2022年卒の企業調査*1によると、採用活動の印象として「厳しかった」と回答している企業は約8割となっています。主な理由として「母集団の確保」とあわせて「内定辞退の増加」が挙げられています。
2023年卒の学生調査*2からは、6月12日時点で内定取得企業数が2社以上の学生は61.4%で一昨年よりも10%以上も増えています。
2023卒も内定辞退が課題となっていくことが想定されます。
内定辞退、または内定承諾の要因はどういったものがあるのでしょうか。2022年卒の学生調査*3によると、内定先に決めた理由として「仕事内容」と「人(人事や社員の人柄や雰囲気)」が上位にあげられています(図1)。「人(人事や社員の人柄や雰囲気)」という回答は前年よりも4.8ポイント増加しています。
オンライン採用が浸透する中においても「人」への関心が、学生側では特に高いことが明らかになりました。
加えて、内定先の企業で働きたいと強く思ったタイミングは、「面接など選考を重ねていく中で徐々に」が34.1%で最多となっています。
別の調査*4でも、「志望度があがったエピソード」として「人事や面接官の印象」が多く寄せられている一方で、圧迫面接を代表に面接官の態度によって志望度が下がったという声も多く挙がっています。
これらを勘案すると、内定辞退の判断基準は、「仕事内容」に並んで、人事や面接官から感じられる「人柄」や「会社の雰囲気」であると考えられます。
決して多くはない限られた面談や面接回数の中で、入社に不安を感じている内定者(内定フォローアップ対象者)の客観的な予測と把握は非常に困難です。
仮に面談や面接を通して適切に内定フォローアップ対象者を予測・把握できたとしても、その判断法は属人的であり、さらに暗黙知化しやすく、継続的に組織で活用できる手法とはならない場合が多いと考えられます。
一方で、昨今、内定フォローアップ対象者をAIなどで予測する精度も向上しています。しかし、AIは非常に多くの項目を統合して高度で複雑な計算で、純数学的に内定フォローアップ対象者を、選別・抽出するだけの機能しかありません。
ピープルアナリティクス*5に長く携わっている筆者の経験から、AIを有効活用するにはいくつかの前提条件が必要となりますが、現状では、この前提条件を意識して活用しているケースは非常に少ないという印象を持っています。
実際、何らかのデータをもとにAIで内定フォローアップ対象者を正確に予測できたとします。しかし、対象者の特定以上に重要なのは、その対象者個人々々への具体的で直接的なフォローアップ・プランなのです。
この具体的で直接的なフォローアップ・プランを個別に組み立てていくには、以下の3点のつながりを可視化し、一人ひとりに合った具体的なアクションを明確にしていく必要があります。
フォローアップのための個々人特有のキーポイントが明確にならない以上、内定辞退率を大幅に改善することはかないません。
①AIが内定フォローアップ対象者を選別・抽出する際にカギとなった因子群と、その因子群の関係性(各因子群の構造を定義する計算過程)
②内定フォローアップ対象者に必要な具体的なフォローアップ施策の内容と上記①との直接的な結びつき
③内定フォローアップ効果を左右するアプローチに欠かせない個々人で微妙に異なる心理的な意思決定基準の機微(性格特性)の具体的な情報
これらは、一言で言えば、内定フォローアップ・アプローチには、適切なデータを活用したピープルアナリティクスの活用が必須であるということです。
意思決定という極めて個人の内心に関わる内定フォローアップ・アプローチを成功させるには、個々人の性格特性の正確な理解が不可欠です。言い換えると、高感度な適性検査の仕組みの有無が、内定フォローアップ・アプローチの成否を決定づけるとも言えます。
この様に、データを活用した個々人の性格特性の正確な理解を基準にした内定辞退の低減策は、下記図2に示した手順*6で実現化できます。
Step1:面談では判断しにくい個人の辞退意向の心理的決定要因を、適切な設問項目で構成されたデータから可視化します。
Step2:内定フォローアップ対象者の辞退意向に影響する、意思決定構造を行動心理学的手法から解明します。
Step3:最後に彼ら/彼女らの辞退意思決定を個別に特定し、防止に有効なアプローチ方針を、データ分析から具体的に導出します。
Step4:アプローチ方針に従い、内定フォローアップ対象者の意思決定要因に影響する、各企業に合ったピンポイントな施策案を設定します。
