【セミナーレポート】社員の意欲と可能性を引き出す!データ活用による効果的な人材マネジメントの秘訣
イベント概要
ビジネス環境が急速に変化する今日、効果的な人材戦略の立案と実行は企業の競争力を左右する重要な要素となっています。そんな中、データ活用による人材マネジメントの革新が注目を集めています。
2024年11月21日に開催されたセミナーでは、株式会社ZENTech取締役の武田雅子氏をゲストに迎え、株式会社クレディセゾンでの経験を基に、データを活用した先進的な人材マネジメントの取り組みについて語っていただきました。当社代表の田中がモデレーターを務め、適性検査eF-1Gのアセスメント開発責任者である増尾も加わり議論を進めました。
本記事は、セミナーの一部を紹介したものです。より詳細な内容は、以下のアーカイブ動画でご覧いただけます。
登壇者

株式会社ZENTech 取締役
1989年株式会社クレディセゾン入社、現場感覚を大切にするマネジメントスタイルで戦略人事や営業現場の風土改革を推進。2014年に人事担当取締役、2016年からは営業推進事業部担当役員として現場の風土改革を推進。
2018年カルビー株式会社に入社、2019年よりCHRO常務執行役員として、コロナ禍における働き方改革や自律型人財の育成を手掛ける。
2023年株式会社メンバーズCHRO、専務執行役員。急拡大する組織においてマネジメントの強化や社員のキャリア自律を支援。
2024年より現職。

株式会社イー・ファルコン 代表取締役
株式会社i-plug 取締役
関西学院大学経済学部卒。グロービス経営大学院大学卒。新卒でアフラックに入社。その後、株式会社グロービスで法人営業に従事し、2012年にi-plugを創業し取締役に就任。法人営業やマーケティング担当を経て2019年にCFOとなり管理部門の管掌をするとともにIPO準備や審査対応、IRをリード。2022年9月に株式会社イー・ファルコンの代表取締役に就任。
一般社団法人 人的資本経営推進協会 理事、ISO30414リードコンサルタント/アセッサー

株式会社イー・ファルコン アセスメント開発責任者
上智大学大学院文学研究科教育学専攻心理学コース博士後期課程
単位取得満期退学。
同大学心理学科助手を皮切りに、複数の大学で非常勤講師として心理学、統計学を、介護ヘルパー養成機関において精神保健、人間関係論を指導。
2006年イー・ファルコン社入社後は、心理学的視点から、適性検査eF-1Gの開発をはじめ、ストレスチェックの活用支援、ヒューマンエラーの原因分析と対応施策策定、研修の効果測定・評価など組織課題解決に向けた様々なプロジェクトを担当。
人的資本経営の定義
田中
現在「人的資本経営」が注目されている中で、改めて人的資本経営を定義すると、「人が持つ可能性を最大限に引き出すために、それを支援し育む投資を行うだけでなく、その可能性が発揮される環境や体験を創出し、実現へと導くこと。」ではないかと考えています。
本日のセミナーでは、「社員の意欲と可能性を引き出す人材マネジメント」、「効果的なパーソナリティデータの活用」という2点について深堀をしていきたいと思います。
多様性を重視した人材タイプ
武田氏
「社員の意欲と可能性を引き出す人材マネジメント」というテーマで、私がこれまで経験してきた取り組みの一つをご紹介します。クレディセゾンで人事を担当していた当時、採用活動において「求める人物像」の明確な定義が存在しない状況に気づき、その必要性を感じて役員に提案を行いました。しかし、社内には多様な価値観や背景を持つ人材がいることから、単一の人物像に基づいた採用方針は適切ではないとの結論に至り、改めて方針を検討することとなりました。
次のステップとして、まず社内で活躍していると評価される社員約100名をリストアップしました。すると、この100名が複数のグループに分類されることに気づき、改めて適性検査を受検してもらい、データを収集しました。私たちが立てた「活躍する人材」に関する仮説と、適性検査から得られた特徴を比較したところ、両者の間に明確な一致が見られ、仮説の妥当性を裏付ける結果となりました。
増尾
2007年~2008年の時点では、「一般的な営業職とはどんな人物か?」定義を求めることが一般的だった中で「自社の営業職はどんな人物か?」「自社にはどのようなタイプがいるのか?」というクレディセゾンさんの考えは先進的でした。
田中
現在は複数の活躍人材を定義しようという企業が増えている中で、当時としては画期的ですね。作成されたタイプをどのように社内に展開していったのでしょうか?
