人事部の資料室

「リモートネイティブ」の意外なホンネ 離職を防止するために有効な対応を知ろう

作成者: e-falcon|2023/01/22

コロナの感染拡大によって、学校の授業、就職活動をリモートで実施し、中には入社式もリモート、その後の研修、勤務もリモートワークをメインとする若者が増えてきました。

これまでにない「リモートネイティブ」とも呼ばれるこの世代の若者たちは職場や働き方に対して、従来の働き方をする世代と違う考えを持っているようです。

リモートワークでコミュニケーションが難しくなっていることはよく課題に挙げられますが、ではオフィス回帰を進めれば課題は解決するのでしょうか。
そうとは限らない複雑な事情があるようです。データと事例で見ていきましょう。

面接・内定式は対面型へシフト

2022年10月に入り、国内の主要企業が2023年春入社予定の学生らの内定式を開きました。学情の調査によれば、今回は6割超が内定式を対面で実施し、その数は2021年に比べておよそ2倍になったということです*1。
また、NTTなど、対面形式での内定式は3年ぶりの実施になったという企業もあります*2。

オフィス回帰が徐々に進んでいますが、面接から内定式、入社式、研修をリモートで実施し、そのままリモートワークに突入した若手社員は、これまで通りの形で入社した世代とは大きく異なる考え方を持っているようです。

まず、いくつかのアンケート調査の結果を見てみましょう。

「話しかけること」の大切さ

マイナビ転職が2022年4月に新卒入社した正社員を対象に実施した調査によると、2022年6月時点でのリモートワーク率は19%で、前の年に比べフル出社がやや増えています(図1)。

 (出所:「キャリアトレンド研究所」マイナビ転職)
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/11/ 


ただ、緊急事態宣言解除前は、半数以上がリモートワークを実施しており、フルリモートの新入社員の割合も3割を超えていたことがわかります。

そして、やはりリモートワークの頻度が多い新入社員ほど、会社での対人関係の不安や悩みとして「会う機会が少なくコミュニケーションしにくい」ことだと回答しています(図2)。

 (出所:「キャリアトレンド研究所」マイナビ転職)
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/11/


一方で、新入社員が会社での働きがいを感じる時は下のようになっています(図3)。

 (出所:「キャリアトレンド研究所」マイナビ転職)
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/11/


働きがいの程度にかかわらず、「話しかけてもらえる、雑談してくれる」ことを上司や先輩に期待していることがわかります。

また、注目したいのは「ランチ・食事に誘ってくれる」ことが働きがいに繋がっているということです。

リモートワーク下ではこうした機会の設け方は難しいことでしょう。
しかし新入社員は、そうした機会を通じたコミュニケーションを望んでいるのです。

リモートネイティブならではの意外な行動

では、今後の方針としては、全面的なオフィス回帰が好ましいのでしょうか?
じつは事情は複雑で、そうとも言い切れないのが現実です。

東洋経済では、何人かのリモートネイティブの姿が紹介されています*3。

そのうちのひとりは、
「オフィスなら気軽に聞けるような仕事に対する相談が難しく、そのまま聞けないで時間が過ぎてしまう」
「自分は社会人として通用する存在になっているのか」
という悩みを抱えていました。
そしてこのような行動に出たのです。

Sさんも、勤務時間中に転職エージェントにエントリー。面談も予約して、キャリアアドバイザーに相談。早々に転職を決めました。彼女が入社してからオフィスに行ったのは3回だけ。当然のように送別会もありませんでしたが、次の職場で頑張るモードに切り替わっているようでした。

<引用:「入社早々転職?『リモートネイティブ世代』の本音」東洋経済オンライン>
https://toyokeizai.net/articles/-/508602?page=2


