人事部の資料室

生成AIの時代 採用する人材に求めるべきスキルとは?

作成者: e-falcon|2023/11/21

「第3次AIブーム」に位置付けられる現在を象徴するのが、生成AIの登場とその広がりです。
ビジネスの中に積極的に取り入れる企業もあれば生成AIについてはまだ様子見という企業もありますが、AIの存在自体や、そこから多くのビジネスチャンスが生まれることなど、社会に大きなインパクトを与えると予想されています。

いわゆるDX人材には今後、生成AIを使いこなすスキルも必要になってきます。
具体的にはどのようなスキルが必要なのか、経済産業省の資料などをもとにご紹介します。

生成AIがもたらすインパクト

経済産業省は今年8月に「生成AI時代のDX推進に必要な人材・スキルの考え方」を取りまとめています。

それによると、生成AIの特徴や影響について、下のようなポイントが挙がっています*1。

  1. 生成AIの技術は、今後も急速に進展することが見込まれている

  2. 生成AIは、その使いやすさにより年代を問わず大きく広まり、専門的業務の代行にも寄与する

  3. 生成AIの技術は、今後、ほぼ全ての仕事に対して影響をもたらすことが示唆されている

そして、生成AIがもたらす社会的な変化については下のようなものを挙げています*2。

  1. 生成AIの技術は、日本の生産性や付加価値の向上等を通じて大きなビジネス機会を引き出すとともに、様々な社会課題の解決に資する可能性にも繋がることが見込まれる

  2. 企業の視点では、生成 AI の利用によって DX 推進を後押しすることが期待され、そのためには経営者のコミットメント、社内体制整備、社内教育の他、顧客価値の差別化を図るデザインスキル等が必要となる

ゴールドマン・サックスの調査では今後アメリカの業務の4分の1はAIにより自動化される可能性があると予測されているほか、Access Partnershipの調査では日本の全労働力のうち約70%の労働人口層が影響を受けると予測されています*3。

また、データの利活用をメインの目的としたDXという文脈では、大量のデータ処理が可能になるツールとしても生成AIの利用は進むことでしょう。

生成AIの活用レベルとハードル

ただ、日本企業の生成AI利用は国際的に見て低い水準にとどまっています。
ボストンコンサルティンググループ(BCG)が18か国で実施した調査によると、日本企業での生成AIの導入率は限定的なものです(図1)。

(出所:「デジタル/生成AI時代に求められる人材育成のあり方」経済産業省資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/009_03_00.pdf p29


このような差が生まれる理由について、生成AIの活用レベルアップを阻む2つのハードルがあると指摘されています(図2)。

(出所:「⽣成系AI時代のDX⼈材育成のあり⽅」経済産業省資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/011_02_00.pdf p16

  • 自ら試すこと
  • 試用から利用へ

この2つのハードルを超えるために必要な人材はどのようなものかを考えていく必要があります。

生成AI活用時代に求められるスキル

さて、生成AI時代に求められるスキルは、下のようにチャート化されています(図3)。

(出所:「⽣成系AI時代のDX⼈材育成のあり⽅」経済産業省資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/011_02_00.pdf p23


AI技術の基本的理解はもちろんのこと、「問いを立てる力」の必要性が強調されています。

この「問いを立てる力」のプロとして活躍する職業も注目されています。

プロンプトエンジニアとは

生成AIの積極利用のために今注目されているのが「プロンプトエンジニア」です。
エンジニアといっても、資格が必要なわけではありません。

生成AIは「プロンプト」という質問や指示を入力することで動きます。実は生成AIには、質問のしかたによって異なる回答をするという特徴があり、「欲しい答え」を引き出すためには上手な質問が必要です。

まさに「AIを使いこなすための『問いを立てる力』」が試されるスキルであり、生成AIを用いた業務をさらに効率化するために欠かせない存在になりつつあるのです。

国内外で導入、年収5000万円も

生成AIの活用を急いでいる業界のひとつに、広告があります。デジタル広告の世界ではバナー広告などの「賞味期限」が短く、常に新しいものを大量に作り続ける必要が出ています。

そこでキャッチコピーやデザインの素案を生成AIで作成する動きがあります。
なかでも博報堂DYグループは「ChatGPTソリューション開発推進室」を発足し、その活動の一環としてITエンジニアやプロデューサー職を教育し、300人のプロンプトエンジニアを育てるとしています。最終的には1000人体制を目指します*4。

またアメリカではプロンプトエンジニアの求人で、低いものでも18万ドル程度(約2500万円)、高いものでは37万5000ドル(約5000万円)の年収が提示されています*5。それほどの給与に値するほど、生成AIによる業務の合理化は大きいということでしょう。

プロンプトそのものが売買されるという新しいビジネスも始まっています*6*7。

また、企業における人材構成も変化すると予想されています(図4)。

(出所:「デジタル/生成AI時代に求められる人材育成のあり方」経済産業省資料)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/digital_jinzai/pdf/009_03_00.pdf p13


「問いを立てる」こと、それがAIにできない人間の強みでもあるでしょう。

経営陣は積極的な関与を

情報処理推進機構と経済産業省は新しいデジタルスキルの在り方として、下のような順序を示しています(図5)。

(出所:「デジタルスキル標準」情報処理推進機構・経済産業省)
https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230807001/20230807001-e-1.pdf p14


つまり、まず経営層がDXリテラシーを持たなければ、経営の方向性を示すことができません。その上でマネジメント層が存在し、ようやく実行する従業員層においてDXを推進する人材と協業しながら組織全体のDXが進んでいく、という形です。

何をしたいのか決まらないまま時間だけが過ぎてしまい、デジタルやAI人材の採用競争に負けることがないよう、まず経営陣が積極的に好奇心を持つ必要があります。