寛大化傾向とは?実態より甘く評価するエラーを克服する方法

    「最近、人事評価が甘くなっている気がする」
    そのように感じたら、社内に“寛大化傾向”が蔓延しているかもしれません。

    寛大化傾向とは、評価者が実際の状態や能力より甘く評価してしまうバイアスのことで、人事評価において発生しやすい評価エラーとして、知られています。

    この記事では、寛大化傾向をどうすれば防げるのか、考えていきたいと思います。

    寛大化傾向とは何か?基本の知識


    最初に、寛大化傾向の概要から見ていきましょう。

    寛大化傾向とは実態より良いほうに評価すること
    まず、以下は書籍『評価者になったら読む本』からの引用です。

    ▼ 寛大化傾向とは?

    寛大化傾向とは、実態より良いほうに評価することをいう。相対評価の場合は寛大化傾向があまり発生しないが、絶対評価の場合は分布を予定していないので寛大化傾向が発生しやすい。

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    従来、日本企業では相対評価が一般的な手法として採用されていました。近年では、他者とは無関係に個人を評価する絶対評価へ、切り替える企業も少なくありません。

    個性を尊重した評価の導入が進む一方、寛大化傾向という評価エラーが潜んでいることにも、目を向けたいところです。

    寛大化傾向を生む心理とは?

    なぜ、寛大化傾向に陥ってしまうのでしょうか。同書では、以下のとおり解説されています。

    ▼ 寛大化傾向を生む心理

    部下がかわいい、部下に不利なことをしたくない、部下からよい上司と思われたい、部下と衝突したくない、他の評価者もやっているので自分だけ厳格にやると部下が不利になる、部下の行動を十分把握していないので甘めにつけておけば無難であろう、評価に自信がない、フィードバックがうまくできない、部下から反論された場合に十分説明できない等が、寛大化傾向を生む心理である。

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    寛大化傾向に陥りやすい人の特徴として、以下が挙げられます。

    • 部下に嫌われたくない気持ちが強い人
    • 他人の気分を害することを恐れる人
    • 自分にも他人にも甘い人
    • 部下との距離感が近く友だち感覚の人

    ここでのポイントは、
    「誰でも嫌われたくないし、言いづらいことは言いたくない」
    という事実です。

    しかし、評価者としての業務を全うするためには、そのような個人感情を乗り越え、正確な評価をしなければなりません。

    なぜなら、寛大化傾向を放置すると、組織にとって大きな問題が起きるためです。

    寛大化傾向が引き起こす問題

    寛大化傾向が引き起こす問題は、2つに大別されます。

    1. 人材が育たない
    2. 公平性に欠ける評価が不満や不信を生む

    寛大化現象に陥ると、2人とも高評価になってしまう
    寛大化傾向に陥ると、高成果を挙げたAさんと、改善が必要なBさんは、同じ高評価となります。

    Bさんは、自分の改善点を知り成長する機会を失います。高評価を得ることは現状への自信になり、自己成長の可能性まで、逸してしまいます。

    一方のAさんは、公平性に欠ける評価に対して、不満や不信を持ち始めます。寛大化傾向が続けば、やりがいを感じにくくなり、モチベーションを維持できません。

    結果として、組織全体の生産性が低下し、業績が伸び悩む原因となります。

    寛大化傾向をなくすための対策


    では、寛大化傾向をなくすために何をすべきでしょうか。4つの対策が挙げられます。

    1. 評価項目を細分化する
    2. データ分析や社内アンケートでチェックする
    3. 評価手法を工夫する
    4. 評価者のトレーニングを行う

    それぞれ見ていきましょう。

    1. 評価項目を細分化する

    1つめの対策は「評価項目を細分化する」です。

    人事評価シートに記載されている評価項目があいまいな場合、寛大化傾向が起きやすくなります。たとえば、以下は悪い例です。

    【悪い例】
    1. コミュニケーション能力
    2. プロジェクト管理能力
    3. イニシアティブ

    それぞれの評価項目を、細分化して定義してみましょう

    【良い例】
    1. コミュニケーション能力
      ・上司との意見交換の頻度と質
      ・会議での説得力のあるコミュニケーションの実績
    2. プロジェクト管理能力
      ・予算管理の達成度
      ・期限厳守の状況
    3. イニシアティブ
      ・自発的に課題を発見し解決策を提案した実績
      ・組織の目標達成に向けて行った行動

    上記は一例ですが、定性的な評価項目であっても客観的に評価できるよう、評価項目を改善することが役立ちます。

    2. データ分析や社内アンケートでチェックする

    2つめの対策は「データ分析や社内アンケートでチェックする」です。

    寛大化傾向は、自覚せずに陥っていることが多いため、“気づくこと”が重要です。データ分析や社内アンケートが、その手助けをしてくれます。

    分析調査によって、「特定のチームだけ寛大化傾向が強い」といった発見ができれば、具体的なアプローチが可能です。

    たとえば、そのチームのマネジャー(Cさん)に対して、以下のようにフィードバックできます。

    「Cさん、前期の評価では、Cさんが評価したメンバーの80%が最高評価でした。
    しかし、部署全体での最高評価の割合は30%です。
    この結果から、Cさんの評価が寛大化傾向にあると考えられます。
    この状況が続くと、評価の公平性や人材育成に悪影響を及ぼす恐れがあります」

    3. 評価手法を工夫する

    3つめの対策は「評価手法を工夫する」です。

    寛大化傾向の影響を受けにくい評価手法を併用することで、全体に対する影響を軽減できます。

    具体的な手法としては、以下が挙げられます。

    • 360度評価:上司・部下・同僚などさまざまな確度から評価することで、より客観的で包括的な評価を目指す手法

    • AI評価:人間のようなバイアスに陥ることのないAI(人工知能)によるデータ分析や機械学習を活用して評価する手法

    •  匿名評価:評価者の名前を伏せることで、率直な評価をしやすくする手法(360度評価と組み合わせて導入されることが多い)

    4. 評価者のトレーニングを行う

    4つめの対策は「評価者のトレーニングを行う」です。

    “質の高い人事評価の実践”は、人材育成・離職率・生産性といった経営にとっての重要課題に直結します。

    にもかかわらず、評価者に対して専門的なトレーニングを提供することなく、それぞれの独学に任せて運用している企業が少なくありません。

    評価者がトレーニングを受けていなければ、寛大化傾向をはじめとする評価エラーに陥るのは、無理のないことといえます。

    専門家を招いて行う評価者研修や、社内独自のトレーニングプログラムなど、具体的な実践を検討しましょう。

    さいごに


    本記事では「寛大化傾向」をテーマにお届けしました。

    筆者の見解としては、今後、寛大化傾向に陥る企業が増えていくのではと感じています。

    従業員のメンタルヘルスや過重労働に対する社会的な注目が高まる中で、多くの企業は「ストレスフリーで働きやすい環境づくり」に努めています。

    一方、「緩和だけでは組織は崩壊する」というシビアな一面があることも事実です。健全な人事評価とストレスフリーは、両立させる必要があります。

    そして何より、職場で働く従業員自身が、力強く成長する機会を奪わないために、社内の評価エラーと向き合っていただければと思います。

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    著者:三島 つむぎ
    ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。

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    出所)河合克彦『評価者になったら読む本』p.84
     
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    出所)河合克彦『評価者になったら読む本 改訂増補版』p.84

    *3
    出所)河合克彦『評価者になったら読む本 改訂増補版』p.84