「管理職」とはよく耳にする言葉ですが、どこか捉えどころのない概念でもあります。
「マネジメントの父」と呼ばれるピーターF・ドラッカーは、「組織がなければマネジメントもない。しかし、マネジメントがなければ組織もない」と述べています。*1:p.33
管理職とはそもそもどのような役割を担うものなのでしょうか。
また、日本の管理職の年齢や男女比、賃金などはどの程度なのでしょうか。
何か課題はあるのでしょうか。
管理職の役割や状況について、一般社員との違いに着目しながら基本を押さえた上で、日本の管理職をめぐる課題についても考えてみたいと思います。
まず、管理職の基本を押さえていきましょう。
管理職の役割とはどのようなものでしょうか。
以下の図1は、内閣官房によるアンケート調査の結果で、重要だと思う管理職の役割について、管理職と一般職員の回答を比較したものです。*2:p.15
出所)内閣官房内閣人事局「管理職のマネジメント能力に関するアンケート調査結果概要(最終報告)」 p.15
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/kanri_kondankai/dai4/siryou2.pdf
図1をみると、管理職が担うと想定されている役割のうち、一般職員と管理職ともに割合が高いのは、「組織運営の方向性の提示」と「適切な業務分担など、チームワークの実現」で、どちらも管理職は60%を、一般職員は50%を上回っています。
また、一般職員と管理職の回答割合に大きなズレのある項目のうち、管理職の方が割合が高いのは、「新たな課題にチャレンジする組織風土の形成」ですが、一方、一般職員の方が割合が高いのは、「コストを意識した業務管理」と「ワークライフバランスの重視と、ダイバーシティへの対応、多様な人材の活用など」となっています。
ただ、冒頭でも触れたドラッカーは、マネジメントとは「人である」「人としてのマネジメントのビジョン、献身、真摯さがマネジメントの成否を決める」*1:p.10 とも述べていることから、部下に寄り添いながら、上記のような役割を真摯に務めるのが管理職だということもできるでしょう。
管理職とは何を指すのかー実は管理職の定義を示すのは簡単なことではありません。
なぜなら、管理職と一口にいっても、いくつかの層があるからです。
その分類法も複数あるのですが、たとえば、経営層に近い「トップ・マネジメント」や、非管理職と管理職との接点となる「フロントライン管理職」、両者の間に位置する「ミドル管理職」という3つの層に分ける分類があります。*3:p.4
このうち、トップ・マネジメントは、労働基準法上の「管理監督者」に合致すると考えていいでしょう。
この「管理監督者」とは「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」を指します。*4:p.2
ただし、「管理監督者」に当てはまるかどうかは、役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様などの実態によって判断します(図2)。*5:p.3
出所)日本労働組合総連合会「Q&A労働基準法の「管理監督者」とは?」p.3
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/data/leaflet_qa_kannrikantokusha_200807.pdf
一般の労働者には労働基準法で定められた労働時間、休憩、休日の規定が適用されますが、「管理監督者」はそれらの制限を受けません(図3)。*5:p.2
出所)日本労働組合総連合会「Q&A労働基準法の「管理監督者」とは?」p.2
https://www.jtuc-rengo.or.jp/activity/roudou/data/leaflet_qa_kannrikantokusha_200807.pdf
しかし、企業内で管理職とされていても、図3の判断基準に基づいて総合的に判断した結果、労働基準法上の「管理監督者」に該当しない場合は、労働基準法で定める労働時間などの規制を受け、時間外割増賃金や休日割増賃金などの支払が必要となります。*4:p.2
フロントライン管理職とミドル管理職は日本では課長・部長にあたり、非管理職とより上位のマネジメントをつなぐだけではなく、人材マネジメントにおいても責任を持つ職務とされています。*3:p.4
これらの層は、部下はいるものの「管理監督者」といえるほど労働条件の決定権やその他の労務管理に関する権限を持たず、プレイとマネジメントの「二重負担」を抱えている層でもあります。*6:p.312
本稿では特に課長・部長級にあたるこれらの管理職についてみていきます。
表1は管理職の人々を対象に、「あなたが在社している時間を100%とした場合、プレイ(一般業務)とマネジメント(部下の労務管理や部署運営など)の比率はおおよそどのくらいですか?」という質問をし、マネジメント度に着目してその回答結果をまとめたものです。*7:pp.52-53
なお、表中の「ライン職」とは、部下がいて管理業務を行っている管理職のことです。
出所)独立行政法人 労働政策研究・研修機構「働く人の仕事と健康、管理職の職場マネジメントに関する調査結果」(2022年3月)p.53
https://www.jil.go.jp/institute/research/2022/documents/0222.pdf
「課長相当」は20%と30%が相対的に多く、「部長相当」は「課長相当」に比べて50%が多くなっています。
50%までの累計は、「課長相当」が60.7%、「部長相当」55.2%です。
「支社長・事業部長相当」は50%の比率が最も高くなっていますが、「課長相当」や「部長相当」と比べて80%以上が多く、50%までの累計は44.1%です。
