「自己肯定感の低い人」の特徴とは?部下の自己肯定感を高めるためにできること
「自己肯定感」という言葉を、よく耳にするようになりました。
自己肯定感が低いと、人間関係でつまずくことが多く、生きづらさを抱えやすくなります。これは、職場においても同じです。
会社は、第三者の評価にさらされたり、同僚や部下と比較されたりと、自己肯定感の低い人にとって、試練の多い場といえます。
この記事では、自己肯定感が低い人に見られる特徴や、上司としてどう振る舞うべきかについて、考えていきたいと思います。
ご自身の自己肯定感を高めたい方はもちろん、
「部下の自己肯定感の低さが、気になっている」
というマネジャーの方へ、ヒントとなれば幸いです。
自己肯定感が低いと職場で何が問題なのか
まず、前提となる基本的な事項から押さえておきましょう。
自己肯定感とは何か?
自己肯定感とは、
「自分が自分であって大丈夫」
と感じられる感覚のことです。
近年、言葉の拡散にともなって、さまざまに解釈された説明が増えていますが、ここでは心理学の専門家である、大阪経済大学・古宮昇教授の解説を引用します。
▼ 自己肯定感とは何か?
自己肯定感とは、自分のことが好きという感じ方であり、そのままの自分を認められる、受け入れられる、という感覚です。それはまた、今のままの自分のことが愛おしい、大切だ、好きだ、と感じられるということです。
自己肯定感は人生すべての基礎です。そのままの自分が好きだ、大切だと感じられるかどうかは、人生のすべてに大きく影響します。
家族との関係、恋人や配偶者との関係、子どもとの関係、友達や職場の人間関係、そして人としての魅力、収入、生活の質、健康……など、本当にすべてに関わります。
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「自己肯定感は人生すべての基礎」と説かれているとおり、自己肯定感が低ければ、職場での人間関係や生産性にも、多大な影響を与えます。
自己肯定感が低い本当の理由
自己肯定感が低い人は、安定感がありません。
「自分はそのままで大丈夫」と思える、生きていくうえで必要な土台がないために、他人の目や評価に、振り回されやすいからです。
古宮教授は、“自己肯定感が低い本当の理由” として、以下のとおり述べています。
自己肯定感が低くなる本当の理由は、学校の成績が悪かったなど何か特定のことができないとか、自分の容姿が嫌いというような特定の欠点があるからではありません。
では本当の理由は何でしょう。
そのとても大きなものは癒えていない“心の痛み”なのです。
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そして、とくに重要なのは、「子どもの頃に、親との関係で負った心の痛み」だといいます。
職場で注意すべき2つのポイント
「自己肯定感の低さの背景には、癒えていない、過去の心の痛みがある」
と知っておくことは、次の2つのポイントで重要です。
1つめは、心が健全な人の「自信がない、コンプレックスがある」といった感覚と、深刻な心の痛みを抱えている人の「自己肯定感の低さ」を、同一視することの危険性です。
「自己肯定感の低さは、根っこの深い問題である」
と、認識しなければなりません。
2つめは、背景に「親との関係」に絡む、“育ちの傷”を抱えている可能性が高いことです。
過去の親子関係を、職場の人間関係(たとえば上司と部下)に投影する、といったことが起きやすいと知っておきましょう。
自己肯定感が低い人の特徴
自己肯定感が低い人の特徴を具体的に挙げると、以下の5つのポイントがあります。
- 人の機嫌を損ねるのを恐れる
- 評価に過剰反応する
- 能力をセーブする
- 能力以上の無理をする
- ヘルプを出せない
それぞれ見ていきましょう。
〔1〕人の機嫌を損ねるのを恐れる
1つめの特徴は「人の機嫌を損ねるのを恐れる」ことです。
自己肯定感が低い人は、他者の機嫌に対して敏感です。なぜなら、怖いからです。
母親の機嫌が悪いと怯える子どものように、上司や周囲の人たちの顔色をうかがっています。
結果として、組織の目的など、大局的な視点から見て優先させるべき行動よりも、
「今、目の前にいる上司の機嫌を損ねないこと」
のほうが、優先順位が高くなってしまうのです。
悪い報告をズルズルと後回しにする、顧客の利益よりも社内政治を優先させる、などの行動として表出します。
〔2〕評価に過剰反応する
2つめの特徴は「評価に過剰反応する」です。
自分に対しての指摘に、猛烈に噛みついて反論したり、あるいは褒められたときに強い高揚感を得たりと、評価に一喜一憂して、振り回される傾向があります。
人事考課の季節には、大きなストレスを抱えてしまい、メンタル面が落ち込む人も少なくありません。
自分に対する評価だけでなく、他者に向けられた評価にも、敏感です。
たとえば、後輩が褒められると嫉妬心にさいなまれる、といった具合です。
〔3〕能力をセーブする
3つめの特徴は「能力をセーブする」です。
とくに、「目立つ仕事」に関しては、チャレンジしません。自分を信用していないので、できるだけ人目につかず、安全圏にとどまりたい気持ちが強いのです。
周囲から見ると、
「せっかくのチャンスだから、挑戦すればいいのに」
と感じます。
しかし、本人は、
「自分はどうせダメだから」
という感覚が強いため、新しい一歩を踏み出せません。
〔4〕能力以上の無理をする
4つめの特徴は「能力以上の無理をする」です。
前項までお読みいただき、
「自己肯定感が低い人は、能力をセーブして、パフォーマンスが低くなるのか?」
と思ったかもしれません。
しかし実際には、力をセーブする面と、キャパシティを大きく超えて無理をする面の、二面性を持っています。
無理をするのは、「周囲からの期待に応えようとするとき」です。
