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「人工知能(AI)を軸とした《データと人の未来》」

2017/02/14

  • 語り手 統計数理研究所名誉教授
    総合研究大学院大学名誉教授
    勉誠文化情報研究所所長 工学博士 村上征勝先生

※登場する方の所属企業、役職等は当時のものとなります。

はじめに

今は第3次人工知能(Artificial Intelligence)ブームと言われています。AIとは人間の脳と同じような知能・知性を備えたコンピュータのことで、最近日常生活の中でもAIに関する話題をよく耳にします。私は人文学の領域のデータ分析を専門としていますので、今日は人文学とデータ分析の観点から、AIについて考えていることをお話ししたいと思います。

第3次人工知能(AI)ブーム

人類最初のコンピュータとされるENIACの登場は1946年です。したがって、コンピュータの歴史はまだ70年程度に過ぎません。ただその進歩の速度には驚愕すべきものがあります。

初期のコンピュータはプログラムを用いた高速のデジタル計算の機械でしたが、計算の基本はAND、ORというような論理演算にありました。その論理演算を利用すると人間のような知的情報処理システムが構成できるとして研究が行われたのが第1次AIブーム(1950年代後半~1960年代?)といわれた時期でした。高速の演算と検索機能を使って問題を解くプログラムや、パターン分類のために人間の神経細胞と同じ機能を示すような簡単なモデル(パーセプトロンなど)の開発が試みられました

その後の第2次AIブーム(1980年代?)では、ニューラルネットワークと呼ばれる脳の神経回路網のモデル化や、たとえば、医学的な知識や医師の経験をコンピュータに記憶させ、医師と同様の判断ができるエキスパートシステム(Expert System)などの構築が試みられました。しかし医師などの専門家は入力されたデータ以外の多くの情報を用い総合的判断しており、そのような総合的判断能力をエキスパートシステムで実現するのは難しいという事で第2次AIブームも終わりました。

そして、今は第3次AIブームといわれており、コンピュータが自ら知識を吸収し学習して推論する能力を有するシステムの構築が試みられています。そこでは、サポートベクトルマシンとか判別分析など、多変量統計分析の手法が用いられています。ビックデータという言葉をよく耳にしますが、コンピュータの進歩は、これまでとは桁違いの多くの変数や膨大な量のデータを記憶し分析することを可能としました。AIの領域で、コンピュータの素子数が人間の脳の神経細胞の数を上回る時点をシンギュラー・ポイント(技術的特異点)といいますが、それが2045年だという予測があります。もしコンピュータが人間と同じ知的活動ができるようになっていれば、この時点で人間はコンピュータに凌駕されることになります。しかしそれはないと思います。

人工知能(AI)の優れている点

何故でしょうか。知性を持ったAIを実現するのは、現在の研究の延長上では無理で、ハード、ソフト共にブレークスルーとなるアイデアが必要のような気がします。ただ現状でも人間がAIに敵わないところがあります。

AIが優れているのは何と言ってもデータの検索スピードとその正確さではないかと思います。膨大な量のデータ(選択肢)の中から必要なデータ(選択肢)を検索するスピードと正確さに関しては、人間はAIにかないません。

有限個の選択肢の中からある目的関数を最大にする最適な選択肢を探しだすスピードはコンピュータの方がはるかに優れています。たとえば碁や将棋のようなルールが明確な理詰めのゲームでは、どのような状況になれば勝つことになるのかを示しさえすれば、AIは勝つ選択肢を探し出します。先日、世界有数の韓国の囲碁棋士がコンピュータに負けました。将棋では、日本の女流名人と情報処理学会の中の将棋プロジェクトのプログラムの対戦では、コンピュータが勝ってしまった。情報処理学会は勝つのが分かってしまったので、プロジェクトは終了すると宣言しています。

このように碁や将棋のような理詰めのゲームは原理的には必ずコンピュータが勝ちます。ただ囲碁の場合のようなに選択肢が膨大になると、これまではすべての手を読み切るのは高速のコンピュータでも難しいところがありましたが、近年「ディープラーニング(特徴抽出による多層型の深層学習)」という学習法により飛躍的に先まで読める方法が開発されました。したがって、碁や将棋におけるAIと人間の対決はこの数年でなくなるような気がします。

人間のほうが優れている点

AIが弱い部分もあります。「ロボットは東大に入れるか」というプロジェクトでは、大学入試の過去問のデータや入試に出そうな種々の知識を入力したコンピュータで東大入試の合格点を取ろうと進められてきました。この「東ロボくん」と呼ばれるAIはかなりの大学で合格点を取れるようなレベルに達したという事ですが、問題文の理解が難しく、この取り組みは今年度で凍結することになったようです。文章の理解がAIの弱点の一つです。

