政府も業界団体に要望書 新卒採用で「オワハラ」認定されないために

    新卒採用が争奪戦のようになる中で、企業が学生に対し、内々定や内定と引き換えに以降の就職活動を終わらせるように働きかけるなどの「オワハラ」が問題視されています。

    オワハラとは「就活終われハラスメント」の略で、正式な内定を出す前に誓約書を提出させたり、内々定や内定期間中に頻繁に研修を実施して拘束し、学生の就職活動を妨げるものです。

    政府もオワハラの存在を認定し、4月には経済団体や業界団体の長宛てにオワハラ防止を盛り込んだ通達を出しています。

    オワハラ 巧妙化する手口


    内閣府の2022年度の調査によると、就職活動においてオワハラを受けたことがある、とする学生の割合は10.9%にのぼっています(図1)。
    図1 オワハラを受けた学生の割合
    (出所:「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査報告書(令和4年11月30日)報告書」内閣府)
    https://www5.cao.go.jp/keizai1/gakuseichosa/pdf/20221130_honbun_print.pdf p110


    そして、その具体的な内容は以下のようなものです(図2)。
    図2 オワハラの具体的な内容
    (出所:「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査報告書(令和4年11月30日)報告書」内閣府)
    https://www5.cao.go.jp/keizai1/gakuseichosa/pdf/20221130_honbun_print.pdf p111


    「内々定を出す代わりに他社への就職活動をやめるように強要された(早めに内々定を受ける旨の返答をしない場合には、内々定を取り消すと言われたなど)」が最も多くなっています。次いで「内々定の段階で、内定承諾書の提出を求められた」というものが多くなっています。

    また、東京新聞ではこのような出来事が紹介されています*1。

    「内定者向けの講習を受けてもらうので、料金として1万円を振り込んでください」。東京都内の男子大学生は4月、内定先の企業からこんなメールを受け取った。資格取得が必要で週に1回、3~4時間の講習が秋まで続く内容だった。

    直接的な強要ではないものの、学生を長時間拘束することで実質的に就職活動を妨害するという状況です。

    政府が経済団体・業界団体に通達


    こうしたオワハラについて、ことし4月、政府はついに経済団体、業界団体の長に向けて防止策などについて要請する通達を出しました。

    「2024(令和6)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請等について」と題したこの通達では、冒頭からオワハラについてこのように指摘しています*2。

    近年、学生の就職活動は、早期化・長期化する傾向にあることに加え、就職・採用活動の開始日より前にインターンシップ等と称して実質的な採用選考活動が実施されるなどの事態が生じているほか、就職活動を行う学生に対するハラスメントが問題となっています。これらは、学生に混乱をもたらすとともに、学業に専念する機会や、安心して就職活動に取り組める環境を大きく損なうものです。

    そして、「就職をしたいという学生の弱みに付け込んだ、学生の職業選択の自由を妨げる行為(いわゆる「オワハラ」)が確認されている、としたうえで、このような要望を出しています*3。

    正式な内定前に他社への就職活動の終了を迫ったり、誓約書等を要求したりすることや、内(々)定期間中に行われた業務性が強い研修について、内(々)定辞退後に研修費用の返還を求めたり、事前にその誓約書を要求したりすることなど、採用選考における学生の職業選択の自由を妨げる行為を行わないよう徹底すること。

    具体的には、以下のようなオワハラ行為を慎むよう求めています*4。

    1. 正式内定開始日前に内定承諾書、誓約書をはじめとした内定受諾の意思確認書類の提出要求
    2. 6月1日以降の採用選考時期に学生を長時間拘束するような選考会や行事等の実施
    3. 自社の内々定と引き替えに、他社への就職活動を取りやめるよう強要すること
    4. 自由応募型の採用選考において、内々定と引き替えに大学等あるいは大学教員等からの推薦状の提出を求めること

    自由応募にもかかわらず、内々定の段になって大学などからの推薦状の提出を求めるという事例も確認されているのです*5。

    オワハラ認定されることのリスク


    このようなオワハラは、貴重な学生を囲い込みたいという意識の高まりが度を過ぎた結果と考えられます。しかし今は、面接を実施するとその日のうちに質問内容などがSNSでシェアされる時代です。

    そのようなことは多くの企業が承知していることとは思いますが、経営コンサルタントの日沖健氏が企業からの聞き取りを実施した中では、このような話も漏れています*6。

    「オワハラ認定されてしまったら、採用市場で学生から敬遠され、もう採用できなくなります。こうしたリスクを承知でオワハラ行為をする会社が、そんなに多くあるとは思えません。被害に遭われた学生の方には気の毒ですが、リクルーターが暴走したか、一部のブラック企業による特殊な事例ではないでしょうか」(エネルギー)

    東洋経済オンライン「『オワハラ認定』は命取り、ブラック企業暴走の愚」
    https://toyokeizai.net/articles/-/667005?page=2


    自社として気をつけるだけでなく、「リクルーターの暴走」という可能性も視野に入れなければなりません。

    また、迷いのある状態の学生を無理やり自社に就職させても、結局は「想像と違った」という理由で早期に離職されてしまっては意味がない、むしろ企業にとってはマイナスの結果を生み出しかねません。

    囲い込みに力を注ぎすぎることのリスクは、こうした所にもあるのです。

    内定辞退者への新しいアプローチ


    さて、内定辞退者に対して、新しいアプローチを試みる企業も出てきました。将来の中途採用の候補として捉える、というやり方です。

    例えば綜合警備保障(ALSOK)は今年度から、ホテルやレジャー施設の優遇など、社員向けの福利厚生の一部を内々定者も利用できるようにするほか、資生堂は工場見学ツアーを内定者段階での実施に前倒しします*7。

    他にも、金融や食品業界でも中途採用の候補として内定辞退者とのつながりを維持する企業が出てきています*7。

    企業がいったん内定を出した学生は、企業として能力や価値観を評価できる人物であり、それは中途採用を一から始めるよりも確度の高い採用ができる、という考え方です。
    いまは若手の早期離職も多く、中途採用にも苦戦する企業は少なくありません。ある意味ではこうした現象を逆手に取ることもできる可能性があるでしょう。

    若者の数が減少していく中では、採用者数という数字としての実績だけでなく、「縁をどれだけ得られたか」についても目を向ける必要がありそうです。また、一括採用にこだわりすぎない柔軟な人事戦略も求められています。

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    著者:清水 沙矢香
    2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
    取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。

    *1
    「就活『オワハラ』が巧妙化 研修頻繁、学生を実質拘束」東京新聞

    *2、3
    「2024(令和6)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請等について」内閣府
    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou_yousei/2024nendosotu/betten1.pdf p1、p6

    *4
    「2024(令和6)年度卒業・修了予定者等の就職・採用活動に関する要請等について」内閣府
    https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_katsudou_yousei/2024nendosotu/betten1.pdf 参考資料 別紙p3

    *5
    「学生の就職・採用活動開始時期等に関する調査報告書(令和4年11月30日)報告書」内閣府)
    https://www5.cao.go.jp/keizai1/gakuseichosa/pdf/20221130_honbun_print.pdf p111

    *6
    「『オワハラ認定』は命取り、ブラック企業暴走の愚」東洋経済オンライン
    https://toyokeizai.net/articles/-/667005?page=2 

    *7
    「就活選考解禁 企業が内定辞退者に接触、将来の採用視野」日本経済新聞
    https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC297QH0Z20C23A5000000/