武田氏
新卒採用する1学年の中で多様性を作りたいと考えていました。これにより、同期で構成されるチームに多様性が生まれ、より強固なものになると考えていました。そのため、作成されたタイプの割合は選考の時点から追いかけていました。選考における先輩との面談でもなるべく同じタイプの先輩と学生が合うようにしていました。
「夢中力」診断の導入と活用
武田氏
当時の社長が、「仕事には2パターンしかない。1つは自分が夢中になっていることを仕事にすること。もう一つは与えられた仕事に対して夢中になること。いずれにせよ「夢中」になっている必要がある」という話を頻繁にしていました。そこで、「夢中力」というワードに置き換え、適性診断自体も「夢中力診断」と呼び学生にも受検をしてもらっていました。
イー・ファルコンの適性検査のフィードバックを使って、選考の結果に関わらず学生にフィードバックをお渡ししていました。学生とはいえ将来のお客様になる可能性はあるわけですので丁寧なコミュニケーションを心がけていました。
採用プロセスにおける候補者体験の重視
田中
学生へのフィードバックの取り組みは、学生へのアトラクトや内定承諾に向けたフォローを進めている企業が実施する例も出てきていますね。
武田氏
選考の結果に関わらず、いいコミュニケーションは学生の記憶には残るものです。場合によっては、新卒採用でご縁がなかった方が、再度中途採用でチャレンジしてきてくれるようなケースもありました。ゆえに、一つひとつのタッチポイントがいい印象で終わりたいと考えています。
田中
最近では、「候補者体験を向上させる」と言われていますが、当時からタッチポイントを大事にされていたんですね。採用ではジャッジするというのが一般的ですが、武田さんの取り組みでは「一緒にその人の魅力を引き出す」という点を意識されているように思います。
武田氏
採用活動において、私は「彼ら(応募者)から見える景色はどのようなものか」という視点を大切にし、人事側も選ばれているという意識を常に持つよう心がけていました。また、学生たちは社会人経験がない中で自己分析を行ってきますが、面談を通じて、本人が気づいていない魅力や強みが浮き彫りになることがあります。この点については、イー・ファルコンの適性検査の結果にも表れていることが多々ありました。
適性検査の結果を単なる結論として受け取るのではなく、目の前にいる学生の事実(ファクト)を確認するための一つの参考材料として活用していました。面接官として判断を下すだけでなく、学生の持つ魅力や強みを見つけることにも注力していたため、学生からも好意的な反応を得られていたのだと感じています。
また、「新たな情報が加わることで見える景色が変わるのではないか」「本人も気づいていない強みが存在するのではないか」という視点を持ちながら、そうした可能性を引き出す場として面接の時間や空間を活用してきました。このため、面接そのものを今でもとても大切にしています。
選考がうまくいかない場合でも、いいコミュニケーションが取れていると学生の記憶には残っています。場合によっては、新卒採用でだめだったとしても、再度中途採用でチャレンジしてきてくれるような方もいらっしゃいました。一つひとつのタッチポイントがいい印象で終わりたいと考えています。
社員のキャリア自律支援への取り組み
田中
既存の社員向けにも夢中力は展開されていったんでしょうか?
