50代前半の8人に1人が「ビジネスケアラー」のいま 介護の「2025年問題」にどう備えるか
少子高齢化が進む中、働きながら介護をする「ビジネスケアラー」と呼ばれる人たちの存在が喫緊の課題になっています。
企業にとっては現在すでに介護離職の問題を抱えているところもあるでしょう。
しかし今後団塊世代が一気に高齢化し、介護と仕事を両立する「ビジネスケアラー」が一気に増加するときを迎えます。
約800万人いる団塊世代が75歳以上の後期高齢者になる「2025年問題」について、企業はどのような備えをすべきでしょうか。
すでに、8人に1人がビジネスケアラーという現状
介護と仕事の両立を支援している株式会社リクシスの調査によれば、現在進行形の人だけでも45歳~49歳で20人に1人、50~54歳では8人に1人が、仕事をしながら介護をする「ビジネスケアラー」となっています*1。
また、2025年には6人に1人が75歳以上になると試算されています(図1)。団塊世代が一気に後期高齢者になり、介護が必要となる可能性の高い人が一気に増える、これが「2025年問題」と呼ばれるものです。
(出所:「令和4年度中小企業実態調査事業」経済産業省資料)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/opencareproject/gaiyo_r.pdf p4
1人の介護対象者に対して1人が介護に当たると考えても、少なくとも6人に1人がビジネスケアラーになるということでもあります。
さらに先行きとして、2030年にはビジネスケアラーの数は270万人となり、ビジネスケアラーの発生によって9兆円以上の経済損失が発生するとされています(図2)。
(出所:「介護政策」経済産業省)
https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kaigo_page.html
そして介護離職は、今でもすでに企業の課題になっています。
かつ、40代〜50代のマネジメント層がビジネスケラーにあたるというのがポイントです。脂が乗り、働き盛り世代の労働力を介護によって削がれてしまうことは、企業の労働力や生産性に大きな影響をもたらすことでしょう。
社内制度と利用状況
介護離職を迫られる従業員が出てくるのには、おもに以下のような理由があるようです。
企業の介護に対する制度整備状況
企業内での介護休暇の整備状況をみてみましょう。
まず、正規労働者、有期労働者について、介護をしている従業員の割合は下のようになっています(図3)。
(出所:「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 企業調査 結果の概要」厚生労働省資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000988663.pdf p10
正規労働者のうち35.2%、有期契約労働者のうち24.7%が介護をしています。
今後ますます増えていくことでしょう。
そして同資料を見ると多くの企業が法定通りの介護休暇日数を設定していますが*2、問題はその先にあります。
制度があるにもかかわらず生じている課題
というのは、介護休業制度が適切に利用されていないケースが多いのです。
介護休業・休暇制度、介護のための所定労働時間を制限する制度の利用状況はこのようになっています(図4)。
(出所:「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 企業調査 結果の概要」厚生労働省資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000988663.pdf p24
上図を見ると正規労働者、有期契約労働者のいずれについても、企業からみて「取得申請や取得の情報がなかった」という割合が圧倒的に多いことがわかります。
これには、2つの理由があると筆者は考えます。
介護休業などの利用が進まない理由
まずひとつは、従業員本人の心構えです。
冒頭の株式会社リクシスの佐々木裕子社長は、このような見解を示しています。
親を介護しなくてはならなくなる現実が目の前に迫っていても「可能性はあると思いつつ、何も準備していない」という人も多い。親が認知症になっているかもしれないと感じても、そうじゃないと思いたいからすぐに病院に連れていくほどではないと判断してしまう。すると対応が後手後手に回って、より状態を悪くしてしまう。「介護はつらいというイメージがあるため、心に蓋をして、まだ大丈夫と自分に思い込ませている。
<引用:「あなたもビジネスケアラー予備軍? 企業も社員も「2025年問題」に早く備えを」METIジャーナル>
https://journal.meti.go.jp/p/26069/
そしてハウス食品グループ本社のダイバーシティ推進部、加藤淳子部長はこのように述べています。
制度を知らないのか、知っていてもあえて使わないのか、そもそも制度はなくても良いのか。介護制度についての課題を探るため、2019年11月、社員に協力者を募って、講演会やセルフチェック、アンケートなどを実施した。アンケートの結果、「制度を厚くしてほしい」という人はほとんどおらず、「自分はまったく準備できていなかった」「介護から目をそらしていた」などという声が圧倒的だった。
<引用:「あなたもビジネスケアラー予備軍? 企業も社員も「2025年問題」に早く備えを」METIジャーナル>
https://journal.meti.go.jp/p/26069/
加藤部長は「介護は個人や家族の問題ととらえ、誰にも相談せずに一人で抱え込んでいる人が多い」とも指摘しています。
これについては、社内で勉強会などを開き、備えの意識を持ってもらう必要がありそうです。
もうひとつは、企業側の公的制度に対する認知不足です。
東京商工リサーチの調査によれば、自社の仕事と介護の両立支援について、取り組みが「十分だとは思わない」と回答している企業は7割以上にのぼっています(図5)。
(出所:「「介護離職」に関するアンケート調査」東京商工リサーチ)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1188693_1527.html
その一方で、厚生労働省の「介護離職防止支援助成金」の助成を受けた企業は全体の0.5%にすぎませんでした(図6)。
(出所:「「介護離職」に関するアンケート調査」東京商工リサーチ)
https://www.tsr-net.co.jp/data/detail/1188693_1527.html
「分からない」と答えている企業の割合が3割以上に達しています。
公的制度の利用について知ることも、介護離職防止に役立ちそうです。
「介護離職防止援助助成金」とは
介護離職防止助成金は厚生労働省が設けている制度です。
令和5年度では、介護離職防止についての助成は以下のような形になっています(図7、8)。
(出所:「令和5年度両立支援等助成金(出生時両立支援コース、介護離職防止支援コース、育児休業等支援コース)の制度変更をお知らせします」厚生労働省リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/001082092.pdf
休業中の業務を他の労働者が代替した場合がメインですが、制度等の個別周知の取組を行った上で、仕事と介護を両立しやすい雇用環境整備の取組を行った場合は加算して支給されます。
まず企業が介護について大前提として持たなければならない意識は、「介護はいつ始まり、いつ終わるかわからない」という点です。
そして介護離職は企業にとってダメージになるだけでなく、従業員は介護離職によって所得が減るのに介護費が増えるという厳しい状況に置かれてしまいます。
一方で介護の負担は、経験した人でなければ理解しにくいというのも現状でしょう。
現在大きなビジネスケアラー候補である「団塊ジュニア」世代は社内で大切なポジションにいる年齢の人たちでもあります。
助成金や、テレワークで働く環境などを検討し導入していく必要性があります。
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。
*1
「50代前半の8人に1人が「働きながら介護」の衝撃」東洋経済オンライン
https://toyokeizai.net/articles/-/692813?page=2
*2
「「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業 企業調査 結果の概要」厚生労働省資料)
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000988663.pdf p13、20