組織の変革に抵抗する心理とは?リーダーとしてどう対処すべきか
近年、世界中の企業が、変革の必要性に迫られています。
とくに、デジタルトランスフォーメーション(DX)や業績悪化によるレイオフ(解雇)の話題は、毎日のように耳にします。
しかし、いざ組織が変革に着手するとき、かならず生まれるのが「抵抗」です。
抵抗はなぜ生まれ、リーダーはどう対処すべきなのでしょうか。本記事では、そのヒントをお届けします。
なぜ人は変化に抵抗してしまうのか
まず考えたいのが、
「なぜ、人は変化に抵抗してしまうのか?」
という問いです。
人間の性質はイノベーターから保守層までさまざま
イノベーター理論の提唱者であるエベレット・ロジャースは、消費者を以下の5つに分類しました。
*1
出所)Everett M. Rogers『Diffusion of Innovations, 5th Edition』p.281 Kindle 版 を元に筆者作成
たとえば、“スマートフォン”のように、革新的な製品が登場したとします。
早期に受け入れ、いち早く試そうとするのが、[イノベーター]です(上図の左)。
時間の経過とともに、[アーリーアダプター]→[アーリーマジョリティ]→[レイトマジョリティ]と受け入れる人が増えていき、最後が[ラガード]となります。
ラガードは、きわめて保守的で、変化を好まない層といえます。
保守層が一定割合いて普通
ロジャースの分類は、マーケティング分野で、よく知られたフレームワークです。
筆者の経験では、これが組織変革においても、ぴったりと適合しました。
たとえば「30人の会社」なら、変革に積極的なイノベーター(2.5%)は、1人いるか・いないかです。
一方、最後まで強い抵抗を見せるラガード(16%)が、たいてい5人ほどいます。
このような理論を頭の片隅においておくと、一部の反対者がいたとしても、
「セオリーどおりだから、そりゃそうだ」
と、余裕を持って受け止められるのではないでしょうか。
レイトマジョリティやラガードの心理
“変化に抵抗する人”というと、多くの場合、ネガティブな文脈で語られます。
- 未知への不安が強い
- 失敗を恐れている
- 新しいことへの挑戦心がない
- 皮肉屋で反対しないと気が済まない
- 自分の立場を失うのが怖い
といった具合です。
しかしながら、筆者が接してきたレイトマジョリティやラガードの人たちは、かならずしもネガティブではありませんでした。
以下に例を挙げましょう。
- 過去の努力に対する愛着がある
“いまのやり方”を構築するまでに多大な努力の積み重ねがある人ほど、その努力に対する愛着が強いために、簡単には手放したくない心境になります。 - 過去の成功の記憶と失敗の記憶
「変更したら失敗した」「現在のやり方で成功した」といった経験則を持っている場合、とくにその体験が強烈だった場合、組織のためを思って抵抗したくなります。 - 現状が快適である
いま現在、快適に不満なく働けている人ほど、その快適性が失われるのは避けたいと思い、変化に対して消極的になります。
レイトマジョリティやラガードの心理は、非常に合理的ともいえます。
にもかかわらず、「恐れが強い」「挑戦心がない」と、保守的であることが悪のように断じれば、分断が強くなるばかりではないでしょうか。
組織変革のためにリーダーが実践すべきこと
では、組織変革のためにリーダーが実践すべきことは、何でしょうか。3つのポイントをご紹介します。
- 変革のための指針
- トラパタ
- チームメンバーの特性の把握
1. 変革のための指針
まずご紹介したいのが、変革のリーダーシップにおける心構えです。
リーダーシップ論の権威であるジョン・P・コッターの著書では、
〈変革のリーダーシップに関する研究によれば、チームが多くの人たちに行動を起こさせるためには、リーダーがいくつかの原則に従うことが有効だという〉
として、以下の「変革のための指針」が紹介されています。
【変革のための指針】
- やらなくてはならないこと+やりたいこと
自分が魅力的な機会の追求に参加していると感じている人は、 通常の役割に加えて、 変革の推進にも尽力する。 人々がポジティブな感情をいだける経験をさせることは、 有意義な行動を引き出すうえで効果的だ。- 理性+情熱
合理的・分析的な主張だけで人々の支持を獲得することは難しい。人々の感情に訴えかけ、 やりがいを感じさせることができれば、目を見張る成果を生み出せる。- マネジメント+リーダーシップ
