適性検査のさまざまな側面と活用する際の留意点
現在はさまざまな場面で「適性検査」が実施されています。
学校や自動車学校で、あるいは企業の採用試験時に「適性検査」を受けたことのある方も多いのではないでしょうか。
では、そもそも適性検査とはどのようなものでしょうか。
本記事では、適性検査について、その歴史、目的と意義、メリットと限界、そして活用する際の留意点など、総括的にわかりやすく説明します。
適性検査の歴史とGATB
まず、適性検査の歴史を辿り、典型的な適性検査といわれるGATBの概要をみていきます。
適性検査の歴史
適性検査は、「ある職業に従事したときに、その人がその職業に必要な能力やスキルを将来的に十分に発揮できそうかどうか」について測定するツールとして開発されました。*1
アメリカでは1947年に「一般職業適性検査 (GATB: General Aptitude Test Battery)」が公表されました。これが最も典型的な適性検査だといわれています。
アメリカでは第一次世界大戦を機に、 軍隊での兵士の最適な配置を目的として、心理学者によって、各種検査の開発が進められました。 GATBもこの研究の流れを受け、米国労働省雇用安定局が1934年から10年余りの歳月をかけて完成させました。
このGATBは、紙筆検査と器具検査を含む15種類の下位検査から構成され、各種職業の遂行に必要とされる能力 (適性能)を測定することを目的としています。
その後、1950年代半ばに、アメリカの研究者によって職業適性は「職業適合性」として再定義されました。その職業適合性とは、以下の2つの要素から構成されます。
・ 能力:適性、技量、学力、技能
・ パーソナリティ:適応、価値観、興味、態度
こうして適性検査は、狭義の能力だけでなく、個人の特性についても測定する検査という形で発達するようになりました。
厚生労働省版GATB
アメリカで開発されたGATBは、第二次世界大戦後、日本にも紹介され、当時の労働省によって、日本人向けに翻案・標準化されました。その日本版GATBが1952年に公表されて以降、60年以上にわたって研究・改訂が重ねられてきました。 *2
現在は、厚生労働省編一般職業適性検査[進路指導・職業指導用](通称GATB)として、進路指導や職業指導の分野で広く利用されています。
「典型的な適性検査」がどのようなものか、その概要をみていきましょう。
GATBの目的は、能力面からみた個人の特徴を理解し、望ましい職業選択を行うための情報を提供することで、以下のような3機能、9適性能力を測ります(表1)。
9種類の適応能力は、多様な職業分野で仕事をする上で必要とされる代表的な能力です。
出典:一般社団法人 雇用問題研究会「厚生労働省編一般職業適性検査」p.4
http://www.koyoerc.or.jp/assets/files/pdf/GATB%20for%20school%20booklet.pdf
検査は、紙筆検査11種類と器具検査4種で測定します(図1)。
出典:一般社団法人 雇用問題研究会「厚生労働省編一般職業適性検査」p.4
http://www.koyoerc.or.jp/assets/files/pdf/GATB%20for%20school%20booklet.pdf
検査結果は、検査実施後、手順に沿って採点、換算、整理の作業をすれば、その場ですぐみることができます。
適性検査の目的と意義
次に、労働政策研究・研修機構の室山晴美研究員による見解に沿って適性検査の目的と意義を押さえていきましょう。
そして、その上で、その意義に関する興味深い研究結果をみていきたいと思います。
適性検査の目的と意義
まず、適性検査の目的は次の2つに大別できます。*1
1)人材選抜
例:企業が採用の際に自社の人材としてふさわしいか判断する。社員の配属先を決めるときに職務に合致した人材を選ぶ基準にする。学校の入学試験で、選抜の基準にする。
2)自己理解の促進
例:求職者が適切な職業を選択するために、自分自身の能力や興味を理解する。職業相談において、担当者が求職者の能力や興味を理解し、適切な就職先を探す手がかりにする。教師が進路指導の材料として使う。
次にそれぞれの意義を考えてみましょう。
