め、そこに障がい者も外国人もとなると、もうどう接すればよいのか分からないというのがよくある。日本は今まで排他的にやってきたのだから、ある程度は仕方がない。でも、ダイバーシティという観点から考えると、排他的では上手くいかない。目で見ただけ、耳で聞いただけで分かったような気になって「どうせすぐ辞めちゃうんだろ、外国人は」なんていうのではなく、自分自身で現地に行って確認する。実際に採用をしてみることが重要。国自体がダイバーシティになっているアメリカと違い、日本人ばかりの日本ではかなり意識的にやらないとできない。 次に課題となるのが、意思決定の遅さ。外国人を採用する、しないの二元論的な話していたら、反対する人が多くて話は進まない。とくに大手企業には、入れない理由を論理的に並べるのが得意な優秀な人が多い。そこで重要になってくるのがエビデンスをどう出せるかだと思う。 そもそも今、なぜの日本の製造業がこれだけ東アジアに出かけて行き、優秀な理系の学生を採って、日本の正社員として働かせているのか。理由はいくつかあると思うが、分かりやすい話は、少子化と理系離れ。日本に数多くあるモノづくりの会社はどこも電気工学、機械工学が必要。工場は海外に移転しても本社には必要だ。だから、入れない理由を論理的に並べることはもうやめた方がいい。 たとえば、わたしは昨年、ベトナムのハノイ工科大学で講演をしたが、半分は日本語がペラペラ。もう半分は英語がペラペラで、通訳の必要もなかった。いろいろ質問をしてみると、理系の人たちは国内上位校の工学部くらいの優秀さだと感じた。アジアには語学も含め、学問的に優秀で熱意をもった若者がたくさんいるということをしっかりと見ないといけない。 実際に、もうどんどん採りに行っている企業もある。機械工学、電気工学では圧倒的に中国。清華大学をはじめとして60くらいの大学に行っている。韓国はソウル大学などだが、特徴的なのがリケジョ。韓国で女性はなかなか活躍できないことが分かっているから、優秀な女性は日本に来たがる。他には台湾、シンガポール、インドネシア、タイ、香港、ベトナムなど。それから今のITの主流はインド。日本のIT企業は18大学くらいに採りに行っている。インドは広いから、専門の人が1カ月、2カ月かけて採りに行く。 違う文化と価値観をもって日本に働きにくる彼らも、それを受け入れる我々も分からないことだらけ。その相互理解のスピードをいかにアップさせるかというとき、ある程度サイエンスを使うということが非常に重要になってきている。この後、バトンタッチする鄭先生のお話も、そこら辺が大きなテーマになるのではないかなと思います。

鄭氏:楠田先生のお話から続くのですが、ダイバーシティ、いわゆる多様性をキーワードに、わたしが20年間続けている東アジアの価値観国際比較調査の結果などを踏まえ、グローバル採用で求められる適用人材とはどういう人物像か。また、そうした人材の特性を入社前にどのような方法で特定するのか。そして、今後のグローバル採用における課題などをお話していきたいと思います。

グローバルで通用する人の条件

1970年代以降、グローバル化は好きか嫌いか、反対か賛成かという問題ではなく進んでいることを、我々はまずしっかりと認識しなくてはなりません。現在、世界では産業先進国を中心に、原材料の調達を含めた生産性の向上、為替リスクの回避などを目的とした多国籍企業が活動しています。日本も例外ではありませんが、日本企業は海外に支社を作るとき、日本人を連れて行くというやり方が主流でした。しかし、それではもう人材の確保が追い付かなくなっています。こうした状況の中でグローバル採用が求められています。 では、グローバルで適用できる人材にはどんな要件が必要でしょうか。3つのことが考えられます。ひとつはイヤでも不可欠な語学能力。これがなければ次の話には進めません。単に話せる、聞けるだけでは足りません。ダジャレなども含めたコミュニケーションが取れるようになると、現地の方との距離がグッと縮まり、信頼関係が築かれるということが検証されています。次に、文化の理解。言語の部分は勉強をすれば上達できますが、文化の理解はそう簡単ではありません。単に本を読むだけでは身に着けられない部分がどうしてもあります。価値観や習慣の異なる同僚と一緒になって仕事を進める力が必須ですが、これが多文化交流の中で一番難しいところです。最後は、文化が違うという前提のもとで生まれる複雑な人間関係の中でのリーダーシップ発揮力。その辺は、将来リーダーシップを発揮するための潜在能力がどのくらいあるかを、採用するときに計る必要があります。

