人事部の資料室

「蛙化現象」「AI」…川柳に見るイマドキの就活・採用のリアル

作成者: e-falcon|2023/10/08

就職活動をする学生、そして企業の担当者ともに、新卒採用をめぐる環境の激しい変化を感じていることでしょう。

そのような中、2024年春入社に向けた就活生、採用担当者のそれぞれの目線で詠まれた川柳・短歌の入選作品をHR総研などが発表しました。

SNS、AI、逆求人、対面面接、ChatGPTなどは近年の採用におけるキーワードの一部ですが、入選した川柳・短歌にはZ世代の中での流行語も取り入れられています。

「嬉しくて 何度も開く 合格メール」

まず、就活生の最優秀・優秀作品は下の2つです*1。

最優秀賞(1作品)
「嬉しくて 何度も開く 合格メール」(長崎県 みーさん)

企業からの内定通知を信じられずに何度も見返して現実かどうかを確認してしまうくらいだ、ということでもあるのでしょうか。いまの新卒採用は売り手市場一辺倒、と言われるなかでもやはり就活は不安や緊張に満ちたものだったのでしょう。

筆者も大学受験に合格したとき、当時、合否通知は大学に掲示を見に行くか郵送を待つか、という時代でした。筆者も合格発表日、何度もポストをのぞきに行ったものです。そして届いた封筒の中に合格通知が入っていたのを見た時は、何度も読み返したものです。数日間は同じことを繰り返したでしょうか。

そして、優秀賞はこちらです。

優秀賞(1作品)
「『私が 尊敬するのは 母親です』 隣の部屋に 聞こえぬように」(東京都 1ダースさん)

面接の練習、あるいはオンライン面接中の出来事でしょうか。母親本人に聞かれたら恥ずかしいと思いながらもきちんと本音を口に出す姿が浮かびます。

また、就職活動には少なからず親の影響があることもわかります。筆者はどこかの採用担当者向けのハウツー資料で、内定辞退を防ぐためにも、何らかの形で親御さんへの働きかけも必要だというアドバイスを目にしたことがあります。

しかし他の入選作品を見ると、最近ならではの事情も見えてきます。佳作作品からいくつかピックアップしてみましょう。

「御社への 愛を叫ぶは AIで」(宮城県 交通費全額支給さん)
「蛙化だ まさか私に なぜ起こる」(熊本県 ゆきちゃんさん)
「憧れの 企業受ける前 見たSNS 踊る社員 わたしは蛙化」(茨城県 カリエの極みさん)
「面接で 『第一志望です』 10回目」(愛知県 まさみちさん)

エントリーシートの作成でしょうか。就活生が少なからずAIを利用していることがうかがえます。

そして注目したいのが「蛙化」というワードです。

「蛙化現象」とは

「蛙化現象(かえるかげんしょう)」とは、Z世代が選ぶ2023年上半期の流行語ランキングで1位にも選ばれた言葉です*2。

その由来はグリム童話の「カエルの王様」です。森の泉に金の鞠を落としてしまった王女の前にカエルが現れ、鞠を水の中から拾ってくる代わりに、自分と友達になり、食事を共にし、一緒に眠るよう要求します。カエルは鞠を拾ってきたにもかかわらず、王女はカエルを気持ち悪がって要求を拒否し続けました。

しかし王の命令でカエルの要求をかなえたところ、カエルは王子様の姿に戻りました。そのカエルは他国の王子様が魔法をかけられ、姿を変えてしまったものだったのです。姿を取り戻した王子は王に気に入られ、王女と末長く暮らすことになる、というハッピーエンドです。

「蛙化現象」は恋愛での突然の心変わりを表す言葉としてZ世代の間で使われています。グリムの童話とは逆の意味合いかもしれませんが2つの意味合いを持っています。ひとつは「元々は好意を持っている相手が自分に好意を持っていることが分かると急に相手に嫌悪感を感じてしまう」、もうひとつは「交際相手などの嫌な面を見たときに急に相手に幻滅し、好意が消えてしまう」といった心境をさしています*3。

この「蛙化現象」に、採用担当も戸惑っているようです。採用担当の川柳・短歌の最優秀賞には、この作品が選ばれています。

最優秀賞(1作品)
「内定を 出すまで受ける ラブコール 出した途端に 蛙化現象」(愛知県 ひつまぶしでひまつぶしさん)

