メンター制度はハラスメントの対策にも温床にもなり得る|制度設計上の注意点を弁護士が解説

    メンターは従業員の相談役として、ハラスメント被害を未然に防ぎ、または早期に解決する役割を果たせる可能性があります。
    その一方で、メンター自身がハラスメントを犯す例も散見されるため、会社は十分に配慮された制度設計を行うよう努めなければなりません。

    今回は、メンター制度とハラスメントの関係性につき、労働実務・法律の観点を中心に解説します。

    メンター制度はハラスメント防止に役立つか?


    メンター制度は、ハラスメント防止に役立つ場合もある一方で、メンター自身によるハラスメントの温床になる可能性もあります。

    メンターはハラスメント被害の相談役になり得る

    メンターとメンティーのコミュニケーションがうまくいけば、何でも相談できる関係性を築くことができます。

    万が一、メンティーが社内でハラスメント被害に遭った場合、周囲の上司や同僚には、そのことをなかなか相談しにくいものです。
    しかし、メンターとの関係性が良好であれば、ハラスメント被害についてメンターに相談してくれる可能性があります。その際、メンターが親身になって相談に乗り、あるいは機転を利かせて問題解決に動くことができれば、ハラスメント被害を早期に解決する道が開けるでしょう。

    メンター自身がハラスメントの加害者となるケースも

    ただし、メンター自身がその立場を悪用して、メンティーに対してハラスメントを働くケースもあることに注意しなければなりません。

    メンターはメンティーに対して優越した立場にあるため、メンティーとしては、メンターの言うことに従わないことは難しい部分があるでしょう。こうしたメンターとメンティーの関係性が、しばしばハラスメントの温床になってしまいます。

    特に、メンティーが内心嫌がっているにもかかわらず、メンターが過剰なコミュニケーションを求めるハラスメント事例が後を絶ちません。メンターが気に入った(異性の)メンティーに対して、しつこく交際を迫るパターンなどが典型例です。

    このようなメンターによるハラスメントを防止するためには、メンター側の意識付けを行うとともに、会社としても一定の対策を講ずる必要があります。

    メンター制度にハラスメント防止機能を持たせるためのアイデア


    メンター制度を通じてハラスメントを防止しようとする場合、会社としては、制度設計について以下のような対応・工夫を行うのがよいでしょう。

    普段は関わりのない従業員同士をマッチングする

    ハラスメント被害が発生した場合、被害者と普段仕事をしている上司や同僚などが加害者であるケースが多いようです。
    そのため、ハラスメント被害を周囲の上司や同僚などに相談することは難しい面があります。

    ハラスメントの相談役をメンターに担わせるのであれば、普段の仕事では関わりのない者同士をメンター・メンティーとしてマッチングするのがよいでしょう。
    そうすれば、職場における人間関係のしがらみに捕われることなく、ハラスメント被害についてメンティーがメンターに相談しやすくなります。

    メンター側に秘密保持を徹底させる

    メンターに話した内容が、会社の上層部や上司などへ筒抜けになるようでは、メンティーがメンターにハラスメント被害を相談するのは難しいでしょう。

    メンターがメンティーの良き相談役になるためには、メンティーから伝え聞いた内容についての秘密保持を徹底させることが効果的です。
    メンター制度は人事評価のシステムなどからも切り離してしまって、メンティーの明確な希望がない限り、メンターから会社側への報告等を禁止することも有力な方法でしょう。

    会社がメンター・メンティー間のコミュニケーションを補助する

    メンターとメンティーが良好な関係性を築くためには、職場外でのコミュニケーションが有効な場合もあります。

    もしメンターがメンティーを食事などに連れ出す場合は、会社が福利厚生費として一定額を補助するといった対応も考えられるでしょう。

    ただし、メンターがメンティーのプライベートな部分へ過度に踏み込むなど、メンターによるハラスメントが発生する可能性には注意が必要です。

    メンター自身によるハラスメントを防ぐための対策案


    メンターのメンティーに対するハラスメントを防ぐため、メンター制度を導入する際には、会社として以下の対策を講ずることをご検討ください。

    メンターにハラスメント講習を受講させる

    職場で特に問題になりやすいハラスメントの代表例は、「パワハラ」(パワーハラスメント)と「セクハラ」(セクシャルハラスメント)の2つです。
    これらのハラスメントについては、メンターになる従業員は最低限の知識を備えておくべきでしょう。

    会社としては、メンターになる従業員に対してハラスメント講習の受講を義務付け、メンターの意識向上を図ることが考えられます。弁護士などの外部講師を招聘して行う方法のほか、eラーニングを活用する方法もあります。

    メンターが遵守すべきハラスメントマニュアルを作成する

    メンターに対する意識付けの観点からは、会社主導でメンター向けのハラスメントマニュアルを作成することも効果的です。

    ハラスメントマニュアルには、たとえば以下のような事項をまとめることが考えられます。

    ・ハラスメントに該当する行為を列挙する(パワハラ、セクハラを中心に)
    ・メンターが避けるべき具体的な行動を列挙する
    ・ハラスメントに対する会社の対処方針を明記する
    など

    なお、ハラスメントマニュアルはメンターだけに配布するのではなく、メンティーを含めた全従業員向けに公表すれば、メンターに対するハラスメントの抑止効果も期待できるでしょう。

    ハラスメント相談窓口を設置する

    万が一、実際にメンターによるハラスメントが行われた場合に備えて、メンティーからの通報を受け付けるハラスメント相談窓口の設置も検討すべきです。

    ハラスメント相談窓口には専任の担当者を置き、各部署からの独立性を確保することが望ましいでしょう。また、被害者に寄り添った対応ができるようにするには、ハラスメント対応のマニュアルを整備したうえで、窓口担当者に対する研修を定期的に行うことが効果的です。

    メンティーに対しては、相談内容の秘密が厳守されることを明確化したうえで、もしもの際にはハラスメント相談窓口へ連絡すべき旨を周知しましょう。

    まとめ


    メンター制度は、異なる経験や考え方を持つメンターとメンティーの交流によって、それぞれのさらなる成長を促すことのできる制度です。
    ハラスメント対策の観点からも、メンター制度は効果的に機能する場合がある一方で、メンターによるハラスメントが発生し得る点は警戒しなければなりません。

    会社としては、メンター制度がハラスメントの温床にならないように、制度設計や従業員教育の観点からできる限りの対策を行うべきです。
    また、メンター制度が正しく機能しているかどうかにつき、メンティー向けのアンケート調査などを通じて定期的に検証することも求められるでしょう。

    wp01-2

    お役立ち資料のご案内

    適性検査eF-1Gご紹介資料

    ・適性検査eF-1Gの概要
    ・適性検査eF-1Gの特徴・アウトプット
    ・適性検査eF-1Gの導入実績や導入事例

    ≫ 資料ダウンロードはこちら
    著者:阿部 由羅(あべ ゆら)
    ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
    https://abeyura.com/
    https://twitter.com/abeyuralaw