地方企業の人手不足解消にも貢献 「しごとコンビニ」の仕組みと効果とは
「しごとコンビニ」の導入が広まりつつあります。しごとコンビニとは、官民連携で行う業務委託型短時間ワークシェアリングです。
世の中には、年齢や時間など何かしらの制限があって、働きたいけれど働けない人の「少しだけ働きたい」ニーズがあります。その一方で、「少しだけ手伝ってほしい」というニーズもあります。そうした2つのニーズを発掘してつなぐ事業、それが「しごとコンビニ」です。
人手不足の解決手法の1つにもなっている「しごとコンビニ」の仕組みと現状、事例をご紹介します。
仕組みとポイント
まず、「しごとコンビニ」の仕組みと仕事の流れをみていきましょう。
仕組み
図1は「しごとコンビニ」の仕組みです。*1
出典:一般社団法人つながる地域づくり研究所・株式会社はたらこらぼ「しごとコンビニ」
https://shigoto-conveni.jp/
図の真ん中にあるのが拠点で、トレーニングを受けた専門スタッフが常駐しています。
依頼主は、事業所や住民、行政など。仕事をするのは面接を経て「登録メンバー」になった住民です。
専門スタッフは、両者の希望を丁寧にヒアリングし、仕事を時間・業務内容両面で分解し、チーム制で責任の分散をするなどの工夫をして、それぞれの希望がかなうように両者を繋ぎます。
「しごとコンビニ」用にカスタマイズされた仕事は「おしごと情報」として発信され、登録メンバーは自分の都合に合うものを選び、手を挙げます。
もしやりたい仕事をするための知識や経験、技術が不足していても、勉強会や仲間、あるいは専門スタッフからのフォローがあるので、さまざまな仕事に挑戦することができます。
仕事の流れ
仕事の流れは以下の図2のとおりです。*2:p.3
出典:内閣府 「「しごとコンビニ」事業(奈義町まちの人事部)」 (第1回地方創生×全世代活躍まちづくり検討会 参考資料1)p.3
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/shoshikataisaku/h31-04-15-sankou1.pdf
ポイント
この取り組みは「2020 GOOD DESIGN AWARD」を受賞していますが、同賞で評価されたのは以下のようなポイントです。*3, *4
1. 仕事の発掘:事業所へのコンサルティングで働く人を求める要因を明確にし、仕事を時間と業務の両面から分解
例えば、文字おこしの仕事なら、短時間でも仕事ができるように、録音データを分割して発注したり、データの入力やチェック業務を分けて発注するなどして、働く人の都合や能力に合わせて働けるやり方を考えています。
2. 働く人の発掘1:1人ひとりの登録者との面談を起点に、足りない知識・技術は丁寧な教育と伴走で伸ばす
登録メンバーの1人ひとりと定期的に面談を行ってカルテを作成し、やりたいこと、得意なこと、なりたい姿などを聞いて、登録者に合わせて研修をカスタマイズしています。また、「しごとコンビニ」の委託事業主である地域の行政が受注した仕事でスキルを積み、その後、企業からの仕事に移行するなどステップアップも図っています。
出典:一般社団法人つながる地域づくり研究所・株式会社はたらこらぼ「しごとコンビニ」
https://shigoto-conveni.jp/
3. 働く人の発掘2:業務委託形態により柔軟な働き方を可能にし、精神面・実務面の責任をチーム制で分有させる
雇用ではなく「業務委託」という働き方を採用することで、登録メンバーが自分の都合に合わせて、仕事をするかしないか、どの仕事をするか、いつするかなどを自分自身で選ぶことができます。*1
また、努力次第で時間あたりの単価を上げることもできるため、仕事の質や意識が向上することが期待できます。
育児や介護、自身の体調などで迷惑をかけたくないからと、働くことを諦めている人もたくさんいます。チーム制で「お互いさま」の精神で働くことで、就業のハードルを下げると同時に、1人ではできない仕事にも挑戦できる環境を作っています。
背景と経緯
現在は日本各地に広がりつつある「しごとコンビニ」ですが、はじまりは岡山県の北東部に位置する奈義町でした。*4
同町では町民が「ちょっと働きたい」というニーズを持つことに着眼し、町民と地元企業をつなげる「まちの人事部」プロジェクトに取り組んでいます。これは国の地方創生推進交付金を活用した事業ですが、「しごとコンビニ」はそのプロジェクトの一環として行っています。
町の委託を受けて運営に当たっているのは、奈義町の地域再生推進法人に指定されている一般社団法人「つながる地域づくり研究所」と人材育成・採用のプロ、株式会社「はたらこらぼ」。*1, *4