人材をどう評価し、採用していくべきか、日本はその意思決定の部分で、欧米はもとより、中国や韓国に比べても少し出遅れた感があります。最近では一部の企業で英語を公用語にしたり、昇進するときに英語力を問うといった動きがありますが、それはあくまでも部分的なことに過ぎません。全体的に見てグローバルに対応できる人材にとって、未知の世界に自ら飛び込んでいくチャレンジ精神も必要だし、なにが起こるか予想がつかない環境下での問題解決能力も不可欠です。この問題解決能力の中には、先ほども出てきた現地の文化や価値観に対する理解力も含まれます。 たとえば、日本の大手企業が中国や台湾で創業する際、トラブル対応の役職を作って、現地の人に対応を任せたりしましたが、上手く解決できないという事案が頻発しました。お互いの考えていることを理解したうえで、できるだけ早く必要な手を打つ力が求められます。 また、日本では仕事に対するセンシティブさ、いわゆる繊細さが非常に評価され、求められますが、欧米やアジアではむしろタフネスさの方が強く求められます。グローバルな人材採用を考えるときには、日本の価値観を持ち込むのではなく、あえて日本人にはない部分を補える人材を採用すべきだろう、という考え方もあるのではないでしょうか。

グローバル採用での適性検査の要件

適性検査にはいろいろなやり方がありますが、最低条件として多言語対応であることです。少なくとも、アジアでは英語、中国語、韓国語、ヒンディ語などが必要と思われます。一方、これだけでは足りません。就業規則に関する計測尺度は、どうしても必要になります。この部分の計り方は言語力よりもはるかに難しい。価値観の違いは簡単に言葉で表現できないし、人に理解させる近道もないからです。
たとえば、日本と中国、韓国は戦後ずっとケンカをし続けています。歴史問題、政治問題などの一面はもちろんありますが、わたしが20年間調査を続けてきて感じていることは、お互いに理解するための努力がやっぱり足りていないと言わざるを得ません。日中韓の多くの人はお互いに相手のことはよく知っている、相手の考えていることは分かっているという自負がある。でも、その思い込みは実際に間違っていることの方が多い。お互いの違いを理解するというのはとても難しいということです。
もうひとつ無視できない部分は、その人を育てた社会的な要因、いわゆる生活履歴、受けてきた教育システムなどです。この辺を実際に計るための尺度が求められています。現代の東アジアはよく、東アジア文化圏などと呼ばれ、ひとつのグループとして扱われますが、そう簡単な話ではありません。範囲が広いこと以上に、統一した宗教も政治体制も存在しない不均一で、経済や文化の成熟度の格差も大きい不均衡な社会だからです。
たとえば、日本人の3割が仏教などの宗教をもっているけれど、中国人のほとんどは無宗教。一方、韓国は4割くらいの人がキリスト教を信仰しています。こうした背景から、東アジアでは宗教に関する会話などはなかなかできないのが現状です。また、途上国と先進国が混ざり合っているような状態なので、経済的な会話もスムーズにはいかないのが現状です。日本を基準に、相手も同じようにしてくれるという期待はできないと理解しなければなりません。そうなってくると、人事を担当するみなさんは、その国、その地域の仕事に対する考え方、価値観、習慣などを把握する必要があるんじゃないかと思います。

現代アジアの職業観

ここからは2002年からスタートした日中韓、香港、台湾などの成人男女に対する、現代人のものの考え方や見方を中心にした国際比較調査の結果の一部をお話し、みなさんと共有したいと思います。調査項目は家庭、宗教観、金銭観など多岐にわたるのですが、今回はとくに職業観に関するものを中心にお話させていただきます。

まずは、仕事をするうえでなにに一番関心をもっているかを、「お金のことを気にしないですむ程、よい給料」「倒産や失業の恐れがない仕事」「気の合った人たちと働くこと」「やりとげたという感じがもてる仕事」といった4つの選択肢からひとつだけ選んでもらいました。
結果を見ると、日本はお金を重視する人が他の国に比べて際立って少なく、一方、中国はやりとげた感を重視する人が際立って多いなど、それぞれの国の特徴がはっきりと見えてきます。収入をもっとも重視するのは韓国と台湾、やり甲斐をもっとも重視するのは中国本土。気の合う同僚と働くことを重視するのは香港、日本はお金の項目以外に大きな差は見られません。こうした結果から就職の第一条件は国、地域間に大きな隔たりがあることが確認できます。
加えて、自由時間と収入、労働と収入を対比させた設問から、韓国と中国文化圏では自由時間より収入の増加を好み、お金があっても働けるうちはずっと働きたいと考える人が多く、お金があれば働くのをやめると回答する人が多い日本では、お金よりも仕事の環境に強くこだわるなど、働き方に関する価値観の違いが見えてきます。

次に、尊敬する職業と実際につきたい職業をそれぞれ聞き、それを対比させることによって、職業に対する本当の考えを浮かび上がらせました。自由回答で集めた回答を集計し、5位までにまとめたもので比較をしていくと、尊敬する職業は、教師、医者などすべての地域に共通するものがある一方、日本は農業、中国本土は軍人、韓国は企業家、台湾は義工(ボランティア活動)、香港は消防士など特徴的なものも見られます。では、つきたい職業はというと、尊敬する職業と顔ぶれと順位はほとんど変わりません。ただし、日本だけは尊敬する職業で5位だった公務員が、つきたい職業では1位になります。この結果から、尊敬する職業とつきたい職業が一致する国と、そうではない国があることが分かります。