内定を出した途端に学生に冷められてしまう、という現象が起きているようです。内定辞退に苦悩する担当者の様子がうかがえます。

「蛙化現象」の2つの意味合いについて、ひとつに自己肯定感の低下が原因、という精神科医の指摘もあります*4。自分を否定するのと同じように、自分を好きになった相手を否定したり、いずれ嫌われてしまうという不安が要因になったりする、というものです。

また、もうひとつの「相手の嫌な面を見た時に急に相手に幻滅する」という意味合いに関しては、SNSの影響で自分をよく見せたり完璧を求めたりする傾向が強くなっているため、としています。

先に紹介した就活生の作品、

「憧れの 企業受ける前 見たSNS 踊る社員 わたしは蛙化」

というのはその典型例かもしれません。期待以上の良いイメージを企業に対して持っていた可能性もあります。
ただ、入社後の「リアリティ・ショック」を防ぐためには、普段からSNSで企業のありのままの姿を見せることも重要だと筆者は考えます。

AI時代の採用活動には新たな流れも

さて、もうひとつのキーワードになっている「AI」です。
採用担当者の入選作品にはこのようなものがあります。

「ESを 書くのもAI 読むのもAI」(大阪府 いともんさん)
「カタカナと 英語が増えた 採用に 今度はAI よぎる引退」(滋賀県 クリスタルKさん)
「ESの キーワードのみ 抽出し GPTで 文章チェック」(滋賀県 クリスタルKさん)

特にこの1、2年はChatGPTが大注目された時期ですので、このようなことが起きることは不思議ではありません。

ただ、採用現場でのAI活用については、むしろ「AI面接」を導入する企業が出始めています。質問への回答から、AIを利用して個人の属性や傾向を判断するというものです。

こちらは転職者を対象にしたものですが、マイナビの調査によると、WEB面接、動画選考、AI面接といった近年の新しい選考スタイルについて、まずAI面接を「受けたことがある」としている人は2022年の転職者全体で19.3%にのぼっています(図1)。

(出所:「転職動向調査 2023年版」株式会社マイナビ)
https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2023/03/af5ecd66268d4c66d20ea728ddf6ea8a.pdf p53



そして、この3つの選考スタイルについて「受験意識が高まる」と回答した人は

  • WEB面接:61.2%
  • 動画選考:44.7%
  • AI面接:36.9%

逆に「受験意識が下がる」という人は

  • WEB面接:61.2%
  • 動画選考:55.3%
  • AI面接:63.1%

となっています。

ただ、年代別に見ると20代〜40代の男性に関しては、AI面接で受験意欲が高まるという人は4割を超えており、若い世代では受け入れられていきそうです。

その理由としては

  • 気楽に受けられそうだから
  • 感情ではなく公平に評価してくれそうだから
  • 緊張しなさそうだから
  • 新しいものを導入している会社だと好感が持てるから
  • 面白そうだから
  • 興味があるから

といった意見が挙げられています*5。

AI面接には、外面の印象などで受けるバイアスを除去できるという特徴があります。シンプルな質問を数多く投げかけることで、当該人物の傾向を「見える化」するツールとして、牛丼チェーンの吉野家がアルバイト採用に導入したほか*6、東急なども導入しています*7。

学生を対象に実施したAI面接に関する調査では、下のような結果も得られています(図2)。

(出所:村上祐子ほか「AI面接を題材としたデータサイエンス導入教育の実践報告」情報教育シンポジウム)
https://ipsj.ixsq.nii.ac.jp/ej/?action=pages_view_main&active_action=repository_view_main_item_detail&item_id=212363&item_no=1&page_id=13&block_id=8 PDF,p192


緊張しない、時間に融通がきくというのはもちろんのこと、「評価基準の統一」は学生にとっては好感を持てる要素でしょう。

AIが人を評価することについては賛否はあることでしょう。
しかし、「AIとAIの戦い」といったような書類選考に使うくらいであれば、生身の人間の評価にAI的な視線を取り入れるといった積極性を持つのもひとつの手段になりそうです。逆転の発想でもあるでしょう。
そしてアルゴリズムの組み方によっては「蛙化現象」による内定辞退を防ぐ手立ても見えてくるかもしれません。