谷出氏
『聞くこと』は大事な観点ですが、まず初めに面接官自身がしっかり自己紹介を行うことが大切です。
たとえば、学生が「〇〇大学〇〇部 4年、谷出です。よろしくお願いします。」と自己紹介しても、面接官に学生の人となりについて伝わりませんよね。同様に、学生に目の前にいる面接官がどんな人なのかを伝えることはコミュニケーションの基礎基本になります。
人間関係を作ることで、お互いを理解し合う土台が作られます。その上で、共通点を感じてもらうことが重要です。「あ、自分に近いな」とか「この人たちと一緒に働きたいな」と思ってもらえる関係性を作ることが大事になります。
自己紹介では、まずは学生との共通点となりやすい内容を伝えるのがいいですね。たとえば、私は自己紹介に「奈良県出身」と記載していますが、奈良県出身の方はそれだけで興味を持ってくれます。他には、部活やサークルのこと、就活の思い出のエピソードなど、共通点が作れると親しみが湧きやすいので、面接官としても共通点を意識して自己紹介するのが良いと思います。
田中
適性検査の結果を面接で活用するのも有効です。たとえば、弊社が提供する適性検査eF-1Gの結果をもとに「私は役割志向8タイプでいうとサルタイプなんです」といった形で、共通点や自分の特性を話題にすることができます。例えば、目的志向が強い組織であれば、「あなたも同じような特性を持っているんですよ」と伝えることで、候補者との距離を一気に縮めることができます。
谷出氏
学生が「この人みたいな社会人になりたい」と思うことが大切です。そのためには、採用活動に関わる社員の方が、なぜ今の会社で働いているのか、今後どんな社会人になりたいのか、といった自分自身の仕事観や人生観を伝えることが重要だと思います。そうすることで、学生も自分の理想の社会人像を言語化するヒントとなり、より身近に感じてもらえます。
田中
当社では、適性検査の結果から各候補者の仕事の動機を把握しています。仕事の動機は人それぞれですが、報酬や昇進を重視する人もいれば、顧客に頼りにされることを喜びに感じる人もいます。候補者の動機に合わせて、どのように会社の魅力を伝えるかを準備しておくのが良いですね。当社では6つのパターンに分けて、各パターンに合わせた訴求ポイントを整理しています。
谷出氏
魅力付けをするためには、まず会社の「事実情報」と「解釈情報」を分けて伝えることが大切です。例えば、会社のパーパスや目標は事実ですが、それをどう解釈しているのかを伝えないと、単なるタスクとして受け取られてしまいます。
「みんなで決めたからこうした」という話だけだと、求職者には「言われたことだけやればいい会社なんだ」と思われるかもしれません。それでは興味を持たれにくいです。逆に、会社のビジョンや価値観をどのように自分たちが解釈し、それに基づいて行動しているのかを共有することで、求職者は共感しやすくなります。
共感を呼ぶためには、具体的に「私たちがどう考え、どう行動しているか」をしっかり伝えることが大切です。それによって、自分も当事者意識を持って働きたいと思う人が集まるでしょう。事実と解釈を分けて伝えることで、ミスマッチを防ぐことができると思います。
田中
選考のどの段階で受けてもらうかは、企業によってさまざまです。多くの場合、書類選考の段階で受けていただき、その結果を参考に一次選考に進むかどうかを判断することが多いです。ただし、eF-1Gは250問ほどの設問があり、約20分かかるため、候補者にとっては負担が大きいのも事実です。ですので、最近では一次面接の直前や説明会が終わったタイミングで、選考に進む意欲が高まった候補者に受けてもらうことが増えています。
インターンシップ後に受けてもらい、その後のフォローアップに活用するケースも増えてきています。具体的には、インターンシップ終了後や、参加したタイミングで適性検査を実施し、結果を基にその候補者の特性に合わせたフォローを実施するという方法です。
田中
初期段階、たとえば一次面接やカジュアル面談の時点で「このような適性を持った人がうちの会社で活躍しています」といった形で早めに伝えることが多いです。また、説明会の資料にも会社の傾向や適性検査の情報を入れ、働くイメージを候補者に持ってもらえるように工夫しているなどがあります。
田中
入社後の活用についても増加傾向にあります。特に、定着率の向上や活躍につなげるために、適性検査の結果をオンボーディングの一環として活用しています。例えば、適性結果を人事からマネジメント層に共有し、個々の特性に合わせたピープルマネジメントに生かすことが一般的です。また、既存社員の中からマネジメント候補を発掘する際にも、この適性検査のデータを参考にすることが増えていますね。
最近では、求める人材タイプの要件定義や、各タイプごとの人材基準の作成のお手伝いも非常に多くなってきていますね。採用だけでなく、既存社員の人材開発や配置、昇進にも役立てることができます。
採用担当者の役割の再定義について
谷出氏
セミナーでお伝えしたように、「採用活動の変化」や「社会の変化(企業や求職者の変化)」により、採用活動は年々難しくなっています。今後、採用成功のためには、採用担当者としての役割を再定義し、新たな視点で採用活動に取り組むことが求められます。
役割を考えるにあたり、2つの視点があります。
まず1点目は、『決められた採用活動を行う』から、『自社の状況に応じて自ら考え、求職者が一緒に働きたいと思えるような採用活動を行う』ことへのシフトです。
この背景には2つの変化があります。
1つ目は、採用活動が「単なる実施」から「考える採用活動」へと変わったことです。従来の採用活動は、ほぼ決まった「時期」や「方法」で実施されていました。この時期にこの手法を使えば、求職者に出会い、選考を進められるというパターンがあったのです。しかし現在は、採用活動の「時期」や「方法」、「手段」が自由になったため、自社に合った独自の戦略を考えなければ、優秀な求職者に出会うことが難しくなっています。
2つ目は、企業が求職者を選ぶ「見極め型の採用活動」から、企業が求職者に選ばれる「魅力付け型の採用活動」への変化です。選考が進んだとしても、内定を出しても承諾されなかったり、承諾後に辞退されたり、早期離職が発生したりするケースが増えています。このため、企業は求職者に選ばれるために、積極的な情報開示やキャリアパスの提示など、働く理由や価値を伝える採用活動を行う必要があります。
2点目は、『人事や採用担当者が主体となる採用活動』から、『経営者や事業部門と連携し、良い企業を作り上げ、その一環として採用活動を行う』ことへの変化です。
この背景には、求職者が就職時に「労働環境」や「労働条件」に対する関心を一層高めている現状があります。働き方改革や初任給の引き上げ、福利厚生の充実といった取り組みにより、企業が労働環境を改善し、売り手市場における採用活動が進んできました。これに伴い、採用活動と並行して、より良い企業づくりが求められるようになっています。
最後に、今後も「採用活動の変化」や「社会の変化」は続いていくことでしょう。採用の成功に向けて、常に採用担当者としての役割を再考しながら柔軟に対応していくことが重要です。