内定フォローアップ・アプローチに個々人の正確な性格特性を反映させた事例*6を紹介します。
図3に示すように、一般的に内定辞退の意思決定には、「業務能力のポテンシャル」、「リレーション構築力」、「メンタルケア力」、「自己形成を支える経験の豊かさ」という4大心理的因子が複合的に影響しあっていることがわかっています。そして、これら4大心理的因子は次のようなサブ因子群から構成されます。
個々人の内定辞退の意思決定の違いは、上記の4大心理的因子とそのサブ因子群の構成パターンの違いによって統計学的に定義づけられ可視化できます。
例えば内定フォローアップ対象者Aさんの上記4大心理的因子とそのサブ因子群の構成パターンを解析することで、次のような傾向が示されたとします。
「業務能力のポテンシャル」分析結果:
①意思決定に必要な基礎力が弱い傾向がある
②目的意識を持った行動力が低い傾向がある
③イメージ先行で行動が伴わない傾向がある
④優柔不断で他責にしたがる傾向がある
「リレーション構築力」分析結果:
⑤自己肯定感が低い傾向がある
⑥自己中心的な傾向が強い
⑦傾聴力が低く、内弁慶な傾向がある
「メンタルケア力」分析結果:
⑧ストレス全般に弱い傾向がある
⑨他者に対しての謙虚さにかける傾向がある
「自己形成を支える経験の豊かさ」分析結果:
⑩過去の成功体験が少なく、意思決定に有益となる拠り所が少ない傾向がある
以上のような①~⑩の特徴から、内定フォローアップ対象者Aさんの性格特性は、「目的やゴールに向かって自ら選択していくことがそもそも苦手(上記①②④⑤から導出)であり、面接官との関係をあまり考慮せず(⑥⑦⑨)、合理的に突き詰めて考えるプレッシャーに耐えられず(⑧)に、イメージ先行(③)に流され、最終的に合理性とは言えない理由で翻意してしまう」という人物像として仮定されます。
では、内定フォローアップ対象者の性格特性が明らかになった場合、どう対処すべきでしょうか。
実際の性格特性に応じたケーススタディの要旨を2つ紹介します。
ケース1:内定フォローアップ対象者Bさんは、適性検査(eF-1G:エフワンジー*7)のプロファイル分析によって、「意思決定に必要な基礎力が弱く、関係性づくりに消極的で、特に誠実性や寛容性という他者への配慮に向けた意識が弱い傾向がある」という特徴が見出されました。
この場合、面接官には、次の対応を推奨します。
◆面談の場で、共感的な対話を通して信頼感が成り立つようにしながら、内定に至った企業側の具体的な期待を伝え、自分事として自覚するように働きかける
ケース2:内定フォローアップ対象者Cさんは、「マネジメントが苦手で、自分の意思のバックボーンに対する本質的な自信が低く、リーダーシップを通しきれない」という特徴が見出されました。
この場合、面接官には、次の対応を推奨します。
◆応募者の実務能力の不安を払しょくし、自社における自己の活躍イメージを具体的に実感してもらう場を作ります。例えば、小集団での内定者を含めた役割交代制のデザインシンキング・セッション*8などを行い、自身のマネジメント力の高さの実感を持ってもらう機会を作る。(特に、マネジメント能力は、他者評価が重要なので、第三者からの賞賛を受ける場を作るのが肝要)
このように応募者の個別性をふまえて、面談や面接を行うことで内定辞退率は低減することが可能です。
弊社が実際に最近経験した事例をご紹介します。
ある創業80年以上の歴史を持つメーカーの事例では、面接官への研修を実施して内定辞退率を13%低減することに成功しました。
面接官がどんなタイプの人材にも働きかけられるよう、自分と異なる相手に対する効果的な接し方や、相手の個性にあわせた社の魅力の伝え方を研修で学んだのです。
学生にとって新卒初入社の就職先としてもらうには、一人ひとりにあわせた性格特性の機微に合わせた計画的で繊細な対応が、カギとなります。
ここで要となるのは、具体的な内定辞退フォローアップ・アプローチに直結できる仕組みを持つ性格特性の適性診断です。
内定辞退フォローアップ・アプローチは、データの可視化に基づいて計画的に対応することが可能です。決して経験値や暗黙知で決まるものではありません。先の80年以上の歴史を持つメーカーの事例にあるように、内定辞退フォローアップ・アプローチはピープルアナリティクスで解決できる領域です。適切な適性診断と、そこから得られた可視化されたデータを活用することで、再現性のあるノウハウのある技術(内定辞退フォローアップ・アプローチ・スキル*6)となるのです。