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何が変わる?「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」「ジョブ型研究インターンシップ」とは

作成者: e-falcon|2022/08/14

インターンシップの位置づけが変わろうとしています。
新たな定義が定められ、2025年卒業(2022年度の2年生)から、一定の要件を満たせばインターンシップ中に取得した学生情報を広報活動・採用選考活動に活用することが認可されたのです。
こうした流れを受け、今後は採用に直結するタイプのインターンシップが盛んになることが予測されます。

また、自然科学系を専攻する博士課程学生を対象にした「ジョブ型研究インターンシップ」も現在試行中です。
今後ジョブ型雇用が日本社会に普及していけば、こうした方式のインターンシップも盛んになる可能性があります。

本記事では、大きく変わろうとしているインターンシップについてその概要と動向をみていきます。

新たなインターンシップの概要

従来のインターンシップの定義は、「学生が在学中に自らの専攻、将来のキャリアに関連した就業体験を行うこと」というもので、そこで取得した学生情報を広報活動や採用選考活動に使用してはならないとされていました。*1
しかし実は、採用選考に組み込まれているのが実態でした。*2

こうした状況の中、「採用と大学教育の未来に関する産学協議会」(以下、「産学協議会」)は、2022年4月に2021年度報告書を公表し、その中でインターンシップの新たな定義を示しました。それとともに、一定の基準に準拠するインターンシップで得られた学生情報は、採用活動に活用可能とすることで産学が合意したと述べています。

それらの内容は、2022年6月に改正された、文部科学省・厚生労働省・経済産業省の「三省合意」に盛り込まれました。*1, *3
その内容をみていきましょう。

学生のキャリア形成支援における4類型

産学協議会は「学生のキャリア形成支援に係る産学協働の取組み」を4類型に整理しました(表1)。*4

出典:採用と大学教育の未来に関する産学協議会「採用と大学教育の未来に関する産学協議会2021年度報告書 「産学協働による自律的なキャリア形成の推進」」p.27
https://www.sangakukyogikai.org/_files/ugd/4b2861_80df016ea6fe4bc189a808a51bf444ed.pdf


表1の4類型のうち、インターンシップに該当するのは赤線で囲まれたタイプ3とタイプ4で、その定義は以下のようなものです。

「学生がその仕事に就く能力が自らに備わっているかどうか(自らがその仕事で通用するかどうか)を見極めることを目的に、自らの専攻を含む関心分野や将来のキャリアに関連した就業体験(企業の実務を経験すること)を行う活動(但し、学生の学修段階に応じて具体的内容は異なる)」

一方、タイプ1とタイプ2はインターンシップとは認められません。

キャリア形成支援の留意点

ここで、タイプ1〜タイプ4に関する留意点を押さえておきましょう。*3

1) タイプ1〜タイプ4はキャリア支援の取り組みであって、採用活動ではない。採用活動の際には、改めてエントリーが必要。
2) 学生のキャリア形成支援は産学が協働して推進していくことが重要。
3) タイプ3とタイプ4に参加できる学生は就活予定者の一部だが、就職先でのインターンシップ参加経験がなくても、採用選考へのエントリーは可能。このことを学生に周知する必要がある。
4) タイプ3は、産学協議会が定めた基準(表2の)を満たせば、「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」と称し、準拠マークをつけることが可能。
5) タイプ3とタイプ4の活動を通して取得した学生情報を採用活動に活用できるのは、採用活動開始以降に限る。
  *採用活動開始時期は、通常、卒業・修了年度の6月1日以降 *5

タイプ3の「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」とは

ここでは、「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」の基準を確認していきます。
上述のとおり、その基準は以下の表2のうち、タイプ3の欄で「」がついている箇所で、実施主体(企業または大学)が基準に準拠していることを宣言した上で、募集要項に「産学協議会基準準拠マーク」を記載することが可能です。*3

出典:文部科学省・厚生労働省・経済産業省「インターンシップを始めとする学生のキャリア形成支援に係る取組の推進に当たっての基本的考え方(2022年6月13日一部改正)」p.8
https://www.meti.go.jp/press/2022/06/20220613002/20220613002-1.pdf


表2からタイプ3の基準を拾い出してみます。

・ 所要日数:汎用的能力活用型は5日間以上、専門活用型は2週間以上。
・ 就業体験:学生の参加期間の半分を超える日数、職場で就業体験する。
・ 実施場所:原則として職場だが、職場以外との組み合わせも可。テレワークが常態化している場合には、テレワークを含む。
・ 実施時期:学部3年・4年あるいは修士1年・2年の長期休暇期間(夏休み、冬休み、入試休み・春休み)。ただし、大学正課(単位履修を伴うもの)および博士課程はこれに限定されない。
・ 指導:職場の社員が学生を指導し、インターンシップ後にフィードバックする。
・ 情報開示:募集要項などを開示する。

