2023年6月に発表された「2023年版男女共同参画白書」(以降、「白書」)には、目指すべき社会像として「令和モデル」が示されています。
それは、平成にも引きずっていた「昭和モデル」からの脱却を目指すものです。
白書の背景と目標、実現のための施策とはどのようなものでしょうか。
そもそも「昭和モデル」とはどのようなものでしょうか。
白書の冒頭には、「男性は仕事」「女性は家庭」という固定的なジェンダ、長時間労働などの慣行が「昭和モデル」の象徴として挙げられています。*1:「男女共同参画白書の刊行に当たって」
では、令和の今も本当に「昭和モデル」を引きずっているのでしょうか。
現在の状況を端的に表しているのが図1です。*1:p.24
出所)内閣府「令和5年版 男女共同参画白書」 p.24
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdf/r05_print.pdf
女性の就業率は高いものの、就業形態に着目すると、女性は非正規雇用が多いことがみてとれます。
もう少し詳しくみていきましょう。
日本は長年、結婚・出産期に女性就業者が減少する、いわゆる「M字カーブ問題」が存在していましたが、最近ようやくその問題は解消しました(図2)。*1:p.10
出所)内閣府「令和5年版 男女共同参画白書」 p.10
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdf/r05_print.pdf
図2をみると、「谷」が底上げされ、もはや「M字」は見られません。
2023年7月21日に公表された「令和4年就業構造基本調査」によると、仕事と育児を両立させている女性は73.4%で、前回調査から9.2%上昇しています。*2:p.22
その一方で、出産を契機に女性が非正規雇用化する「L字カーブ問題」は解消されていません。*1:p.139
図1にもどり、左図の「女性」にフォーカスしましょう。*1:p.10
青線をみると、女性の正規雇用比率は25~29歳の60%をピークに年々減少し、L字(「L」を90度右回転させたもの)を描いています。これは、出産を契機にフルタイムの勤務をやめて短時間労働に転じ、その後もそうした働き方を続ける女性が多いことを意味します。
M字カーブは解消されても、依然として仕事(有償労働)は男性、家事関連(無償労働)は女性という偏りはまだ解消されていません。*1:pp.17-18
1日あたりの有償労働時間の国際比較をみると、男性はOECD各国の中でもっとも長く、452時間に上っています。一方、無償労働時間は短く、41分です。
一方、女性の有償労働時間と無償労働時間の分担率をみると、有償労働では低く、無償労働では高いことがわかります(図3)。
出所)内閣府「令和5年版 男女共同参画白書」 p.18
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdf/r05_print.pdf
ここからみえてくるのは、女性が家事労働を負担し、男性が長時間労働を担うという「昭和モデル」がいまだに解消できていないという現状です。
目指すべきは、令和の今日まで引きずっている「昭和モデル」からの脱却です。
それが急務であることを示す状況をみた上で、目指すべき方向性を確認します。
若い世代の価値観は確実に変化しつつあります。
下の図4は、18~34歳の未婚男女の描くライフコースの理想を表しています。*1:p.5
出所)内閣府「令和5年版 男女共同参画白書」 p.5
https://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/r05/zentai/pdf/r05_print.pdf
まず、上図の「未婚女性の理想」をみていきましょう。
減少傾向にあるのは上から2つめの赤点線「再就職コース(一旦、仕事をやめて再就職する)」とその下の紫点線「専業主婦コース」です。
一方、増加しているのは緑点線「両立コース(家庭と仕事を両立させる)」で、34.0%と
もっとも高い割合を示しています。
また、割合は低いものの、一番下の青点線「DINKs(夫婦が自分たちの意思で子どもをもたないという生活観)」とその上の赤実線「非婚就業コース」も増加傾向にあり、価値観の多様化が窺えます。
次に下図、未婚男性の「将来のパートナーに対する期待」をみていきましょう。
こちらの増加傾向、減少傾向、各コースの順位は上図の未婚女性の場合とぴったり合致しています。そしてもっとも割合が高いのは「両立コース」で39.4%に上り、女性の割合を上回っています。
このように、若い世代が理想とするライフスタイルは確実に変化し、しかも男女で同じ傾向を示しています。
したがって、こうした新たな価値観に合致した働き方を実現する必要があるのです。
では、目指すべき「令和モデル」とは、どのようなものでしょうか。
白書には、「全ての人が希望に応じて、家庭でも仕事でも活躍できる社会」と述べられています。*1:p.3
その早期実現に向けて優先すべきことは、以下の3点です。*1:p.6
ここからは、白書に掲載されている「令和モデル」実現のための施策を、雇用環境整備に関連するもののうち3点に絞ってみていきます。
ワークライフバランスを実現するためにも健康のためにも、長時間労働の解消は大切です。
そのための施策には、有給休暇取得の促進、勤務と勤務の間に一定のインターバルを設ける勤務間インターバル制度の促進などがあります。*1:p.186
白書には、厚生労働省の「働き方・休み方改善ポータルサイト」も紹介されています。*3
このサイトには、以下のようなさまざまなコンテンツがあり、参考になりそうです。
多様で柔軟な働き方の実現のための施策には以下のようにさまざまなものがあります。*1:pp.186-187
また、内閣府は、企業・団体の経営者、管理者、担当者などがワークライフバランスを実現するための取り組みをする際に役立つ、メールマガジン「カエル!ジャパン通信」を月に1~2回程度配信しています。*4
政府は男性の育休取得率の目標を、2025年度に50%、2030年度に85%としています。*5
しかし2023年7月に発表された「令和4年度雇用均等基本調査」によると、育児休業を取得した人の割合は、女性が80.2%に対して男性17.13%でした。*6
男性の育児休業取得率は前年の13.97%から3.16%上昇していますが、目標と比較すると、まだ道なかばの感があります。
一方、2022年4月から、従業員1,000人を超える企業に男性の育休取得率の公表が義務づけられています。
そこで厚生労働省は全国の従業員1,000人以上の企業を対象に、2023年の6月から7月にかけてアンケート調査を行いました。その結果によると、回答した1,472社の男性育児休業取得率は46.2%、育休取得日数の平均は46.5日でした。*7:p.1, p.3, p.4, p.7, p.9, p.11
このことから大企業では男性の育児休業取得が進んでいることが窺えます。
また、この調査によって、男性の育児休業取得を促進するためには、以下のようなことが有効であることがわかりました。
2022年10月には、育児・介護休業法が改訂され、新たに「産後パパ育休制度」が始まりました。*8
これは産後8週間以内に4週間(28日)を限度として2回に分けて取得できる休業で、一定の要件を満たすと「出生時育児休業給付金」の支給を受けることができます。*9:p.1
これまでみてきたように、「昭和モデル」は令和に入ってからも脱却できていません。
一方で若い未婚者のライフスタイルや働き方に関する意識は確実に変化しています。
社員の幸福と健康のために、まずは自社の「昭和度」を把握し、「令和モデル」の実現に向けて動き出すことが肝要です。