オフィスの席にいるのとは違い、上司や先輩の目が届きにくいリモートワークならではの行動ともいえるでしょう。

やはりオフィス回帰を急いだ方が良いのだろう、と考えてしまうかもしれませんが、話はそう単純ではありません。

この新入社員Sさんは、対面で働く環境であったら転職していたかどうか?ということについて「わからない」と答えているのです。

さらに、もうひとりの新入社員には、このような事情が発生しています。

入社3年目のGさんは、入社から一貫してリモート勤務。それなりに仕事と生活のリズムができてきたのもあり、リモートを前提としてマンションを購入する決断をしました。そこは、現在の職場まで通勤に1時間半以上かかる場所です。しかも、駅まで遠い。ただし、自然に恵まれ、景色も美しいので「この環境で長く時間を過ごしたい」と考えるようになったそうです。

<引用:「入社早々転職?『リモートネイティブ世代』の本音」東洋経済オンライン>
https://toyokeizai.net/articles/-/508602?page=2


当初からフルリモートという環境下では、会社員としての生活基盤を、早いうちからリモートを前提に築いているのです。そもそも、通勤するという概念がないともいえるでしょう。

この行動は、筆者にはうなずけるところがあります。
筆者も、ほぼ在宅ワークという環境に変わるにあたって、郊外へ、かつ駅から遠い場所に転居したからです。通勤を前提としないライフスタイルに変わりました。
静かな環境で、同時に都心に比べれば家賃も安く、転居はなんら不自然な考え方ではありませんでした。

この状況で会社側がオフィス出社を前提とする方針に急に舵を切ってしまうと、リモートを前提とする会社を探そう、という考えになるのは不思議なことではありません。

リモートそのものが苦痛なのではない

もちろん、この2人の新入社員の場合は極端な事例ともいえます。入社から3日しかオフィス勤務していない、あるいは入社からずっとフルリモートという新入社員はそこまでは多くないと考えられるからです。

ただ、先ほどのマイナビ転職の調査結果に戻ると、意外な傾向も見られます。

「テレワークが廃止されても働き続けるか?」という問いに対しては、新入社員からこのような回答が得られているのです(図4)。

 (出所:「キャリアトレンド研究所」マイナビ転職)
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/11/


「働き続けると思う」と回答したのは半数です。
そして、「テレワークできる会社に転職する」と回答している新入社員は23%にのぼっています。
密なコミュニケーションを求める一方で、働き方としてはリモートワークを好むといった価値観が誕生しているのです。

温度差への配慮がカギに

このようにみてくると、オフィス回帰が良い、リモートが良い、という2元論で物事は括れないということがわかってきます。

なお、コミュニケーション世界大手のSlackが2021年10月に公表した国際的な調査結果によると、リモートワークに関して経営層と一般社員の間には温度差があることがわかります。

まず、現在フルリモートで働いている人たちの間では、毎日オフィスで働くことを希望する割合が経営層では半数近く(44%)に上るのに対して、従業員では17%に留まっています(図5)。

 (出所:「経営層と従業員の間でオフィス回帰について大きなズレがあることが判明」Slack)
https://slack.com/intl/ja-jp/blog/news/the-great-executive-employee-disconnect
 

また、週に3~5 日オフィスで働くことを希望する割合については、経営層が75%であるのに対して、従業員ではわずか34%だという結果も得られています*4。

Slackはその理由を、

1)仕事に対する満足度が経営層と一般社員で違うこと
2)コロナ後の計画は経営層レベルでのみ決定されているケースが多いこと
3)コロナ後の方針決定について、経営層が透明性を持っていると考えている一方、従業員はそうではないと感じていること

にあると分析しています。

日頃からの経営に対する温度差が、リモートワークによって明るみに出たと取ることもできます。

コロナ対策が長期に渡って続けられているうちに、従業員には経営層からは見えない様々な変化が生まれているのです。
特に「リモートネイティブ」は誰もが経験したことのない入社・就業の形を強いられており、形成された「働き方」への考え方も独特のものといえます。

リモートネイティブの早期離職を防ぐためには、働き方に対していっそう柔軟な対応が求められることになるでしょう。