また、際立った差が見られなかった職業と違い、一番に思い浮かべる自国の文化とはなにか、という問いに対し、自由回答で集めた回答を集計し、10位までにまとめたもので比較をしていくと、国によって多種多様な回答となり、ほとんどかぶるものは見られません。有形、無形を問わずの自由回答なので、なにかひとつに偏るということもなく、日本では歌舞伎や寺院など、韓国では礼儀や韓服など、中国では歴史や儒教などが比較的多い回答となります。ここから分かるのは、日中韓が文化の面で共通認識をもつのがいかに難しいかということだと思います。

良きリーダーに求められる資質

ここまで文化や価値観の違いについてお話してきましたが、ここからは企業にとってどうしても見ておかなければならない、リーダー観についてお話します。「仕事仲間に誠心誠意接する」「人間関係がよい、顔が広い」「年功を積んでいる」など、11の項目を用意し、どの資質を重視するかを3つまで選択させるという調査の結果をお話したいと思います。

まず、全地域に共通して4割を超える回答は「部下を公平に扱う」のみで、もっとも特徴的なのは、中国で6割を超える「技術的に優れている」です。他にも見えてくる特徴をいくつかあげますと、日本では「真剣に仕事に取り組む」「判断力が優れている」が4割を超え、「判断力」に関しては香港も同様です。韓国では「部下に尊敬され、好かれている」が4割を超え、「部下に利益をもたらす」は中国、台湾でともに4割を超えます。こうして見えてきた特徴を多重対応分析などの手法を用いて分析していくと、結果重視の中国型、人格重視の韓国型、態度重視の日本型が、リーダーシップの3タイプということができそうです。

さらに、イー・ファルコンのご協力を得ながら、この結果に基づき英語圏と中国語圏の学生を3つのグループに上手く分類できるかについて、それぞれ学生への調査で検証してみました。 結果として言語には関係なく、結果重視は32%、人格重視は44%、態度重視は24%となりました。では、この違いはどこから生まれるのか。さまざまな設問を用いて探っていったところ、重視する項目が違う、それぞれの個人特性にも特徴があることが分かってきました。たとえば、韓国型に分類される人は、他者の視点から物を見る傾向があり、適応性は高く、感情の表出は非常にはっきりしている。中国型の人は豊かさを希求する傾向が強く、自ら進んで新しいことに挑み、気持ちの切り替えが早い。日本型の人は期待をされたらなんとしてでも応えようとする傾向があり、規律や道徳に厳しく、悲観的なものの見方をするようです。

最後にこれからの課題をまとめます。グローバル採用を考える際に、多言語対応はもちろんのこと、文化の多様性にも対応できる適性検査の開発が不可欠です。調査や分類を通して、生活履歴や生育環境から要請された個人の特性などをより正確に測定にできるツールが求められていると思います。今日お話した調査結果はほんの一例で、実際には男女比、年齢層別、学歴別など、あらゆる角度から研究を重ねてきており、まだ開発途中ではありますが、「入社前までに決定されている諸要因」を測定できる適性検査の可能性はもうある程度見えています。

※補足:現在、鄭先生と共同開発を進めております当社の適性検査は、秋口にバージョンアップする予定でございます。

適性検査を導入する際の着眼点

楠田氏鄭先生のお話を聞いてさらに思いを強くしたのですが、みなさまの企業が適性検査を導入する際の着眼点として、絶対に欠いてはいけないひとつのことを申し上げたい。なにかというと、その適性検査がどこの大学の研究者と一緒に開発したものかということ。それは極めて重要なことです。ご存じかもしれませんが、鄭先生は林知己夫先生の門下生です。林先生を誰にでも分かる2つのことで説明すると、ひとつは選挙速報。当選確実が出たら必ず当選する、アレです。もうひとつがテレビの視聴率。そうした社会調査、世論調査におけるサンプリング方法の確立を始めとし、数量化理論の開発とその応用で知られる先生です。なにが言いたいかというと、グローバル採用を考えたとき、スピーディに採用し、しっかり活躍してもらおうと思えば、こうした適性検査は非常に必要になってくるはず。そこで、みなさんが稟議書をあげるとき、起案をあげるとき、予算を計上しようとするとき、製造業で活躍する優秀な方たちにエビデンスを出すには、やっぱり「こういう先生が開発した適性検査です」ということが、非常に重要になってくるということです。

今はダイバーシティということで、グローバル採用が重要になってきたわけですが、ダイバーシティは女性を入れればいいとか、外国人を入れればいいというだけの問題ではない。ちゃんと活躍してもらわないといけない。だからこそ、そこにはエビデンス、サイエンスが必要だというところへきている。ぜひ、みなさんの会社がいろいろな人材が活躍し、世界で戦って勝って行ける形になっていただければと思います。そういう形の中で人事が機能して欲しい。それがわたしの研究テーマでもあります。

※追記 講演で紹介した結果は、東アジア、環太平洋、アジア・太平洋を対象とした価値観国際比較調査データの一部を用いたものとなっている。

まずはお気軽にお問い合わせください。

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