機会を生かすためには、リーダーシップが非常に重要だ。 それも、 ひとりのトップがリーダーシップを振るうだけでは十分でない。 マネジメントを実践することに加えて、 ビジョン、行動、 イノベーション、 成功の祝福が大きな意味をもつ。- 少数の精鋭+多様な大勢
ほかの誰かが決めた目標を実行するだけでなく、 主体的に変革を遂行する人をもっと増やすべきだ。 それがうまくいけば、 あらゆる組織階層でリーダーが登場し、「大勢の力」 を引き出せる。
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組織変革の際には、何度でも思い出したい4項目です。
2. トラパタ
前述の指針を踏まえて実行へ移すとき、有益なツールとして「トラパタ」があります。
トラパタは「トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ ※」の略で、情報処理推進機構(IPA)が提唱している概念です。
簡単にいえば、「トランスフォーメーション(変革)の成功パターンを言語化したツール」が、トラパタとなります。
※ 補足:パターン・ランゲージとは?
パターン・ランゲージは、良い実践の秘訣を共有するための方法です。
成功している事例やその道の熟練者に繰り返し見られる「パターン」を抽出し、抽象化を経て言語(ランゲージ)化しています。
そういった成功の“秘訣”ともいうべきものは、「実践知」「センス」「コツ」などといわれますが、なかなか他の人には共有しにくいものです。
パターン・ランゲージは、それを言葉として表現することによって、秘訣をもつ個人が、どのような視点でどのようなことを考えて、何をしているのかを他の人と共有可能にします。
*3
以下は、トラパタの概要です。
*4
出所)独立行政法人情報処理推進機構「トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ(略称トラパタ)」p.5
https://www.ipa.go.jp/files/000090310.pdf
詳細は、IPAのWebサイト「トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ(略称トラパタ)」にて、わかりやすく解説されています。
本質的な考え方からスタートしながら、実践的なアプローチを実現できるため、多くの企業におすすめのツールです。
3. チームメンバーの特性の把握
3つめのポイントは、チームメンバーの特性を、きちんと把握しておくことです。
誰がイノベーターで、誰がラガードなのか、事前の理解があれば、先手を打ってフォローアップできます。
具体的なアイデアとして、適性検査の導入が有効です。
*5
出所)eF-1Gの特徴
https://www.e-falcon.co.jp/ef-1g/features
イノベーションや、環境変化への適応に関する領域を網羅した適性検査を実施しておくと、変革時の大きな助けとなります。
さいごに
本記事では「組織変革」をテーマにお届けしました。
組織変革において最も重要なことをひとつ挙げるなら、バランス感覚ではないでしょうか。
「変わらなければ、生き残れない」と同時に、「恒常性がなければ生命を維持できない」という一面もあるからです。
メンバーをよく理解したうえで、バランス感覚のあるリーダーシップを発揮することが、変革を成功させるカギとなります。
組織変革のヒントとしていただければ幸いです。
ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。
*1
出所)Everett M. Rogers『Diffusion of Innovations, 5th Edition』p.281 Kindle 版 を元に筆者作成
*2
出所)ジョン・P・コッター 『CHANGE 組織はなぜ変われないのか』p.53 Kindle 版
*3
出所)独立行政法人情報処理推進機構「トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ(略称トラパタ)」p.2
https://www.ipa.go.jp/files/000090310.pdf
*4
出所)独立行政法人情報処理推進機構「トランスフォーメーションに対応するためのパターン・ランゲージ(略称トラパタ)」p.5
https://www.ipa.go.jp/files/000090310.pdf
*5
出所)eF-1Gの特徴
https://www.e-falcon.co.jp/ef-1g/features