まず、1)人材選抜の場合は、検査によって選抜した人材が、企業や教育機関が期待していたとおりの成果や成績を上げた場合に、検査を実施した意義があったと捉えられるでしょう。
一方、2)自己理解の場合には、検査を受けた人が検査結果をみて、自分の特徴が理解できたと納得し満足できた場合は、意義があったと考えていいでしょう。
さらに、そのことによって、本人にマッチした就職先や進学先が決まれば、検査の目的が達成できたことになります。
例えば、前述の厚生労働省編GATBのパンフレットには、この適性検査を受けた生徒や学生による以下のような感想が掲載されています。*2
- どんな職業に就くか、自分ができる仕事は何か、まったくイメージが湧かずに途方に暮れかけていた。受けてみて自分の適性がわかり、方向性を見いだすことができた。具体的な職種もイメージがつかめてきた。
- 自分がこれまで知らなかった職業についても自分の可能性があると知ることができたので、それらの職業についても調べてみようと思っている。
- 能力という面で職業を見て、自分が視野に入れていなかった職業も見られてよかった。
- 下位検査の結果から、自分の得意なところ、不得意なところが詳しくわかった。特に得意なところはこれまで考えていたとおりだったので自信がついた。
しかし、実際には、受検者は必ずしもこうしたポジティブな感想を抱くとはかぎらないようです。
大学生は予想外の適性検査結果にどのように反応したか
興味深い研究結果があります。
それは、適性検査の結果が対象者の認識に沿わない場合に、どのような反応が生じるのかについて、大学生を対象として検討した調査です。*3
適性検査の結果は、自身の認識に沿う場合も沿わない場合も十分にあり得ると考えられます。しかし、その検査が意義あるものとなるためは、検査結果が自身の認識に沿うか沿わないかを問わず、検査結果の受け手が、それを自己理解に活用しなければなりません。
では、研究結果はどのようなものだったのでしょうか。
全体的な傾向として、学生は自分の認識と異なる検査結果に対して、自己理解に反する不適切な対応をしているとはいえないものの、有益な反応をしているともいいがたいことがわかりました。
唯一、自己理解の進展につながりやすかったのは、「自分に合わないと感じる職業」のリストを手にし、それに対して興味や好奇心を感じた場合に限定されていると、指摘されています。
「自分に合わないと感じる職業」のリストを手にした場合、自分には合わないという認識が事前に存在するため、困惑や混乱といった感情が生起しがちです。
しかし、感情的反応の平均値をみると、「興味深さ」や「好奇心」といった肯定的な感情も否定的な感情と同程度感じられていました。このような感情は、意外な検査結果を受けて、それまでの自身の認識と検査結果とのズレに対する再検討や、自身が理解不足であったという認識、さらには事前の自己認識の再検討につながり、自分の新たな可能性を考えることとも関連しています。
ただし、それ以外の場合は、自己理解の進展にはつながらない対処がみられました。
同研究を行った研究者は、適性検査を自己理解のために活用しようとする際には、対象者にはこういった傾向があることに留意する必要があると述べています。
検査結果と自己認識にズレがある場合、各種の認知バイアスが働くことが考えられるからです。
しかしそれと同時に、そのことは学習のきっかけにもなり得ます。
同研究結果からは、そこから自己に関する学習が始まり自己理解が深まる場合も、反対にまったく自己理解に影響のない認知的処理がなされる場合もあることが推察されています。
適性検査は、自己理解のためのツールとして重要な位置を与えられています。その有用性や意義を十分に享受するためには、今後、受検者がどのような検査結果をどのように受け止めるのか、上のような検討をより詳細に行うことが必要でしょう。
適性検査実施のメリット
適性検査を実施するメリットは、以下の4点と考えられています。*1
1)客観的に評価できる
面接や観察による評価では、たとえ複数の評価者が立ち会ったとしても、評価者の主観は排除しきれません。一方、適性検査は、数値として集約でき、評価者の主観が入り込む余地はありません。
2)信頼性の高いデータが得られる