「役員相当」は90%以上の比率が他と比べて高くなっています。
次に、産業能率大学総合研究所が、従業員数100人以上の上場企業に勤務し部下を1人以上持つ課長を対象に行った調査によると、95.5%がプレイヤーとマネジャーを兼務するプレイング・マネジャーで、課長の業務の半分がプレイヤーとしての仕事でした(図4)。*8
出所)産業能率大学「第6回上場企業の課長に関する実態調査」
https://www.sanno.ac.jp/admin/research/kachou2021.html
部長はどうでしょうか。
同研究所の部長を対象にした調査の結果をみてみましょう(図5)。*9
出所)産業能率大学「第2回上場企業の部長に関する実態調査」
https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/research-report/2022/02/08-01.html
プレイヤーとしての役割が全くないのはわずか3.1%で、96.9%の部長がプレイヤーとマネジャーを兼務していました。
部長の業務の43.9%がプレイヤーとしての仕事で、前回調査調査からプレイヤー業務の比重が4%増加しています。
このように、課長・部長のほとんどがプレイング・マネジャーなのです。
ここからは管理職の現状をみていきましょう。
厚生労働省の「令和4年賃金構造基本統計調査」によると、10人以上の企業に勤務する課長級は1,693,550人、部長級は908,640人で、日本には少なくとも合わせて約260万人の課長級・部長級がいることがわかります。*10
では、課長以上の管理職に占める女性の割合はどのくらいでしょうか(図6)。*11
出所)経済産業省「未来ビジョン」p.47
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
よくいわれるとおり、管理職に占める女性の割合は諸外国に比べてかなり低いことがわかります。
次に、賃金についてみていきましょう(表2)。*12:p.14
出所)厚生労働省「令和4年賃金構造基本統計調査 結果の概況」p.14
https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2022/dl/13.pdf
男女計では、部長級586.2千円、課長級486.9千円で、男女別にみるとどちらも女性より男性の方が高いことがわかります。
役職・非役職間の賃金格差をみると、男女計では、部長級との格差は約2倍、課長級は約1.7倍です。
では、日本の管理職の年収は外国と比べて高いのでしょうか、それとも安いのでしょうか(図7)。*11:p.36
出所)経済産業省「未来ビジョン」p.36
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
図7をみると、日本の日系企業の場合、シンガポールやアメリカの半分以下、タイの半分程度しかないことがわかります。
次に、年齢は、男女計で、部長級が平均52.7歳、課長級が48.8歳です。*12:p.14
勤続年数は、同じく男女計で、部長級が平均22.1年、課長級が20.5年です。
昇進年齢はどうでしょうか(表3)。*11:p.36
出所)経済産業省「未来ビジョン」p.36
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
表3をみると、日本の昇進年齢は、課長が38.6歳、部長が44.0歳で、他の国と比べると年齢が高いという特徴があります。
大きくいえば、時代が変われば、管理職の役割も変わります。
すべてのステイクホルダーがそうであるように、管理職も常に変化することを求められる立場だといえます。
たとえば、上述の産業能率大学による課長・部長に関する実態調査では、「コロナ禍を経た新しい日常で、マネジャーに必要なスキルの重要性がどのように変化したか」を尋ねています。
重要性が増したスキルのトップ3をみると、課長の場合は「IT活用」、「タイムマネジメント」、「メンタルタフネス」で、テレワークの普及などワークスタイルの変化を反映している様子が窺えます。*8
一方、部長のトップ3は、「IT活用」、「リーダーシップ」、「タイムマネジメント」で、テレワークに求められるスキルに加えて、「リーダーシップ」の重要性が増しているという認識がみられます。*9
実は、管理職に昇進したいと考えている人は4割にも満たない状況であることが、厚生労働省の調査結果からわかっています(図8)。*13
出所)厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析 -働き方の多様化に応じた人材育成の在り方について>第II部 第3章 第3節「 きめ細かな雇用管理」を担う管理職の育成に向けた課題について」p.230
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/18/dl/18-1-2-3_03.pdf
管理職への昇進を望まない理由として最も多いのは、「責任が重くなる」、次いで「業務量が増え、長時間労働になる」となっています。
一方、管理職への昇進を望む理由として最も多いのは、「賃金が上がる」、次いで「やりがいのある仕事ができる」です。
いずれも、これまでみてきた管理職のさまざまな側面を如実に表しているといえるでしょう。
このように、課長・部長級の管理職はプレイとマネジメントの両方を担い、常に訪れる変化にも対応しつつ真摯に業務遂行を果たし、成果を上げなければならない、なかなかハードな立場といえるでしょう。
また、それゆえに、やりがいがある立場ともいえるかもしれません。