期末効果とは?誰もが陥りやすい評価エラーを防ぐ方法
人事評価において、「期末効果」という現象が存在します。
期末効果とは、評価実施の時期から見て直近の成果や出来事に、評価内容が過度に影響を受ける傾向のことです。
本記事では、誰もが陥りやすい評価エラーである期末効果を、どうすれば防げるのか、解説します。
期末効果とは?基本の知識
まずは、期末効果とはどのような現象なのか、基本の知識から確認していきましょう。
期末効果は評価エラーの一種
期末効果とは、“評価エラー”の一種です。
そもそも評価エラーとは何かといえば、評価者の主観や思い込み(認知バイアス)によって、定められた基準に基づく客観的な評価をできなくなることを指します。
非合理的な判断をしてしまうリスク要因であり、人事評価においては、意識して回避に努める必要があります。
▼ 参考:評価エラー関連記事
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評価を行う直前の事象に強く影響されること
本記事のメインテーマである「期末効果」は、評価を行う直前の事象に強く影響され、評価内容が左右されてしまう評価エラーです。
書籍『評価者になったら読む本』では、以下のとおり解説されています。
▼ 期末効果とは?
評価対象期間は、6ヶ月あるいは1年となっているところが多い。評価は、その評価対象期間の全ての行動や結果について行うのである。しかし人間の記憶は、6ヶ月前あるいは1年前のことは薄れがちである。評価用紙は、評価対象期間が終わるころ配布される会社が多い。それから評価に取り掛かるとなると、どうしても直前の行動や結果が強く印象に残っており、それらだけで評価してしまう。これを期末効果という。
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たとえば、4月〜9月の6ヶ月間が評価対象期間であり、9月末に評価シートの入力を行うとします。
本来であれば、6ヶ月間の出来事は、どの時期に発生しても、同等の重みを持つべきです。
しかしながら、評価者の印象に強く残るのは、評価シート入力時点から直近の行動や成果です。9月末の評価であれば、8月〜9月の出来事の印象が強くなります。
そのために、期初である4月からの評価内容を十分に反映できないことがあります。これが期末効果と呼ばれる評価エラーです。
期末効果の問題点
期末効果を放置した場合の問題点は、大きく2つあります。
まず、ほかの評価エラーと同様に、正当な本来の評価から、評価結果がかい離してしまう点が挙げられます。
昇給・昇格すべき人材が見逃されたり、改善の必要な人材に対応できなかったりするため、全体の組織力が低下する原因となります。
もうひとつ、期末効果に特有の問題として、企業にとってのビジネス成果が、期末に偏ってしまうことが挙げられます。
期末効果の傾向を持つ上司の下で働く部下は、
「同じ努力をしても、期初では評価されないが、期末にがんばったら評価される」
と考えるようになるためです。
部下のこのような考え方は自然な心理といえますが、ますます期末効果に拍車をかけることになります。
期末効果を防ぐためにできる5つの対策
期末効果は、具体的な対策を行うことで、予防できます。5つのポイントを、見ていきましょう。
1. 週次・月次の目標管理を行う
2. 中間レビューを行う
3. 複数人で多角的な評価を行う
4. チーム全体の通期業績を評価項目とする
5. 評価者研修を継続的に実施する
対策1:週次・月次の目標管理を行う
1つめの対策は、週次あるいは月次のように、期間を短く区切って目標管理を行うことです。
たとえば、月ごとに目標を設定し、月末に進捗状況を確認するよう習慣化します。
進捗確認のタイミングで、部下の観察記録をメモしておくとよいでしょう。期末の評価時に見返すことで、対象期間中をまんべんなく評価できます。
業績向上の観点から見ても、細かな目標管理は、好影響です。
進捗率などの問題に早期に気づけることや、部下のモチベーションが維持されやすいことが、その理由として挙げられます。
対策2:中間レビューを行う
2つめの対策は、中間レビューを行うことです。
週次・月次の目標管理を踏まえつつ、評価期間の中間で、成果や課題を確認する機会を設けます。
たとえば、4月〜9月の評価期間であれば、6月末〜7月頭のタイミングで、中間レビューを行うイメージです。
中間レビューでは、上司と部下で前半戦の実績を振り返り、目標達成度を確認しておきます。
改善が必要な部分があれば調整し、期末の目標達成に向けて、気持ちを新たに取り組む環境を整えます。
部下が抱えている悩みがあれば相談に乗ったり、アドバイスしたりすることで、サポートしていきましょう。
対策3:複数人で多角的な評価を行う
3つめの対策は、複数人で多角的な評価を行うことです。
これは、期末効果だけではなく、評価エラー全般に対して有効な対策です。
複数の立場や視点から評価を行うことによって、各評価者の認知バイアスの影響が軽減され、評価の偏りを是正できます。
たとえば、「360度評価」は、複数人で行う評価手法のひとつです。
360度評価では、上司・同僚・部下・他部署の従業員など、多方面の人物が評価者となります。
対策4:チーム全体の通期業績を評価項目とする
4つめの対策は、チーム全体の通期業績を評価項目とすることです。
これは、被評価者が期末効果を見越して、期末直前だけ集中的に力を発揮する動きを防ぐために、役立ちます。
チーム全体での長期的な成果が重視されることで、期末における、個人の短期的な行動変化を防げるためです。
目の前の成果に追われるのではなく、長期的な視野を持ち、組織の利益につながる行動を実践できるという観点でも、メリットのある対策です。
対策5:評価者研修を継続的に実施する
5つめの対策は、評価者研修を継続的に実施することです。
どのような評価エラーが存在するのか知っていると、それだけで、評価エラーに対する大きな抑止力になります。
評価エラーは、無意識の思い込みや先入観から起きるため、意図して意識する機会を持つことが重要です。
具体的には、毎年、評価を行う時期の前に評価者研修を実施すれば、評価エラーを意識し顧みることができます。
さいごに
筆者自身、会社員時代には、期末効果の影響を受けていたように思います。
しかしながら、人事評価に関する業務に携わるようになり、評価エラーを“知識”として学んだことが、転機となりました。
評価エラーに限らず、認知バイアスを完全に避けることは、難しいものです。「客観的で、合理的な判断をしよう」と強く決心しても、少なからず何らかの偏りが発生します。
必要なのは、評価エラーの存在を知り、自分はどのような評価エラーに陥りやすいのか理解し、“エラーに陥っている自分に気づく力”を高めることです。
人事評価を行うたびに、評価エラーのことを、思い出していただければと思います。
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。
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出所)河合 克彦『評価者になったら読む本 改訂増補版』p.80