外資系企業は簡単に解雇できる? NG? 日本におけるリストラの実態を弁護士が解説

    外資系企業であっても、日本法人(日本支社)では、日系企業と同様の解雇規制が適用されます。しかし、外資系企業は日系企業に比べて、従業員を簡単に解雇する印象を持たれがちです。

    筆者は外資系企業での勤務経験があり、外資系企業出身者の知人が多くいます。
    筆者の実感としても、たしかに外資系企業では、会社都合で退職する人の割合が日系企業に比べて高いように思います。

    今回は、なぜ外資系企業は大胆なリストラを行うことができるのか、日本の法律とはどのように関係しているのかなどをまとめました。

    日本の解雇規制の概要


    日本では、労働契約法によって解雇が厳しく制限されています。

    (解雇)
    第十六条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

    (労働契約法16条)

    上記の規定は、いわゆる「解雇権濫用の法理」を定めたものです。解雇権濫用の法理はきわめて厳格に運用されており、以下に挙げるように余程の事情がなければ、会社都合による一方的な解雇は認められません。

    <解雇が認められる場合の例>
    • 従業員が長期間にわたって、無断欠勤を何度も繰り返した。
    • 従業員が簡単なミスを何度も繰り返し、再三指導をしても全く改善が見られなかった。
    • 従業員が会社の資金を横領した。
    • 従業員が重大な犯罪で有罪判決を受け、刑務所に収監された。
      など

    外資系企業にも日本の解雇規制が適用される


    外資系企業の従業員についても、日本国内で働いている場合には、日本の労働法の強行規定を適用すべき旨を主張できます(法の適用に関する通則法12条)。
    解雇権濫用の法理は強行規定なので、日本国内で働く外資系企業の従業員も、解雇された場合には適用を主張することが可能です。

    たとえば外資系企業では、パフォーマンスが十分でない従業員に対して「PIP(Performance Improvement Plan)」を提出させ、改善に取り組ませることがあります。
    PIPの提出を課すことには、実際にパフォーマンスを改善してほしいという期待を含む面もありますが、同時に改善指導の実績を作って解雇を正当化したいという思惑が含まれているケースも多いようです。

    しかし、日本の厳しい解雇規制に照らすと、PIPの提出やそれに基づく改善を促しただけで、従業員の解雇が適法と認められるケースはほとんどありません。
    このような場合、外資系企業の従業員は、解雇権濫用の法理の適用を主張すれば、解雇が無効とされる可能性が高いでしょう。

    なぜ外資系企業は大胆なリストラを行うことができるのか?


    日本では厳しい解雇規制が設けられているにもかかわらず、外資系企業では日本国内で働く従業員についても、日系企業に比べて大胆なリストラが行われています。

    実は、外資系企業は日本でリストラを行う際、ほとんどのケースで「解雇」ではなく「退職勧奨」を行い、解雇規制の適用を回避しているのです。

    外資系企業のリストラは、大半が「退職勧奨」

    外資系企業が日本でリストラを行う際には、多くの場合「解雇」ではなく、「退職勧奨」の方法がとられています。退職勧奨とは、会社が従業員に対して任意に退職することを促す手続きです。

    退職勧奨は、パフォーマンスが不十分な従業員、重大なミスをした従業員、問題行動が見られる従業員などを対象に行われることがあります。
    また、会社の都合で(人件費抑制などの目的で)人員整理をしたい場合にも、退職勧奨の形がとられることが多いようです。

    外資系企業では、日系企業よりも能力主義が徹底されており、パフォーマンスの低い従業員を積極的にリストラする傾向にあります。
    また、グローバルな社内方針で部署ごとに定員(ヘッドカウント)が設けられており、本社から要請等によって人員整理の必要が生じるケースもあります。

    このようなケースにおいて、必ずしも解雇の要件に該当しない従業員をやめさせるために、外資系企業は退職勧奨をたびたび実施しています。

    外資系企業がリストラ時に支払う”severance package”

    会社の退職勧奨に応じるかどうかは、あくまでも従業員の任意です。

    従業員としては、(日本において解雇が厳しく規制されていることを知っていれば)何の見返りもなく退職勧奨に応じることは考えられません。
    そこで外資系企業は、退職勧奨を行う際に”severance package”を提示するのが一般的です。

    “severance package”は、日本語では「解雇手当」「パッケージ」などと訳されており、多くの場合は退職金が支払われます。

    パッケージの条件(退職金額)は、会社と従業員の交渉によって決まります。
    会社が退職金規程を設けている場合でも、規程に従った金額よりも上乗せした金額で合意するのが一般的です。

    パッケージの条件が魅力的であれば、従業員は退職に同意し、会社との間で退職合意書を締結します。
    合意書の中に規定される「清算条項」において、退職に関して会社との間で一切の債権債務(および紛争)が存在しないことが確認され、円満なリストラが実現します。

    退職勧奨が違法となる場合の例


    このように、外資系企業は退職勧奨の形をとることによって、日本の厳しい解雇規制の適用を受けることなく従業員をリストラしています。

    しかし以下の場合には、従業員の退職勧奨が違法となります。
    (1)実質的な強制に及ぶ退職勧奨がなされた
    (2)退職勧奨に伴ってパワハラが行われた

    実質的な強制に及ぶ退職勧奨がなされた

    退職勧奨は、あくまでも従業員に対して任意の退職を促すものでなければなりません。

    退職勧奨に強制的な側面がある場合、それは実質的な解雇であり、厳しい解雇規制が適用されます。その結果、強制に及ぶ退職勧奨のほとんどは違法であり、退職は無効と判断されるでしょう。

    退職勧奨に伴ってパワハラが行われた

    退職勧奨の場面においても、会社側が従業員に対してパワハラに当たる言動をすることは認められません。

    たとえば以下のような言動が見られた場合、会社は従業員に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

    (例)
    • ミスをした従業員に対して、殴る蹴るなどの暴行をした。
    • 大声で怒鳴りつける、長時間説教をする、他の従業員が見ているところで叱るなど、過剰なやり方でミスを叱責した。
    • ミスをした従業員を閑職に左遷し、能力に見合った仕事を全く与えなかった。
      など

    また、パワハラによって退職を強制されたと評価すべき場合には、前述のとおり厳しい解雇規制が適用され、退職が無効と判断される可能性が高いでしょう。

    外資系企業から違法な解雇・退職勧奨を受けた場合の相談先


    外資系企業から違法に解雇され、または違法なやり方で退職勧奨を受けた場合には、以下の窓口などへご相談ください。解雇の無効を主張する方法や、退職勧奨を拒否する方法などについてアドバイスを受けられます。

    (a)都道府県労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナー
    厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
    https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

    (b)ハラスメント悩み相談室
    厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」
    https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/

    (c)弁護士
    日本弁護士連合会「法律相談」
    https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice.html

    (d)社会保険労務士
    全国社会保険労務士会連合会「職場のトラブルを相談したい」
    https://www.shakaihokenroumushi.jp/consult/tabid/554/Default.aspx

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    著者:阿部 由羅(あべ ゆら) 
    ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。 
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