適性検査は標準化されています。その過程では、大量のデータに基づいて、尺度の信頼性や妥当性の検証、基準の作成が行われます。そのため、その検査結果として得られる得点は、統計的観点からみて、非常に信頼性が高いものです。
3)短時間で効率的に多くの情報を集約することができる
適性検査は、その検査が測定しようとする要因を効率的に測定できるように項目を選択し、結果が表示されるように工夫して作られています。そのため、同じ条件で多人数の人に対して一斉に実施できることも大きなメリットです。
4)継続的な実施により、過去のデータと比較できる
継続的に実施することによって、同一の個人データを比較し、変化をみることができます。また、ある集団と別の集団とを比較することもできます。
適性結果の限界
適性検査がいかにすぐれたものであっても、それですべてが測れるというわけではありません。適性検査を適切に活用するためには、以下のような限界を理解しておくことも大切です。*1
1)個人の特徴には適性検査では測定できないものがある
適性検査の結果は数値化され示されますが、その一方で、数値化が難しい特性もあります。
例えば、創造性や企画力、応用力です。また、仕事に対する意欲や就業意識、社会的適応力も適性検査だけでは測りきれません。
2)適性検査による測定には常に一定の誤差が含まれる
例えば、その検査を十分に理解していない実施者が実施した場合、あるいは受検者の体調や精神状態が結果に影響を与えることもあります。また、緊張して実力が発揮できない人や場所に適応するのに時間がかかる人も、不利になることがあります。
3)1回限りの検査による将来の予測妥当性には限界がある
検査は実施時点の個人の特徴を捉えることはできますが、その個人が経験や学習、おかれた環境によってどう変化していくかを正確に予測することはできません。
4)就職は適性のみでは決まらない
例えば、適性検査の得点が高かった場合、どのような仕事にも適性があるという結果になることもあります。しかし、だからといって、「適性がある」と示されたどの仕事にも就けるということは実際にはあり得ません。その仕事の求人がなければ、あるいは必要な資格がない場合には、検査で「適性がある」という結果が示されても、実際の就職につなげるのは難しいのです。
このことは、検査を実施する意義を考える上で、常に批判にさらされ、問われている、適性検査の限界です。
適性検査を適切に活用するために
最後に、適性検査を活用する際の留意点についてみていきます。
これまでみてきたように、適性検査を実施することには、メリットも限界もあります。まずそれらの両方を理解し、検査の持つ特性をよく理解することが大切です。
また、受検者や目的にふさわしい検査を選び、その実施方法や解釈に熟練することが欠かせません。特に入社試験など評価を目的として適性検査を行うときには、どのような人材を採りたいのか、結果をどのように活用するのかを明確にした上で、適切な検査を選ぶことが必要です。
実施前に受検者に検査についてよく説明し、検査結果が出た後には、その結果をふまえて注意深く支援する必要もあります。
そして、適性検査の限界をふまえ、検査結果だけではなく、総合的に対象者を評価できるようなシステムを構築することが、逆説的ですが、適性検査を適切に活用するためには欠かせない方向性といえるでしょう。
博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
*1
室山晴美「適性検査を活用する有効性について」 (日本労働研究雑誌 No. 573/April 2008)pp.58-61
https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2008/04/pdf/058-061.pdf
*2
一般社団法人 雇用問題研究会「厚生労働省編一般職業適性検査」p.2, p.4, p.8
http://www.koyoerc.or.jp/assets/files/pdf/GATB%20for%20school%20booklet.pdf
*3
浦上昌則「大学生は予想外の適性検査結果にどのように反応するのか」(南山大学紀要『ア
カデミア』人文・自然科学編 第14号 2017年6月)pp.35-36, pp.47-48