今後は以上の基準を満たした「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」が盛んになっていくことが予測されます。

タイプ4の「ジョブ型研究インターンシップ」

次に、タイプ4に該当するインターンシップをみていきます。
このインターンシップは大学と企業が連携して実施するプログラムです。*3

「高度専門型インターンシップ」は2022年度にさらに検討することになっていますが、これに該当する「ジョブ型研究インターンシップ」は、文部科学省と経団連が共同で現在試行中です。
その概要をみていきましょう。

定義と類型

「ジョブ型研究インターンシップ」は、以下のように定義されています(図1)。*6

出典:文部科学省高等教育局「ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組) 実施方針(ガイドライン)」p.8
https://www.mext.go.jp/content/20210521-mxt_senmon01-000014929_3.pdf

なお、対象者は当面、博士課程学生で、その専攻分野は自然科学系とし、修士課程学生については引き続き検討することになっています。

類型

次に、契約形態とジョブ内容の類型をみていきましょう。

まず、契約形態は、直接雇用型と共同研究型の2タイプがあります(図2)。*6

出典:文部科学省高等教育局「ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組) 実施方針(ガイドライン)」p.10
https://www.mext.go.jp/content/20210521-mxt_senmon01-000014929_3.pdf


「直接雇用型」は、企業を仲立ちとした契約形態です。企業は学生とは直接雇用契約を結ぶ一方で、大学とは必要に応じてインターンシップ実施契約を結びます。

それに対して「共同研究型」は、大学を仲立ちとした契約形態です。大学は学生とは雇用契約を結ぶ一方で、企業とは共同研究契約を結びます。

次にジョブ内容の類型をみてみましょう(図3)。

出典:文部科学省高等教育局「ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組) 実施方針(ガイドライン)」p.10
https://www.mext.go.jp/content/20210521-mxt_senmon01-000014929_3.pdf


この類型には3タイプあります。
まず、「テーマ探索型」は、学生が新しいテーマを提案・探索するもの、「テーマ付与型」はインターンシップ募集時に企業・大学が学生に研究開発テーマを提示するものです。また、「研究開発支援型」は、インターンシップ募集時に企業・大学が学生に特定の研究開発支援業務を提示するというものです。

メリット

このインターンシップは、学生、企業、大学のそれぞれにとって次のようなメリットがあります。*6

・ 学生にとってのメリット: 進路の可能性を広げることができる
・ 企業にとってのメリット:多様な大学・分野から優秀な学生を採用することができる
・ 大学にとってのメリット:博士課程のカリキュラムや修了生の質が向上し、 大学のブランド力を強化することができる

当面の進め方

2021年度後期シーズンのトライアル期間を経て、2022年前期シーズンから先行的・試行的取り組みを本格的に実施しています(図4)。*7

出典:文部科学省高等教育局専門教育課「ジョブ型研究インターンシップ(先行的・試行的取組) 当面の対応について」p.1
https://www.mext.go.jp/content/20210521-mxt_senmon01-000014929_4.pdf

このプログラムを推進する「ジョブ型研究インターンシップ推進協議会」は2021年8月10日に45企業、45大学によって設立されましたが、2022年6月20日現在の参画者は、50企業、57大学にまで増加しています。*8-1, *8-2

上述のように、このインターシップにはさまざまなメリットがあるため、今後、社会全般にジョブ型雇用が普及していけば、その活用も拡大していくものと予測されます。

今後の展望

産学協議会が2021年度報告書をまとめる際の議論の過程では、海外にみられるような「学生が実務に真剣に取り組み、仕事の厳しさ・難しさを体験することによって、自らの能力・適性を見極める」インターンシップが重要であるという認識を産学で共有しました。

また、日本のインターンシップも中長期的には、このような国際的にも通用するインターンシップを目指すべきであるという認識も概ね共有されました。

ここで、従来型の日本式インターンシップとアメリカのインターンシップを比較した表をみてみましょう。*2

出典:経済産業省「事務局資料」(令和4年1月)p.31
https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/mirai_jinzai/pdf/002_03_00.pdf


アメリカのインターンシップは、長期間で有給であること、採用に直結していることなど、上述の「ジョブ型研究インターンシップ」と共通する特徴がみられますが、実施時期の制約がないなど、異なった側面もあります。
日本でも新卒の通年採用が一般化するような状況が訪れれば、それに合わせて、実施時期の見直しを行う必要があるでしょう。

今回、打ち出された「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」は固定的なものではなく、試行錯誤を経て、さらに進化していくはずです。

中長期的によりよいインターンシップを目指していくためにも、産学が協力して「産学協議会基準に準拠したインターンシップ」および「ジョブ型研究インターンシップ」を適切に実施し、そこから得られた知見を積み上げていくことが必要です。