数々のヒットを飛ばし、年間4億本超を売り上げる「奇跡のガリガリ君」。あの独創的な商品開発の裏には若手の抜擢があります。空前のヒット商品「コーンポタージュ味」も20代の若手コンビの発案でした。
赤城乳業への入社は狭き門。同社はどのような採用を行っているのでしょうか。
ミスマッチを防ぎ、内定者に入社を促す手法とは?
同社の採用に迫ります。
採用は、企業の価値観や社風が色濃く反映されているものです。
まず、ガリガリ君の会社の企業文化をみていきましょう。
赤城乳業の社長3代目の社長・井上創太氏は、父親である2代目社長・井上秀樹氏(以降、「秀樹氏」)から次のように言われたそうです。*1, *2-1)
「社長は社員の七光りだ」
「我々井上家はおこぼれをもらえばいい」
主役はあくまで社員であり、井上家はおこぼれをもらう立場。社員にいかに還元できるかが大事だという信条です。
経営陣は「働く人の満足なくして、お客様の満足なし」という考えのもと、社員が夢とあそび心をもって仕事に取り組めるように体制を整えてきたといいます。*3
同社は、社員数413名。大手企業に比べて規模は小さくても強い会社、「強小カンパニー」を目指してきました。*4, *3
そのために大切にしてきたことのひとつが、「異端」の思想です。
他社の真似をしたり、業界の慣習にしばられたりすることなく、同社ならではの技術や新機軸を次々に打ち出す。
たとえば、創業当初から定評のあった冷凍技術や、他社に先駆けて取り組んだコンビニエンスストアでの販売。いまでは業界のスタンダードとなっているこうした「業界初」の取り組みも同社の「異端」が機動力となっているのです。
「強小カンパニー」になるために、同社は「あそび心」も大切にしています。企業スローガンは「あそびましょ」。*5
「会社案内」もユニークです。
「齧りかけのガリガリ君ソーダ」を模したイラストにぎっしり書かれたメッセージ。*6
出所)赤城乳業株式会社「会社案内」
https://www.akagi.com/company/index.html
メッセージの中には「遊び心」が5回登場します。
そして、〆の部分はこんな文言が。
「強小カンパニー」を支えるもう1つキーワードが「言える化」です。*2-2)
この「言える化」は前社長の秀樹氏が作ったことばで、社員が何でも闊達に言えるような会社になるという意味です。
ただ、それを実現するためには、経営陣の心構えや後押しが必要。
大ヒット商品「コンポタ」こと、「ガリガリ君リッチ コーンポタージュ」にはこんなエピソードがあります。
「コンポタ」は2012年9月4日に発売しましたが、たった2日後の9月6日には商品供給が間に合わず販売休止となるほどの大人気でした。*7
ちなみに同社のマーケティングコストはニュースリリース配信代の15万円のみでした。それがSNS上で話題の連鎖を呼び、広告宣伝費に換算すると5億円以上もの効果を産み出したのです。*2-3)
この大ヒット商品を産み出したのは入社3年目と5年目の20代の2人組でした。
試作品が商品化されるためには、BDC(Brand Driving Committee)と呼ばれる委員会でのプレゼン、味見という厳しい関門を突破しなければなりません。*2-4)
BDCの構成メンバーは15名の適任者で構成され、社長や専務などに加えて、係長クラスも名を連ねています。
同社ではこうしたプレゼンは年齢や職位に関係なく、起案者が行うことになっています。コンポタのプレゼンも提案者である26歳の社員が行いました。
会議では否定的な意見も多かったといいます。
「味が新しすぎる」と指摘するメンバーもいました。
そんな中、社長だった秀樹氏はこう考えます。
「“失敗してもいいから好きにやってみろ”と社長が覚悟を決めれば、みんな自由に動き出す」
味見をした秀樹氏のたった一言で、コンポタの商品化が決まりました。
「ベリーグッド!」
こうした社風・企業理念をもつ赤城乳業の採用はどのようなものでしょうか。
同社の平均年齢は37歳、平均勤続年数は14年で、多くの若手が活躍しています。*4
強小カンパニーを目指す赤城乳業にとって、社員ひとりひとりの力は大変大切です。*8
採用において同社が求める人物像は、ズバリ「自立型の人材」。
具体的には以下のような要素を備えた人です。
こうした人物像に合致する人材を獲得するための採用方法とはどのようなものでしょうか。
赤城乳業のエントリー数は8,000件を超え、そのうち面接に進むのは200名。2016年以降の実績をみると、最終的に採用されたのは数名から20数名という狭き門です。*2-5), *9
採用人数が少ないだけに、ミスマッチを防ぎ、求める人物像に合致する人材を選ぶのは難しい仕事でしょう。
ガリガリ君の会社ではどのような採用をしているのでしょうか。
同社の採用は以下のようなステップをふんで進んでいきます。*9
出所)赤城乳業株式会社「採用情報>採用データ・スケジュール」
https://www.akagi.com/recruit/recruit2024/recruit/schedule/
以前は役員や管理職が中心となって面接を行っていましたが、議論を経て、現在では若手社員も積極的に採用に関わっています。*2-6)
20名の面接官が一次面接を担当し、スクリーニングを行い、二次面接、最終面接へと進んでいきます。
ところが、ある日、二次面接を行った部長から、クレームが入りました。
「なんでこんな人間を上げてきたんだ!」*2-7)
部長にそう言われた担当者は、若手社員とベテラン社員の評価にギャップがあることに気づきます。
そこで担当者は、二次面接でバツをつけた役員や部長に具体的にどこが問題だったのかフィードバックしてもらい、そのことについて採用関連の委員会で徹底的に議論して、評価軸の擦り合わせを行いました。
こうした努力によって採用プロセスでのミスマッチが減り、入社した社員の退職率も確実に減っているということです。
担当者の大切な仕事は、それだけではありません。内定者を確保し、入社に導くことも重要です。*2-8)
優秀な学生は他の会社からも内定が出ている可能性が高く、大手食品会社からも内定をもらって悩む学生も多いそうです。
そこで、同社は内定通知とは別に、内定者1人ひとりに手紙を出します。なにを見込んで内定を出したのか、入社後、何を期待しているかを伝え、入社を促すのです。内定者の心情に訴えかけるこの方法が、実際に内定者をつなぎとめることも多々あるそうです。
さらに、内定者とは最低2回は会い、フォローアップします。内定者が地方在住の場合には地方に出向き、直接、話します。
会社との相性は非常に大切です。そのことをしっかり認識している担当者は、決して手を抜かずに、必要なら何度でも会って話をするそうです。
採用担当者は採用関係の委員会や面接官からの協力を得ていますが、採用のプランニングはほぼ1人で行っています。*2-9)
上司に相談するのは、ある程度決まってからですが、よほどのことがない限り覆されることはありません。
大きな責任を担う担当者は、他社を訪問して採用について勉強させてもらうことも自主的に続けています。
任せられているからこその責任感が、いい循環を産んでいるようです。
課題発見、周囲を巻き込んでの課題解決、自らがもたらす成長―同社の採用担当者のしていることは一見、素朴にもみえますが、同社が求める「自立型人材」のコンピテンシーとぴったり重なります。
採用は企業である。
赤城乳業の採用は、そのことを示唆しているのではないでしょうか。