新入社員の多くを襲う「リアリティ・ショック」とは? 対処法はあるのか?
ゴールデンウィークが明けると、出社がおっくうになる。
「5月病」とよく言われますが、新入社員の場合、背景には独特の現象がありそうです。
その一つが「リアリティ・ショック」です。
直訳すれば現実にショックを受ける、という意味ですが、新入社員の大半が経験する深刻な問題でもあります。
その正体とは、どのようなものなのでしょうか。
対処方法はあるのでしょうか。
新入社員の7割以上を襲う現象
パーソル総合研究所の調査によると、入社後に「リアリティ・ショック」を感じている新入社員の割合は7割以上にのぼっています(図1)。
(出所 パーソル総合研究所×CAMP「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」)
https://rc.persol-group.co.jp/research/activity/files/c6bd0626d11bb6426ca23ad9f6f9724952405458.pdf p11
リアリティ・ショックとは入社後に、入社前のイメージとの間のギャップを感じてしまうことです。
入社後になって、「こんなはずじゃなかった」と感じてしまい、場合によっては出社が嫌になったり、離職に至ったりしてしまうこともある現象です。
76.6%がこの「リアリティ・ショック」を感じているというだけでも驚きですが、別のアンケート調査にはもっと驚くべき若手社員の本音が反映されています。
ソニー生命が社会人1、2年生を対象にしたアンケート調査では、このような結果が出ているのです(図2)。
(出所 ソニー生命「社会人1年目と2年目の意識調査2019」)
https://www.sonylife.co.jp/company/news/2019/nr_190418.html
「すでに辞めたい」。
入社1年目、2年目にしてそう答える若手社員が一定の割合で存在していることがわかります。2年目の社員に至っては「定年まで働きたい」という回答よりも「すでに辞めたい」という回答のほうが多くなっています。
入社後の不満を1年溜めた結果、2年目で「すでに辞めたい」となるのは想像に難くありません。
背景には「リアリティ・ショック」の存在がじゅうぶんに考えられます。
若手の早期離職を防ぐためにも、「リアリティ・ショック」への対応は欠かせないのです。
リアリティ・ショックの内容
では、新入社員はどのようなことにリアリティ・ショックを受けるのでしょうか。
先のパーソル総合研究所の調査結果では、具体的な内容は以下のようになっています(図3)。
(出所 パーソル総合研究所×CAMP「就職活動と入社後の実態に関する定量調査」)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/reality-shock.pdf p12
多いのは、報酬や昇進に関するもの、その他では、「達成感」「仕事の裁量の程度」などが上位に来ています。
入社前は、最初からもっとバリバリ働けてもっと早いペースで昇進や昇格できるものだと思っていたのに現実はそうでなかったと感じてしまう、というものです。
「現実よりも楽観的に考えていた」とも言えるでしょう。
しかし、会社としては新入社員にいきなり大きな仕事を任せるわけにはいかないというのは事実でしょう。
よって最初の研修などで具体的なイメージをしっかりと伝えておく必要があります。
リアリティ・ショックの種類
ただ、リアリティ・ショックには複雑な側面もあります。
それは、新入社員が「もっとバリバリやれると思っていた」という楽観的なイメージを覆されたというパターンだけではないという点です。
甲南大学の尾形真実哉教授がリアリティ・ショックについて下のように分類しています(図4)。
(出所 尾形真実哉「新人の組織適応課題-リアリティ・ショックの多様性と対処行動に関する定性的分析-」)
http://www.jahrd.jp/files/essay_files/129/0.pdf p19
先ほどまで紹介したのは「既存型リアリティ・ショック」にあたります。
しかし逆に、「もっと厳しいと思っていた」という期待を抱き、入社後にそれが覆されたという形のリアリティ・ショックも存在するのです。
尾形教授のヒアリングでは、メーカー勤務の男性のこのような話も出ています。
最初から責任ある仕事を任せて欲しいし、鍛えて、鍛えて、鍛えて欲しいって思ってたんですけど…。今の事務の仕事は、もうちょっと厳しい世界だっていう、事前に僕が盛り上げた印象があるんですよ。そのイメージと、合致しないんですよ、現実が。
(中略)
今、全然しんどくない…。ぬるいですね、すごいショックですよ。
<引用 尾形真実哉「新人の組織適応課題-リアリティ・ショックの多様性と対処行動に関する定性的分析-」)
http://www.jahrd.jp/files/essay_files/129/0.pdf p17
これを尾形教授は「肩透かし」と名付けています。
そして、上の図の「専門職型リアリティ・ショック」というものの存在も尾形教授は指摘しています。
看護師へのインタビューではこのような話が紹介されています。
結構1年目の責任が大きくって、その割にはフォローがないっていうのと、あとは実習のときは、患者さんと1対1で付き合っていくという感じだったんですけど、今は1日に8人とか10人を担当して、
(中略)
覚悟はしていたんですけど、最初からきついっていうのは。でも、ちょっと理解の域を超えているっていうか…。倒れるのが先か精神的におかしくなっちゃうのが先かっていう感じですよ…。
<引用 尾形真実哉「新人の組織適応課題-リアリティ・ショックの多様性と対処行動に関する定性的分析-」)
http://www.jahrd.jp/files/essay_files/129/0.pdf p18
厳しさは覚悟していたが、それ以上に厳しかったというギャップが生じているのです。
同じ年に同じ会社に入社したとしても、違う種類のリアリティ・ショックを感じている新入社員がいる可能性は十分に考えられます。
企業はどう対応できる?
ここまで様々なリアリティ・ショックについてご紹介してきました。76.6%の新入社員がなんらかの形で感じているというリアリティ・ショックに、企業としてはどのような対策ができるのでしょうか。
まず、入社前にそれぞれの新入社員がこれからの社会人生活にどんなイメージを抱いているか把握する必要があります。
筆者が自身の新入社員研修の一コマとして思い出すのは、一人一人に「将来の自分」をイメージした絵を描かせ、自分がどんなイメージを抱いているか発表していくという時間があったことです。
それに対して、人事担当が素直に「それは甘いな」「そうなるといいけどわからないよね」など、具体的なコメントをしていたことが印象的でした。
この時間で、人事としては新入社員ひとりひとりが抱いている「将来像」を把握できるというわけです。
そして、特に入社直後の社員に対しては、定期的にヒアリングを実施することが効果的と考えます。
入社前のイメージとどんな違いを感じているか、そのギャップがうまく埋められていくのかイメージとの乖離がどんどん大きくなっているのかを把握することは重要です。
「背中を見て育て」。
それは昔の話になっています。
せっかくの若手社員を失わないよう、細やかなケアが大切な時代になっているのです。
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。