武田氏
全社員を対象にイー・ファルコンの360サーベイを実施し、社員一人ひとりが自分自身を俯瞰できるツールとして活用しました。この評価を通じて、自分のポテンシャルや周囲からどのように見られているのかに気づき、それを自身のキャリアを考える出発点としてもらいたいと考えていました。その先には、自ら手を挙げて異動を希望できる公募制度の活性化につなげたいという思いもありました。
当時、効率化で分業が進む中、他部門の業務内容に対して社員が関心を持つ機会は少なく、他部門の活動を社内で共有することには大きな課題があると考えていました。そこで、社員の興味を引きつける手段として、全社の部門を一つの地図にまとめる取り組みを行いました。
キャリアとは、必ずしも自分で計画的に作り上げるものだけでなく、時には偶発に身を任せるという意味で、漂流する中でたどり着くものでもあると考えています。どの島に流れ着くかはわからないからこそ、キャリアの羅針盤となる仕組みを作れないかと模索しました。すでに個人のデータは整備されているため、部門ごとのデータとマッチングすることで新たな可能性を生み出せるのではないかと考え、全社の部門を地図化するプロジェクトをイー・ファルコンに依頼しました。
組織の可視化と戦略的人材配置
増尾
具体的な取り組みとして、手上げ制度を導入する際に課題となったのは、社員がどの部門でどのような業務が行われているかを把握できていない状態でした。そこで、各部門のトップにインタビューを行い、「部門の目的」「働き方」「どのような人材がいるか」について質問を通じて情報を収集しました。また、これらの情報を定量的なデータとして整理し、活用できる形にまとめました。
作成したマップでは、横軸に「お客様に向かう仕事か、社内に向かう仕事か」を、縦軸に「日々の業務を回す安定運用か、機会創出を目指す仕事か」を設定しました。この2軸のもとで、全社の部門をマッピングし、視覚的に分かりやすい形にしました。
さらに、マップ上に「あなたはここにいる」という現在地を示す仕組みを導入し、社員自身が「この先、右に進むのか、左に進むのか、それとも同じ場所にとどまるのか」を考えられるようにしました。このようなビジュアルツールを提供することで、キャリアの選択肢をより明確に意識できる環境を整えました。
武田氏
部門紹介は社員の関心を引くのが難しいテーマではありますが、マップに部門をプロットし、社員一人ひとりが自分の現在地を視覚的に把握できる仕組みを導入したことで、関心を高めるきっかけを作ることができました。自分の「住所」がわかると、人は自然と次にどこに向かうべきかを本能的に考えるようになるものです。
これまでも手上げ制度は存在していましたが、実際に利用する社員は全体の1~2%にとどまっていました。そのため、この制度をより多くの社員に活用してもらい、キャリアの幅を広げる機会を提供したいと考えました。異動を通じて多彩なキャリアを築く社員をこれまで数多く見てきた経験から、人事部門としてはまず100件の利用を目標に掲げ、取り組みを進めました。
パーソナリティデータの効果的活用
田中
社員の可能性や意欲を引き出すために、どのようにパーソナリティデータを活用されていたのでしょうか?
武田氏
360サーベイを活用する際、多くの場合、評価結果では自分の予想より低い点数や不足している部分に目が向きがちです。しかし、私たちはそのようなアプローチではなく、レーダーチャートそのものを「その人の特徴を表す形」として捉える視点を取り入れました。足りない部分を補おうとするのではなく、「あなたの強みを活かしながら、こんなことを意識してみてはどうでしょうか」といった、前向きなメッセージを伝えることに重点を置きました。
このアプローチを実現するために、点数ではなくテキストによるフィードバックに重点を置きました。イー・ファルコンと協力して作成したフィードバックシートは、社員が次のステップに向けて前向きになれるよう設計されています。このシートは単なる評価結果の提示ではなく、個人の成長を促し、励ましとなるツールとして機能することを目指しました。
増尾
夢中力診断は、一般的な360度評価とは異なる独自の特徴を持っています。その中心的な要素が「あなたの夢中力」という項目で、これを7つのタイプに分類して結果を視覚的に表示しました。また、診断結果に応じて個別のアドバイスを提供する仕組みを導入しました。
具体的には、自己評価と他者評価がともに低い場合には「新たな一歩を踏み出すためのヒント」を、両方が高い場合には「現在の勢いを維持するためのアドバイス」を提示しました。さらに、自己評価と他者評価にギャップがある場合には、それぞれの状況に応じた具体的な次のステップを示し、社員が前向きに成長できるようサポートする仕組みを整備しました。
田中
武田さんにとってパーソナリティデータを活用する価値とはなんでしょうか?
