会社でよくあるパワハラ事例|厚生労働省の指針に沿った予防対策を弁護士が解説
職場におけるパワハラ(パワー・ハラスメント)をいかにして防ぐかは、現代の企業において重要な課題です。
パワハラを効果的に防止することは、優秀な人材の定着や従業員のメンタルヘルス向上、ひいては中長期的に会社の業績を上向かせることにも繋がります。
厚生労働省が公表しているパワハラ指針*1においては、職場において発生しがちなパワハラの類型として6種類が挙げられています。
各企業は、パワハラについて総合的な予防策を講じるとともに、各類型のパワハラ行為を防ぐための個別対策も併せて講じることが望ましいでしょう。
今回は、厚生労働省が示している6類型に沿って、会社でよくあるパワハラ事例とその予防対策をまとめました。
パワハラ指針によるパワーハラスメントの定義
厚生労働省のパワハラ指針*1では、職場におけるパワーハラスメントを、以下の3つの要素をすべて満たすものと定義しています。
(1)優越的な関係を背景とした言動であること
- 職務上の地位が上位の者による言動(上司→部下など)
- 業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、その協力を得なければ業務の円滑な遂行を行うことが困難である、同僚または部下による言動
- 同僚または部下からの集団による行為で、抵抗または拒絶することが困難なもの
(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
(例)- 業務上明らかに必要性のない言動
- 業務の目的を大きく逸脱した言動
- 業務の遂行手段として不適当な言動
- 回数、行為者の数、態様や手段が社会通念上許容される範囲を超える言動
(3)労働者の就業環境が害されるものであること
→平均的な労働者の感じ方を基準に、身体的・精神的苦痛や不快感によって、就業する上で看過できない程度の支障が生じること
パワハラの6類型と個別の予防策
厚生労働省のパワハラ指針*1では、典型的なパワハラに当たる行為として、以下の6類型を挙げています。
(1)身体的な攻撃
(2)精神的な攻撃
(3)人間関係からの切り離し
(4)過大な要求
(5)過小な要求
(6)個の侵害
各類型に該当するパワハラの例と、それぞれに対する予防策の例を紹介します。
パワハラの6類型(1)|身体的な攻撃
「身体的な攻撃」とは、意図的な暴行・傷害行為を意味します。
(例)- 殴打する
- 足で蹴る
- 物を投げつける
など
身体的な攻撃はパワハラの最たるものですが、近年は社会による監視が強まり、大々的に横行する会社は少なくなっていると思われます。
ただし、密室等において身体的な攻撃が行われるようなケースは、現代の会社においても発生する可能性があります。
密室等における身体的攻撃を防ぐためには、会議スペースをガラス張りにする、対面での1on1ミーティングは極力避けるなどの対策が効果的です。
パワハラの6類型(2)|精神的な攻撃
「精神的な攻撃」とは、脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言などを意味します。
- 人格を否定するような言動
- 性的指向、性自認に関する侮辱的な言動
- 必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと
- 他の労働者の面前で、大声で威圧的な叱責を繰り返し行うこと
- 能力を否定し、罵倒する内容の電子メール等を、他の労働者も宛先に含めた上で送信すること
精神的な攻撃は、悪質性の高い暴言そのものによって本人を傷つけるパターンと、周囲の同僚が見ている前で暴言を浴びせて辱めるパターンに大別されます。
前者のパターンについては、本人から直接被害状況を聴き取れるかどうかがポイントです。定期的に人事部面談を行うなどして、信頼関係を築いた上で情報収集に努めましょう。
後者のパターンについては、目撃者である周囲の同僚から情報が寄せられる可能性もあります。人事部面談などを行う際には、本人に対するパワハラだけでなく、他の同僚に対するパワハラを目撃したことがないかについても質問するのがよいでしょう。
パワハラの6類型(3)|人間関係からの切り離し
「人間関係からの切り離し」とは、隔離・仲間外れ・無視などを意味します。
- 上司の個人的な嫌悪感によって部下を仕事から外し、長期間にわたり別室隔離し、または自宅研修をさせること
- 特定の労働者を集団で無視し、職場で孤立させること
など
別室隔離や自宅研修などを悪用した人間関係からの切り離しは、人事権の過度な集中を背景に発生することが多いと思われます。
人事上の重要な事項については複数の決裁権者による決裁を要求するなど、特定の従業員に人事権を集中させることを防ぎましょう。
集団による無視は、被害者の周囲の従業員も加害当事者となるため、事態の把握が困難になりがちです。やはり本人から事情を聞けるかどうかがポイントなので、定期的な人事部面談などを通じて信頼関係を築きましょう。
また、オフィスの席配置や設備を工夫し、部署間交流の機会を設けるなどして、社内の風通しを良くする取り組みも効果的です。
パワハラの6類型(4)|過大な要求
「過大な要求」とは、業務上明らかに不要なことや、遂行不可能なことを強制することを意味します。
(例)- 長期間にわたり、過酷な環境下で勤務に直接関係ない作業を命じること
- 能力に見合わない困難な業績目標を課し、達成できなかったことを厳しく叱責すること
- 業務とは関係ない私的な雑用を強制的に行わせること
など
過大な要求が発生する背景には、上司への権限集中や、厳しすぎる上下関係などが存在します。
会社全体を統率する関係上、ある程度の上下関係を設けることは止むを得ないでしょう。しかし、上司・部下を問わず、誰もが忌憚なく意見を述べられる職場環境を作ることができれば、過大な要求が発生するリスクを抑えられます。
パワハラの6類型(5)|過小な要求
「過小な要求」とは、能力や経験に比べて程度の低すぎる仕事を命じることや、仕事を全く与えないことを意味します。
(例)- 管理職の労働者を退職させるため、ひたすらコピー取りのみをさせること
- 嫌がらせのために仕事を与えないこと
など
過小な要求が発生するリスクは、仕事の割り振りが特定の上司に一任され、その状況についてチェックが機能していない状況で高まります。
人事部面談などで本人から業務状況をヒアリングすることに加えて、各従業員のスケジュールを登録できるシステムを導入し、業務状況を可視化するなどの対策が考えられるでしょう。
パワハラの6類型(6)|個の侵害
「個の侵害」とは、私的なことに過度に立ち入ることを意味します。
- 職場外でも継続的に監視すること
- 私物の写真撮影をすること
- 性的指向、性自認、病歴、不妊治療などのセンシティブな個人情報について、本人の了解を得ずに他の労働者へ暴露すること
など
個の侵害の発生を防止するには、仕事とプライベートを明確に切り分ける考え方を浸透さえることが効果的です。
職場外での交流や飲み会などに関して、会社としてガイドラインを策定・公表し、社内向けに周知を図るなどの対応が考えられます。
パワハラに対する総合的な予防策・対策
厚生労働省のパワハラ指針*1では、職場におけるパワハラを防止するため、事業主に以下の措置を講じることを求めています。
(1)事業主の方針等の明確化、およびその周知・啓発
(2)従業員の相談(苦情を含む)に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備
(3)パワハラに係る事後の迅速・適切な対応
など
これらの措置は、パワハラの6類型に当たる行為につき、共通して効果を発揮する総合的な予防策・対策になり得ます。
会社の状況に応じて、適切な形でこれらの措置を導入し、社内におけるパワハラの撲滅を図りましょう。
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw
*1
出所)厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf