新卒層は、Z世代(一般的に1990年代半ばから2000年代序盤以降に生まれた世代)に当てはまる。
20~59歳に対する調査『2022年世代間ギャップ調査(Job総研)』*1は、『(Z世代について)仕事上で世代間ギャップを感じるかについて、(全体ベースで)「すごく感じる」22.3%と「やや感じる」51.4%を合算した73.7%が世代間でギャップを感じると回答しました。』と報じている。
また、同調査によると、『(どのような時に)ギャップを感じるかについては、全体の95.9%が「仕事に関する考え方」で最多回答』であるという。この世代間ギャップは、客観的に見ても大きな数字であり、このギャップは放置できないと考えられる。
イー・ファルコンもこの問題を重視しており、新卒のプロファイル理解と情報発信に努めている。今回は、現大学3年生に対する総合調査の中から、企業選択観についての分析結果の一部を紹介する。
この世代間ギャップに対してどういう対応をとるべきか?まずは新卒の企業観を、2つの側面から体系的に分析した。
一つは、企業選定基準の側面。もう一つは、企業選択における意思決定態度の側面。この2軸から、企業選択観に対する構造を分析した。
ちなみに、新卒採用面から俯瞰的に見た新卒の全体的な仕事観については、eF-1G(エフワンジー)ベースの新卒の傾向分析に譲る。*2
本稿では、現大学3年生の企業選定基準/意思決定態度の構造を、ピープルアナリティクスの視点から明らかにする。一般的に企業選定に向けた意思決定は、多目的意思決定として取り扱われる。
具体的には、様々な複数の目的を同時に満足させる理想的な最適解(パレート解群)を、意思決定者が何らかの判断で優劣付けを行い、最終的に、自己にとっての選好解を、主観的に選択する一連の過程で決まる。
上記のように、様々な要因が複雑に絡み合う関係の中で行われる主観的なトレードオフ関係の構造分析は簡単ではない。
意思決定にかかわる項目の中から重視するものを選ぶ方法*3や、各項目の重視度を測定する尺度法*4のような通常調査では多目的意思決定の構造は明らかにできない。このような多目的意思決定を可視化できる手法は、階層分析という特殊な手法である*5。
イー・ファルコンでは、現大学3年生の企業選定基準/意思決定態度の構造を明らかにすることを目的に、2022年3月に現大学3年生、男女合計694人に対し階層分析を行った。
企業選定基準に対する認識構造を可視化したものが、「グラフ1:企業選定基準構造」である。
このグラフは、各プロット(グラフ中の様々な色の●)の位置(縦軸=Y軸=優先度を表す指数)が高いほど、企業選択基準におけるトレードオフ上で優先順位の程度が相対的に高いことを示す。
また、縦にひいてある補助線上で隣り合うプロット同士の間隔が広いほど、そのプロット項目間のトレードオフにおける優先度の格差が大きいことを示している。
グラフ1から、全体ベースで現大学3年生が企業選択時で最優先する項目は、「自社の金銭的メリット(賞与や福利厚生含める)」である。
以下、「自社と自分との相性(社風や業種など)」「自社の知名度の高さ」「自社の企業活動(将来性、成長率、規模など)の実績」「自社の商品やサービス開発における顧客との協創性」「自社の社会貢献活動(将来性やESG、SRI含める)の実績」の順である。
「自社の知名度の高さ」「自社の企業活動の実績」の優先度の差が相対的に小さい傾向がみられる。これは、この両項目が強く関連付けられて認識されている可能性を示唆している。
この優先順は、理系と文系、男性と女性で変わらないが、項目ごとの優先度の構造(プロットの位置とプロット同士の間隔の違い)は異なる傾向を示している。以下、理系と文系、男性と女性別に傾向差を見ていく。
先ず理系では、「自社の金銭的メリット」の優先度が突出して高い。理系で「自社の金銭的メリット」の優先度が突出して高いのは、市場的に理系は文系に比べ相対的に給与が高い*6傾向を意識してのことと考えられる。
次いで「自社と自分との相性」が続くが、「自社の金銭的メリット」との優先度差は大きい傾向がある。
三番目に優先して考えるのは「自社の知名度の高さ」と「自社の企業活動の実績」の2項目が近似して並ぶ。
「自社の企業活動の実績」は、全体に対して相対的に優先順位が高い傾向にある。
また、理系では、「自社の知名度の高さ」に対する優先度が全体に比べ低い。企業ブランド以上に、給与最優先で仕事内容を重視する傾向が示唆されている。
文系は、最優先項目「自社の金銭的メリット」の優先度が理系よりも低い。逆に第2優先項目「自社と自分との相性」は、理系よりも優先度が高い。結果、「自社の金銭的メリット」と「自社と自分との相性」の2項目間の優先度格差が小さくなる傾向が特徴的である。
このことは、給与と自分と企業との相性見合いを重視する傾向を示唆している。
さらに、「自社の知名度の高さ」に対する優先度が高い点も特徴的である。文系は、自分との相性と企業ブランドを重視する傾向がみられる。
男性は、「自社の金銭的メリット」の優先度が突出して高い。
最優先の「自社の金銭的メリット」と第2優先項目「自社の知名度の高さ」の間隔差が大きく開いている。加えて、第2優先項目と第3優先項目「自社と自分との相性」がほぼ同率で優先されているのが特徴的である。
特に男性は、「自社と自分との相性」に対する優先順位が相対的に低い点も特徴的である。
このことは、「自社の金銭的メリット」が確保できれば、「自社と自分との相性」は多少優先順位を劣後させても「自社の知名度の高さ」にこだわる(給与と企業ブランド重視)傾向を示唆している。
女性は、最優先項目「自社の金銭的メリット」と第2位優先項目「自社と自分との相性」、また、第3位優先項目「自社の知名度の高さ」と第4位優先項目「自社の企業活動の実績」それぞれの2項目の優先度がほぼ同じである。
一方、最優先項目「自社の金銭的メリット」と第2位「自社と自分との相性」のセットと、第3位「自社の知名度の高さ」と第4位「自社の企業活動の実績」のセットとの格差が非常に大きい点が特徴的である。
女性は、自分らしく働き金銭メリットを得るという実質領域を最優先し、次いで活動的で有名企業での就業という自分の参加価値を優先という、優先領域の2分化傾向が顕著である。
一方、現大学3年生は、上記の企業選択基準をもとに、どのような態度で、企業選択の意思決定を行っていくのかを可視化したものが、「グラフ2:企業選択の意思決定構造」である。
このグラフ2の各プロットの位置に対する見方は、先のグラフ1と同じである。
グラフ2から分ることは、企業選択の意思決定は、独りではしないという基本構造は共通している。
一方で、文系理系、また男女で意思決定のトリガー(関与因子)の強さに差がある。言い換えると、企業選択の意思決定構造は、ターゲット層全てで異なる可能性が高いということである。
分析から、意思決定には2つのトリガーが重要であることが分かる。具体的には、意思決定の過程のトリガー(「大事なことは、頼りになる他人の意見を受け入れながら決める」)と、意思決定後の実行動に対する認識のトリガー(「何事も他者の助けがなければなしえない」)である。
これらのトリガーは、共に、他者の影響下にある。
企業選択の意思決定は、周囲からの影響に大きく依存することを示唆している。このことは、内定辞退問題含め、最終の入社に導くうえで、学生のステークホルダー(両親や学生課、各人事系メディア情報や自社の情報発信など)対策の重要性が示唆された結果となっている。
理系は、「大事なことは、頼りになる他人の意見を受け入れながら決める」と「何事も他者の助けがなければなしえない」のツートップが突出して高い。意思決定の過程や、意思決定後の実行動の連動性の一致も強い。
一方で、「自力で乗り越えられないものなどない」という意思決定後の実行動認識が全体より低い。このことは、企業選択の意思決定が、周囲からの影響に大きく依存に加え、最後には自力で何とか乗り切れるはずという自負意識が弱く、企業選択決定に他者からの影響が非常に強いことが示唆される。
文系は、「何事も他者の助けがなければなしえない」と「大事なことは、頼りになる他人の意見を受け入れながら決める」のツートップが高いのは理系と同じだが、「何事も他者の助けがなければなしえない」が最優先事項と意識されている点は、文系独自の傾向である。
一方、この2項目の優先度は共に理系よりも低い。この2項目の間隔差も小さい。このことは、他者依存の傾向が、理系以上に強固であることを示唆している。
このことは、企業選択の意思決定全体が、周囲の影響に大きく依存していることを示唆している。総合的に見て、文系はかなり他者依存度が高い可能性がある。
男性は、突出した意思決定のトリガーがないのが一番の特徴である。
「大事なことは、頼りになる他人の意見を受け入れながら決める」と「何事も他者の助けがなければなしえない」は、意識上の優先順位は低いながらも、ほぼ等しく重視されており、他者依存の強さが顕著である。
一方で、「自力で乗り越えられないものなどない」という意思決定後の実行動意識は相対的に高いが、上記2項目との間隔差は大きく、結果、他者依存傾向の対抗性は低いとみなされる。
このことは、他者からの情報をもとに、「大事なことは全て自分一人で決める」という意思決定の過程を経ずに、自力で乗り越えられると思われる範囲内において、意思決定後の実行動(「自力で乗り越えられないものなどない」)をとる傾向を持っていることを意味している。
換言すれば、他者情報ベースに、自分の器の範囲内に収まるであろう企業を決めていく傾向を示唆している。
女性は、「大事なことは、頼りになる他人の意見を受け入れながら決める」と「何事も他者の助けがなければなしえない」がともに突出して高く、2項目とも同じ程度優先されている点が特異的な傾向である。
このことは、他者の意見をもとに自分の意思も決めるという非常に強い他者依存傾向を示唆している。「自力で乗り越えられないものなどない」と、上記2項目の格差も非常に大きく、実質的に他人の情報に従って意思決定するという、受け身的な企業選択態度の傾向が強く示唆されている。
今まで見てきたように、現大学3年生については、学部系列別性別で意思決定の構造が異なる。
現大学3年生の企業観の持ち方については、学部系列別性別にきめ細かく検討して見極めていく必要がある。
加えて、企業選択の意思決定に他者からの情報が非常に重要であることが明らかになった。このことは、採用には、学生のステークホルダーへの戦略的な情報発信が不可欠であることを意味している。
いずれにしても、採用候補学生の客観的なプロファイリング(ピープルアナリティクス)と、採用候補学生のステークホルダーへの計画的な情報発信管理(コミュニケーション最適化)いう、2つのデータサイエンス手法の活用が、現大学3年生の採用には肝要であると考えられる。