人事部の資料室

「特定技能制度」変更のポイントは?日本は外国人労働者に選ばれる国になる?

作成者: e-falcon|2023/10/31

「特定技能」とは、人材の確保が困難な一部の産業分野での人手不足に対応するため、即戦力となる外国人材を労働者として受け入れるための在留資格で、2019年に創設されました。
「特定技能」には1号と2号があり、2号は更新すれば在留期間に上限がなく、家族の帯同も可能であることから、実質的な移民と捉える人もいます。

2023年に入り、「特定技能」に関する制度の運用方針に変更が行われ、さらにそれとは別の変更に関する方向性も示されました。

外国人労働者獲得の国際競争は激化しており、「特定技能」の在留者は当初の見込みを大きく下回っています。

「特定技能」の概要と、運用状況、最近の変更と今後の方向性、課題についてわかりやすく解説します。

国内の人手不足をカバーする即戦力

まず「特定技能」の背景についてみていきましょう。

「特定技能」の在留資格創設の背景には、人手不足の問題があります。
現在は、特に中小・小規模企業での人手不足が深刻化しています。以下の図1は、中小企業の産業別従業員数過不足DIを表しています。*1

出所)中小企業庁「2023年版「中小企業白書」全文>第1部 令和4年度(2022年度)の中小企業の動向」p.24
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2023/PDF/chusho/03Hakusyo_part1_chap1_web.pdf


従業員数過不⾜DIとは、従業員の今期の状況について、「過剰」と答えた企業の割合から、「不⾜」と答えた企業の割合を引いたものです。
従業員数過不足DIは、2013年第4四半期に全ての業種でマイナスになり、その後は人手不足感が高まる方向で推移していました。

そうした背景もあり、生産性向上や国内人材確保のための取り組みを行っても人材を確保することが困難な産業分野の人手不足をカバーするために、2019年に設けられたのが、在留資格「特定技能」です。*2, 3

その後、2020年第2四半期にはコロナ禍の影響で一旦、この傾向が一転し、急速に不足感が弱まり、製造業と卸売業ではプラスとなりました。しかし、現在ではいずれの業種もマイナスに転じ、中小企業の人手不足感が強まっています。

なお、在留資格とは、「外国人が日本で行うことができる活動等を類型化したもので、法務省(出入国在留管理庁)が外国人に対する上陸審査・許可の際に付与する資格」です。*4
「特定技能」以外にも日本国内で就労が可能な在留資格は複数ありますが、在留期間や活動内容、求められる要件などがそれぞれ異なります。

「特定技能」とは

次に、「特定技能」の概要についてみていきます。

「特定技能1号」と「特定技能2号」

「特定技能」には、以下のように2種類の在留資格があります。*2

  • 特定技能1号:特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格
  • 特定技能2号:特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格

「特定技能1号」と「特定技能2号」には以下のような違いがあります(図2)。

出所)法務省「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p.6
https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf


図2にあるように、「特定技能2号」は更新すれば在留期間の上限がなく、事実上永住が可能で、家族の帯同もできることから、実質的な移民だと捉える人もいます。

12の特定産業分野

「特定技能1号」の受入れ分野は以下の12特定産業分野です(図3)。*5

出所)特定技能総合支援サイト「特定技能制度とは>在留資格「特定技能」>受入れ分野」
https://www.ssw.go.jp/about/ssw/


これらの分野にはそれぞれ所轄の省庁が定められており、「介護」と「ビルクリーニング」は厚生労働省、「素形材産業・産業機械製造業・電気電子情報関連産業」は経済産業省、「建設」「造船・舶用工業」「自動車整備」「航空」「宿泊」は国土交通省、「農業」「漁業」「飲食料品製造業」「外食業」は農林水産省の管轄です。*4

「特定技能2号」の受入れ分野は、従来は2分野でしたが、2023年6月に閣議決定によって、上の12特定産業分野から「介護分野」を除いた11分野に拡大することが決まり、同年8月31日から開始されています。*6
介護分野については、現行の専門的・技術的分野の在留資格「介護」があることから、特定技能2号の対象分野とはしませんでした。

また、この閣議決定により、「特定技能2号」の技能水準を測る試験は、法整備が整った段階でそれぞれの分野を所管する省庁が、既存の試験の他に各分野で新たに設ける試験の実施要領を定め、随時開始することになりました。

新たな方向性

2023年10月18日、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回)」が開催され、最終報告書作成に向けて「最終報告書たたき台」(以下、「たたき台」)が示されました。*7
その概要をみていきましょう。

技能実習制度の解消と新制度「特定技能1号」との関係性

「たたき台」には、「新制度及び特定技能制度の位置付けと関係性等」として、以下の3点が示されています。*7

  • 現行の技能実習制度を発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設。
  • 基本的に3年の育成期間で、特定技能1号の水準の人材に育成。
  • 特定技能制度は、適正化を図った上で現行制度を存続。