文章と言えば、AI作家の登場という事もニュースになりました。コンピュータの書いた小説が、ショートショートで有名な星新一賞の一次審査を通過したというのです。文章の理解がAIの弱点ですから、実際にはコンピュータが零から文章を作り出したという事ではなく、人間が筋書きし、入力した小説の文章データの中からある基準に従い文章を選び出し、構成したようです。感動を与えるには、このように表現すべきというような自ら思考する能力はAIにはありません。時候の挨拶の手紙のような、形式化された文章は作成できても、人を感動させるような小説を書くことはまだまだ無理なようです。

次に、「Tay(テイ)」という会話型AIロボットが提起した問題を紹介します。「Tay(テイ)」は人間との会話の中で「ヒットラーは英雄だ」と返答したことで問題になりました。おそらく入力された会話データの中から、会話に多く出てくる文章を選ぶようにプログラムされていたのではないかと思います。もしそうなら、悪意を持った人間が「Tay(テイ)」とこのような会話を多くしていると、このような発言が出てくることは十分考えられます

残念ながら現時点の会話型AIロボットは、常識もなく善悪を判断する能力も有していません。別の会話型AIロボットの「Sophia(ソフィア)」「りんな」も同じような問題を起こしました。

したがって今後多様な会話型AIが出現した場合に、それらのロボットがどのような性格のロボットとであるかの客観的な評価(アセスメント)が必要になるような気がします。

アセスメント(評価)はどのようにすればよいのか

会話型AIのアセスメントがどの程度議論されているかわかりませんが、イー・ファルコンで行っているような人間に関するアセスメント(人材アセスメント)が会話型AIのアセスメントにも必要になると思います。そこで定量的なアセスメントで何が重要かについて簡単にお話しいたします。

まず重要なのは評価に必要な情報は何かを検討することです。ゴミのような情報をたくさん集め、精密な分析を行っても何も得ることはありません。評価のためにどのような情報が必要か、たとえば会話型AIの善悪に関する判断を聞くときに、①どのような情報が必要か、ここが評価を行うときに最も肝要です。

次に重要なのは②その情報をどのようにデータ化するかという事です。質問票を用いた調査では質問の仕方で回答は変わります。会話型AIの性格を把握するには、どの様な会話文、質問文(評価のものさし)を用いるかがポイントになります。 また③どのような方法でデータを分析するのか、④分析結果から現象解明のための知見をどのように得るかも重要です。

これらには一般に何が正解か不明ですので分析者の経験が重要となります。たとえば④ですが、分類ソフトで機械的に個体を分類できても、なぜそのように分類されているかを知ることが評価を考える場合重要なのです。これはソフトだけでは出てこない。クラスター分析(データの類似性から個体を分類する分析手法、クラスターとは群のこと)では、分類結果が視覚的に明瞭ですが、なぜそのようなクラスターとなっているかは、分析結果であるデンドグラム(クラスター分析の出力結果、樹形図状に個体が束ねられる)からは得ることでできないのです。

人文学教養を持つ研究者を

今、私が課題にしているのは、AIと人間の知性との関係です。汎用型AIの研究というのは、知識の統合化の方向に行こうとしているのですが、それは工学の知識などいろいろな知識を統合化しないとできないからです。

 それに対して、学問分野は残念ながら知識の細分化の方向に進んでいます。  

 大学に様々な学部があり、その中に幾つかの学科があり、さらに学科の中が細かく分かれてスペシャリストを育成しています。細密な最先端の研究を行うスペシャリストの育成は学問の発展には不可欠ですが、研究が細分化され、その分野のスペシャリストになればなるほど、周りが見えない蛸壺型の研究に陥る可能性があります。 

近年、幅広い知識を有し、学問領域全体を見渡し総合的な判断ができるジェネラリストの育成が見直されています。ただスペシャリスト、ジェネラリストいずれの育成においても欠かせないのは、人間の本質を考える人文学ではないかと思います。人間はどうあるべきかという最も根幹的なことを思索することが、人類にとってAIの発展はどうあるべきかという視野の広がりに繫がって行くと思います。原爆の開発のように、研究としてその分野の最先端のことを競い進めていくと、後戻りができなくなってしまう事があります。

人類の進歩にとって、何が重要で、何が善くて何が悪いのか、というような判断ができる健全なAIの開発やそのアセスメントを行うには、まずその研究を行う人間の健全さが求められます。そのような人間を育てる要となる学問分野が、私は人文学だと思っています。

編集追記)
村上先生のお話は次にも掲載しています。
~データサイエンスを志す若い人たちへ~
→http://www.e-falcon.co.jp/ef-1g/case/voicearticle23/

まずはお気軽にお問い合わせください。

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