人事部の資料室

20代でも管理職に登用 社内公募・FA制度の事例とメリットとは

作成者: e-falcon|2023/07/23

近年、年功序列の人事制度とは異なる「社内公募」の制度を導入する企業が増えています。

異動先を自分で選び、年齢に関係なく自らキャリアプランを立てられるこれらの制度は、グローバル化やDXといった時代の変化に対応するだけではありません。
従業員のモチベーションを引き出すことなどを目的とした制度でも、十分に機能するでしょう。

今回はこの社内公募の導入事例やそのメリット、注意点などを見ていきましょう。

13年連続で「働きがいのある会社」トップ10に

アメリカン・エキスプレス・インターナショナルの日本法人は、グローバルに「働きがい」について調査しているGPTWジャパンの大規模部門で13年連続で総合トップ10に入賞したと発表しました*1。

アメリカン・エキスプレス・インターナショナル日本支社(以下、アメックス)は2000年代前半から社内公募制度の活性化に取り組んでいます。

2004年の実績*2では社員500人弱、73人が社内公募制度を使って異動・昇進しています。
内訳は部門間異動が16人、部内間異動が24人、外部人材の採用が33人でした。人材の流動性を向上させる方向に働いています。
また、部門内外の異動計40人の半数弱は「昇格」でした。

アメックスの社内公募にはいくつかの特徴があります。

まず、社内公募への応募をオープンにするために、応募する社員は直属の上司から推薦文をもらう必要があります。上司に留める権利はありません。むしろ優秀な人材を他部門に排出することで上司がプラス評価されるというしくみです。

また、ポジションごとに「社内」ではなく、「市場」での給与レベルの幅を明示している点が特徴です。社員は自分の客観的な立ち位置を確認できるのです。それも、外資系企業の職種別給与を参照したものであるのも特徴的です。

アメックスがここまで公募制度にこだわるのには、理由があります。

同社は、社内公募制度を徹底的に活用していると、各部門長が魅力的な職場作りに積極的に取り組み、社員満足度を高めようとするといったメリットもあると判断している。公募制度によって部下が異動した後、今度は他の職場から優秀な人材に来てもらえるようにする必要があるからだ。

<引用:「異動も昇進もほぼ100%公募で決める」日経クロステック>
https://xtech.nikkei.com/it/article/NEWS/20061026/251874/


各部門は良い人材を手に入れるため、魅力的な職場づくりに積極的になる必要が出てきます。このようにして組織全体の活性化も期待されるのです。

大手企業が相次いで導入 20代で課長級も

人材確保を目的とした社内公募制度の取り組みは、近年他の大企業の間にも広がっています。

NTTも人事制度の刷新に取り組んでいます。年功序列の人事を見直し、管理職ではない社員を対象に、基準を満たせば入社年次や年齢に関係なく早期に昇格・昇給できるようにするというもので、20代で課長級の役職への抜てきも可能にします*3。

従来は、一般社員の人事評価は基本的に勤続年数を考慮し、課長級への昇格など等級が1段階上がるには最低2~3年の在任が目安とされていましたが、専門性を考慮した人事制度へと移行します。

能力に応じた処遇を徹底することで中途採用もしやすくなると期待されています。

また、テルモ、住友商事も20代でも管理職に抜てきできる制度の導入に踏み切っています*4。リーダーの早期選抜・育成が目的です。

パナソニックホールディングス子会社のパナソニックインダストリーでは、部長・課長、全てを社内公募で決める制度を整えているほか、リコーは管理職への昇格試験や資格による登用制限を廃止、同時に管理職の役職定年も撤廃しました*5。

年功によらない人事の徹底といえるでしょう。

社内公募・社内FA制度の導入状況と実態

しかし、こうした社内公募の導入に課題の残る企業も少なくないようです。

リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、調査対象企業のうち42.2%が社内公募制度を導入しています(図1)。

(出所:「個人選択型 HRMに関する実態調査」リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/upd/newsrelease/2207141707_0946.pdf p2


その目的は、モチベーション向上や人材の社外流出の抑制、新規プロジェクトを担う人材の発見などさまざまです(図2)。

(出所:「個人選択型 HRMに関する実態調査」リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/upd/newsrelease/2207141707_0946.pdf p4


ただ、前出の図1のように、社内公募制度を導入したものの「制度対象者に十分活用されていない」という企業の割合も少なくありません。

人事による強制的な異動が慣習である日本企業では、転職活動を会社に黙って進める人がいるように、公募制度の利用も直属の上司には打ち明けにくいという雰囲気があるからだと筆者は考えます。

その点では、前出のアメックスのような「人材を送り出すことで上司も評価される」という仕組みは、制度を機能させるひとつの方法でしょう。

またアメックスの場合、過去には事業部ごと業績への結果責任を強く求める組織体制に変更したところ、各部が優秀な人材を囲い込んでしまい、異動が起きにくくなったという現象が起きました。
それを流動化させるために、1つのポジションから動かない社員には毎年、より高いゴールを設定させるようにし、それを達成しないと賞与が下がるようにもしたといいます*6。

制度を作るだけでなく、対象者に利用を促す施策も必要なのです。

肩書きだけではモチベーションにならない

さて、上場企業にはこの春から人材投資や育成の現状を有価証券報告書で情報開示することが義務付けられており、中には独自の指標を自主的に公表する動きもあります。

そのひとつが野村総研で、従業員のやりがいを数値化した「成長実感」指標を統合報告書などで公表する予定です*7。

こうした人的資本にかかわる非財務情報の公表は中途採用などにも役立ち、人手確保に繋がることも期待できるでしょう。

一方で、このような統計があります。

パーソル総合研究所が、アジア太平洋地域(APAC)14の国と地域の主要都市で働く人の実態や意識についてアンケート調査を実施しています。
すると、日本は管理職になりたいという非管理職の割合は21.4%で、14の国と地域のなかで最も低かったという結果が出ているのです*8。
単純に昇進・昇格だけがモチベーションに繋がるとは言い切れないことに注意しておかなければなりません。昇格や出世に対する意欲を、全体的に底上げする必要もあるでしょう。

また、必ずしも専門知識を持つ若手を昇格させれば良いというものではありません。管理職にはマネジメント能力が欠かせません。何を「能力」として評価するかは慎重に制度設計したいところです。

社内公募はうまく活用することで、企業内外へのアピールに活かしたいものです。