ここで、「特定技能」と混同されがちな「技能実習」との違いを明確にしておきましょう。

「特定技能」は、上述のように、人手不足に対応するため、一定の専門性・技能をもつ外国人材を即戦力のある労働者として受け入れるものです。

一方、「技能実習」は、「現場での実習を通じて日本の様々な技術を習得した後で帰国し、その技術を母国に広めるという国際貢献を目的とする」ものです。*4
「技能実習2号」の修了者には、「特定技能」に在留資格を変更するというルートも開かれています。

「技能実習」をめぐってはこれまで人権上のさまざまな問題が指摘されていました。
たとえば、国際貢献を掲げながら労働力となっているという実情があります。中には低賃金で長時間働かせる受入れ機関も存在し、昨年は9,000人以上の実習生が失踪しました。*8
同一企業で計画的に技能を学ぶべきだという考えから、原則、転籍を認めないため、待遇が悪くても転籍しづらく、人権侵害だという声もあります。*9

そうしたさまざまな問題に対して見直しが迫られていましたが、「たたき台」では、今後、技能実習制度を解消するという方向性が示されました。
そして、「技能実習」にかわる新制度案では、同一企業で1年を超えて働き、基礎的な技能試験や日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5など)に合格すれば、転籍を認めることが盛り込まれています。*10

また、不適正な受入れ・雇用を排除するとともに、国や自治体が送出国と連携し、不適正な送出機関を排除することも盛り込まれています。*7

新制度から「特定技能1号」への移行

新制度は「特定技能1号」への移行を目指すものです。*10
「たたき台」には、新制度と「特定技能」との関係が下の図4のように示されています。*11

出所)法務省「参考資料 現行制度と新制度のイメージ図」p.1
https://www.moj.go.jp/isa/content/001404167.pdf


現行の制度では「技能実習2号」から「特定技能1号」へのルートは、海外から来日する外国人向けのルートと日本国内に在留している外国人向けのルートがあり、それぞれ「試験ルート」(技能試験と日本語試験に合格した人)と「技能実習ルート」(技能実習2号を良好に修了した人)に分類されます。*2

一方、新制度から「特定技能1号」への移行の要件は、以下の2点です。*7

  1. 技能検定3級等又は特定技能1号評価試験合格
  2. 日本語能力A2相当以上のレベル(日本語能力試験N4合格など)

日本は外国人労働者に選ばれる国になれるのか

上述の「特定技能2号」受入れ分野の拡大の背景には、幅広い分野で長期滞在が可能な在留資格へ移行する環境を整備し、優秀な人材を海外から呼び込み、少子高齢化の進行による労働力不足に対応したいという政府の思惑があります。*12
ではそのとおりになるのでしょうか。

「特定技能」在留外国人の数

「特定技能」の在留外国人数は、2023年8月末時点(速報値)で、「特定技能1号」は184,193人、「特定技能1号」は17人で、在留資格創設時の受入れ見込数(5年間の最大値)の345,150人を大幅に下回っているものの、最近は順調に増加しています(図5)。*2, *13

出所)法務省「外国人材の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」p.17
https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf


ただし、「特定技能1号」のルートをみると、「技能実習」からの移行が全体の約70%を占めており(2023年6月末速報値)、新たな外国人労働者の獲得にはつながっていない状況が窺えます。*14

待遇

「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、2022年の一般労働者の月給31万1,800円に対して、「特定技能」は20万5,700円です。*15, *16

「たたき台」には、日本語教育機関を適正化し日本語学習の質を向上すること、自治体で生活相談を受ける相談窓口の整備を推進すること、手数料などの透明性を高め送出国間の競争を促進すること、受入れ企業が来日前手数料を負担する仕組みを導入することなども盛り込まれています。*7

今後、日本が外国人労働者に選ばれる国になるためには、国、自治体、民間のそれぞれが外国人労働者の受入れ体制を整えることが必要でしょう。

変更への反発

「特定技能」に関わる変更に対しては、反発の声も挙がっています。

在留期限の上限がない「特定技能2号」の受け入れ分野拡大は、「事実上の移民受け入れになりかねない」と懸念する声が挙がりました。それに対して官房長官は「厳格な審査を経て更新を認めるものであり、無期限の在留を認めるものではない」と、移民政策をとる考えはないと述べたことが報道されました。*17

また、「たたき台」で示された新制度の「一つの企業で1年を超えて働くなど一定の要件を満たせば転籍を認める」案について、国会議員から「地方から人材が流出する」「転籍を認めるのが早すぎる」「2年は必要」などの声が上がっているとも報道されました。
さらに、転籍の要件である日本語能力についても、「より高い水準に設定すべき」だという意見があったということです。*18

日本は選ばれる国になれるのか

国は2023年の秋に有識者会議がまとめる最終報告書をふまえ、2024年の通常国会に新制度創設のための関連法案を提出することを目指しています。*8

先進国で少子化が進み、外国人材の獲得競争が激化する中、外国人労働者に選ばれる国になれるのかどうか、そうした方向性に進めるのかどうか、日本は今、その岐路に立っているといっていいでしょう。