自己肯定感が低い人にとって、「周囲の期待に応えられずに見捨てられる恐怖」は、非常に強いものです。
「期待に応えなければ、すべてが終わってしまう」
という強迫観念のもとに、努力を続けます。
周囲から「仕事に打ち込んでいて、すばらしい」と評価されることもありますが、本人は不安から逃れるために必死です。
〔5〕ヘルプを出せない
5つめの特徴は「ヘルプを出せない」です。
自己肯定感が低い人は、キャパシティを超えたときに「助けてください」がいえません。
「自分は、助けを求めたら、助けてもらえる」
という感覚がないからです。
助けを求めるという発想自体がなく、自分の力で何とかするしかないと、強い信念で思い込んでいます。
部下の自己肯定感を高めるために上司としてできること
もし、部下が自己肯定感の低いタイプだったら、上司として何ができるでしょうか。
ひとつには、前述の特徴を踏まえて、大きなトラブルにならないように、フォローアップしていくことが有益です。
もうひとつ、本質的な取り組みについて、お伝えさせてください。
自己効力感・自己有用感にとらわれるリスク
心理臨床家で、立命館大学名誉教授の高垣忠一郎氏の言葉を引用したいと思います。
「現代社会と若者の尊厳」と題するシンポジウムでのお話ですが、自己肯定感の低い部下と接するうえでも、重要な示唆の詰まったメッセージです。
「社会にでて会社に入り働くことで、自分が役に立っているという『自己効力感』『自己有用感』を得ることは大切なことであるが、それにとらわれないことも大切だ。
周囲の期待する必要に応えることによって、はじめて自分の存在が許されるかのような気持ちにとらわれる人、なにか『役に立つこと』をしていなければ自分の『居場所』がないかのような強迫観念に駆られている人をみれば、そのことがわかるだろう。
役に立って認められたり、誉められて『自己効力感』を得る以前に、自分という存在が周囲に承認されているという手応え、自分と共にいることによろこびを感じてもらえているという手応えを通じて得られる『自分が自分であって大丈夫だ』という自己肯定感をもつことがまず必要なのだ。
それを欠く人間がたくさんいることを忘れないで欲しい。
それを欠く人間が社会に有用であることを通じて得られる『自己効力感』『自己有用感』を一面的に求められると、それは『自分など存在しない方がいいのではないか』という自己否定に追い込まれるリスクに身を晒すことになりかねない。
そういう人々に触れる機会を多く持つ私のような心理臨床家が世の中に注意を喚起するために指摘するべきことはそういうことであろうし、またそれが責務であろうと思う。」
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良かれと思って追い込んでいないか
役に立って認められたり、褒められたりすることで得られるのは、『自己効力感』『自己有用感』であり、自己肯定感ではありません。
「自分という存在が周囲に承認されているという手応え」
「自分と共にいることによろこびを感じてもらえているという手応え」
これらを通じて得られる感覚が、自己肯定感なのです。
自己肯定感の低い部下と接するとき、良かれとおもって、期待したり、必要としたり、褒めたりしがちです。
そしてまた、自己肯定感の低い部下ほど、期待に応えようとがんばって、高いパフォーマンスを発揮することも、珍しくありません。
しかしながら、ベースに『自己肯定感』がない状態で自己効力感にとらわれることには、リスクがあると、気づかされます。
一歩間違えれば、自己肯定感の低さを源泉とする部下のモチベーションを利用して、仕事に追い込むことになりかねません。
人間の尊厳・存在そのものに価値を置いた接し方
では、どう接していけばよいのかといえば、
「人間の尊厳、存在そのものに価値を置いた接し方」
にほかなりません。
上司 / 部下である前に、ひとりの人間として、相手を尊重することです。
じっくりと目を見て話を聞くこと、どんなに忙しくても雑な応対をしないこと、微笑みを投げかけること——。
時間はかかるかもしれませんが、
「ひとりの人間として、尊重してもらっている感覚」
が土台に育ってくると、自己肯定感の低さゆえの癖は、だんだんと抜けていきます。
部下が部下らしく活躍できる土壌が整ったとき、本来のパフォーマンスを発揮して、会社に貢献してくれることでしょう。
さいごに
2000年代以降、成果主義的な思想が日本企業に浸透し、ビジネスライクなスタンスをとる人が増えました。
「社員が家族なんて、馬鹿げている」
「同僚は、友だちではない」
「会社は、学校じゃないんだから」
「ビジネスは、結果がすべて」
筆者は、これらはすべて、とても正しいと思います。
ただし、これらは人間の尊厳(存在そのものの価値)とはまったく別軸の概念であり、トレードオフされるものではありません。
海外企業の方々と仕事をすると、ビジネスにはきわめてシビアでも、相手の人間としての尊厳は(日本企業で働く人以上に)、尊重しているように感じます。
と同時に、日本にいる私たちは、何か大切なものを置き忘れてはいないだろうかと、不安になります。
企業が、人間の尊厳を守りながら経済成長を遂げられるよう、まずは自分の振る舞いから、見直していければと思います。
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。
*1
出所)古宮昇『一生使える!プロカウンセラーの自己肯定感の基本』p.14
*2
出所)古宮昇『一生使える!プロカウンセラーの自己肯定感の基本』p.26
*3
出所)高垣 忠一郎『私の心理臨床実践と「自己肯定感」』p.7、『立命館産業社会論集』 2009年6月
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_8732247_po_03-02.pdf?contentNo=1