同町には、就労していない子育て中の女性や高齢者から、「本当は働きたい」「自分の都合に合わせて、空き時間を活用して働けたら」という声が多数ありました。*3
そこで、地域の事業所を訪問調査したところ、人手不足で「事業の継続や発展が困難」という回答が8割に上りました。
こうしたミスマッチの要因を探るためにさらに聞き取りを進めると、働きたい人と事業所の双方に「地方には、働く人も、仕事もない」という諦めと、「就労=雇用」という固定観念があることがわかりました。
また、「働きたい」理由がお金を稼ぐことだけではなく、やりがいや人とのつながり、自分の成長だという住民も多くいました。
そこで、地域の働く人と仕事を発掘してつなぎ、「働く目的」や「なりたい自分」の実現をサポートする仕組みと場を構築すれば、仕事を通じたコミュニティが生まれ、地域も活性化すると考えたのです。
その結果、「しごとコンビニ」が本格的に始動してからの2年間で、同町の非生産労働人口の1割相当が登録メンバーになり、延べ稼働者数は町の人口を超える6,283人件、累計支払い報酬額は23,418,754円に上り、奈義町内や岡山県内はもちろん、東京などの遠方からの案件も増えつつあるといいます。*1, *4
こうした成果の要因として、民間の発想で仕事が発掘されていること、町が業務の発注に協力していること、町からの委託事業であることが町民や企業の安心感につながっていることなどが挙げられます。
国の地方創生推進交付金を活用した事業としてスタートした「しごとコンビニ」ですが、今後は事業として自立していくことを目指しています。
取り組み事例
2016年に始動した奈義町の「しごとコンビニ」は現在、徐々に広がりつつあります。*5
2020年には北海道東川町、2022年には鳥取県南部町や奈良県高取町でも始まりました。導入を検討している自治体もいくつかあります。
導入のサポート
「しごとコンビニ®」の導入を支えるのは、「しごとコンビニ®スーパーバイザー」。*1
「3ヶ月滞在+定期訪問+オンラインサポート」によって、導入・運営のサポートを行っています。
1年目は、事業を行う上で必要な知識や技術のレクチャー、まちの仕事調査や拠点づくりのサポート、仕事や登録者集めに関するOJT研修を行います。運営スタッフの募集が必要な場合は、採用サポートとして募集や説明会なども行います。
2年目以降は、定期的な訪問とオンラインで、情報共有やサポートをし、質の担保・向上を図っています。
コロナ禍での支援事業から始まった取り組み
内閣府の「地方創生図鑑」に掲載された取り組み事例をみていきましょう。*6
北海道東川町での取り組みです。
コロナ禍の自粛ムードで飲食店へのダメージが懸念される状況が日本全国を覆いつくしました。同町でもテイクアウトを開始する店舗が増え始めた2020年4月、商工会青年部がテイクアウト実施店を紹介するチラシの作成・発信を開始しました。
そこで、同町は商工会青年部と連携し、飲食店支援、住民支援、経済対策ができないかを協議し、導入したばかりの「しごとコンビニ」のスキームを生かして、「出前イーツひがしかわ」を立ち上げました。町内の飲食店を対象に、町内に配達エリアを限定した出前サービスです。
飲食店の支援に留まらず、「しごとコンビニ」の仕組みを活用して町民の雇用を創出すると同時に、コロナ禍でなかなか買い物にも行けないという町民の生活支援にもつなげました。
現在、同町ではさまざまな分野で「しごとコンビニ」が活用されています(表1)。*7
出典:しごとコンビニ「東川しごとコンビニ」
https://higashikawa-sc.jp/
依頼した企業からは以下のような声が寄せられています。
- 毎月の経理業務や確定申告の書類作成に時間と労力がかかり、他の業務が滞ることがしばしばあったため、自分たちの仕事に専念したいと思い発注することにした。毎月時間を取られていた経理の一部や確定申告の手伝いなどの業務を行ってもらい、とても助かった。(成人のための教育機関)
- 家具の研磨作業の経験者を募集していたが、応募がこない状況が続き、「しごとコンビニ」に相談した。事前に企業理念や業務内容を伝えられ、働いていただく方の仕事に対する考え方や人柄を確認できたことで、余計な心配や不安を抱えることなく、スムーズに業務が開始できた。(特注家具製造業)