武田氏
私自身も何度もイー・ファルコンの適性検査を受けていますが、環境の変化によってタイプが変わることを実感しています。この点から考えると、パーソナリティデータは自分の現在地を把握するための指標であり、今後の進むべき方向を考える上での一つの要素といえます。
組織の観点では、私が特に意識しているのは「多様性」です。組織内にさまざまなタイプの人がいることを認識したり、「こういったタイプの人がいると良い」と考える際に、適性検査はその多様性を可視化するための有用なツールだと思います。
Q&A
360サーベイの活用と課題
Q:あまり多くないかと思いますが、360サーベイの中で自己評価が他者評価より高い場合はどのようにフィードバックをしていますか?
増尾
自己評価が他者評価より高い場合などの傾向は、実は企業ごとに大きく異なるのが実態です。自己評価が高い人が多い企業もあれば、その逆の企業もあります。この違いに対して「高いから良い」「低いから悪い」という単純な判断をするのではなく、客観的に「認識の違いがどこから来ているのか」「視点のどこがずれているのか」を考えるきっかけとしていただきたいと考えています。
そのため、フィードバックにおいては、こうした違いを社員自身が振り返り、気づきを得られるような方向性を意識して行うことが重要です。
武田氏
360サーベイの結果は、単独でフィードバックするのではなく、日常的なフィードバックや定期評価のタイミングで併せて伝えることを推奨していました。そのため、ライン管理者にはこの方法をアドバイスしていました。
360サーベイの結果を人事から一方的に伝えるだけでは効果が薄いと感じています。それよりも、日頃からフィードバックを行っている上司が360サーベイを取り入れながら伝える方が、本人にとってより響きやすいと考えています。
取り組みの効果検証と改善サイクル
Q:取り組みの効果検証はどのようにしていましたか?
武田氏
手上げ制度の利用増加を目的に作成したマップについては、利用者数が4〜5倍に増加するなど、大きな効果を上げました。この成果が、私たちが望んでいた状態にどれだけ近づけたのかを注視しながら進めていました。
また、新卒採用に活用していた夢中力診断では、細かく振り返りを行い、選考が中断した候補者について「どのようなタイプだったのか」「何があれば辞退を防げたのか」を詳細に分析しました。その結果をもとに、採用サイトのメッセージを改善したり、コンテンツを変更したりといったところまでをPDCAサイクルと考えて運用していました。
まとめ:データ活用が拓く人材マネジメントの未来パーソナリティデータの効果的活用
今回のセミナーでは、データを活用した人材マネジメントの重要性と実践方法について、多くの具体例が紹介されました。武田氏は、多様な人材タイプの定義や「夢中力」の可視化、候補者体験の向上、そしてキャリア自律を支援する仕組みなど、実際に行われた取り組みを丁寧に解説してくださいました。また、パーソナリティデータを活用して個人の強みを引き出し、成長につなげるアプローチも印象的でした。
これらの取り組みは、人的資本経営を推進する上で非常に実践的で、現場にすぐに活かせる内容ばかりでした。特に、データ活用と人間的な判断をバランス良く組み合わせることが、組織全体の成長にとって欠かせないポイントであることが伝わってきました。
本記事は、セミナーの一部を紹介したものです。より詳細な内容は、以下のアーカイブ動画でご覧いただけます。
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