- 風呂掃除・食器洗い・レストランでの接客を求人媒体で募集していたが、なかなか定員に達する応募が来ず、継続して採用活動を行なっていた。「しごとコンビニ」で迅速に人員調整ができ、滞りなく業務を進められた。業務内容の打ち合わせを事前に行った上で仕事をスタートさせたので、ミスマッチもなく、非常に助かった。安心して仕事を任せることができている。(ホテル・リゾート施設)
人手不足の解消方法としての「しごとコンビニ」
人手不足が深刻化しています。
帝国データバンクの調査によると、2022年10月時点で人手不足を感じている企業の割合は、正社員51.1%、非正社員31.0%で、国内で新型コロナウイルスの感染が本格的に拡大した 2020年4月以降でそれぞれ最も高い割合となっています(図4)。*8:p.5
出典:株式会社帝国データバンク「特別企画: 人手不足に対する企業の動向調査(2022年10月)」p.5
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221110.pdf
厚生労働省の調査によると、人手不足感は特に中小企業で顕著であり、三大都市圏以外も三大都市圏と同様に高まっているとのことです。*9:p.6, p.7, p.8
人手不足を緩和するための対策に取り組んできた企業の割合は86%(2019年)と決して低くはありません。しかし、そうした対策の内容については、新規求人や中途採用など労働市場からの「外部調達」や、 雇用継続や正社員登用などの企業内における「内部調達」などの実施率が比較的高い一方で、「雇用管理の改善」や「従業員への働きがいの付与」といった、職場環境の改善に着目した取り組みはまだ十分に浸透していないことが指摘されています。
そうした視点からみると、仕事・働き手の発掘方法やマッチング、雇用形態、仕事起点ではなく働く人のニーズを大切にしている点、スキルアップの支援、地域密着型であることなど、「しごとコンビニ」は実に示唆に富んだ取り組みといえるのではないでしょうか。
博士(文学)。総合政策学部などで准教授、教授を歴任。専門は日本語学、日本語教育。
高等教育の他、文部科学省、外務省、厚生労働省などのプログラムに関わり、日本語教師育
成、教材開発、リカレント教育、外国人就労支援、ボランティアのサポートなどに携わる。
パラレルワーカーとして、ウェブライター、編集者、ディレクターとしても働いている。
*1
一般社団法人つながる地域づくり研究所・株式会社はたらこらぼ「しごとコンビニ」
https://shigoto-conveni.jp/
*2
内閣府 「「しごとコンビニ」事業(奈義町まちの人事部)」 (第1回地方創生×全世代活躍まちづくり検討会 参考資料1)p.3
https://www.chisou.go.jp/sousei/meeting/shoshikataisaku/h31-04-15-sankou1.pdf
*3
GOOD DESIGN AWARD「2020 GOOD DESIGN AWARD 地域の働く人と仕事を発掘してつなぐ仕組み [しごとコンビニ] 」
https://www.g-mark.org/award/describe/51231
*4
事業構想「「まちの人事部」が地方の働き手を見出す 岡山県奈義町」
https://www.projectdesign.jp/201904/new-local-working-style/006202.php?fbclid=IwAR28AiR1SXHuPJM8qJ-5ND4A8yGF-c2kw32quULO8fOV01Y-xp3ml2CCdkQ
*5
讀賣新聞「ヨミドクター[つながる]第1部 地域ではぐくむ<4>フルタイムで働けない人 空いた時間に仕事ができる「しごとコンビニ」の取り組み広がる」
https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20230110-OYTET50032/2/
*6
内閣府「地方創生図鑑 「しごとコンビニ」を活用した飲食店及び町民生活等緊急支援事業(出前イーツひがしかわ)」
*7
しごとコンビニ「東川しごとコンビニ」
https://higashikawa-sc.jp/
*8
株式会社帝国データバンク「特別企画: 人手不足に対する企業の動向調査(2022 年 10 月)」p.5
https://www.tdb.co.jp/report/watching/press/pdf/p221110.pdf
*9
厚生労働省「第Ⅱ部第1章 我が国を取り巻く人手不足等の現状 -人手不足の現状-」(労働白書)p.7, p.8
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-2-2-1.pdf