人事部の資料室

注目される「ジョブ型雇用」 導入した企業のきっかけとその成果は?

作成者: e-falcon|2022/06/26

近年、年齢や社歴に関係なく特定の業務の遂行能力に応じて雇用の継続や待遇を決定する「ジョブ型雇用」が注目されています。

日本企業で一般的なのは職務を定めずに人を採用し、業務の内容を限定せず安定雇用を続ける「メンバーシップ型雇用」です。

日本企業の一般的慣習とは異なる「ジョブ型」はいま、大企業でも採用され始めていますが、なぜそのような雇用形態に舵を切ったのでしょうか。
そして、ジョブ型雇用にはどのような効果が期待できるのでしょうか。

リーマン・ショック後の日立を救った「ジョブ型雇用」

日本企業でジョブ型雇用の先駆けとなっているのが、日立製作所です。

日立製作所のジョブ型雇用では、全職種でどのようなスキルや経験が必要かを示した「ジョブディスクリプション(職務記述書)」が整備されています。
職務の内容はジョブスクリプションで明確にされ、社内でも公表されているので、働く方、評価する方のどちらも定量的に仕事の成果をはかることができます。

従来型の日本企業では、「人に職をあてる」方法でした。誰にどんな仕事をさせるかという発想です。
一方でジョブスクリプションを基本とする「ジョブ型雇用」は、このように「仕事に人をあてる」という発想なのです。また、給与も勤続年数や年齢に関係なく、仕事の達成度に応じて支給するという極めてシンプルなシステムです。

ジョブ型雇用導入のきっかけ

日立がジョブ型雇用を導入するきっかけになったのは、リーマンショックの直撃でした。2008年度に7873億円の最終赤字に転落した日立は、グローバル化に活路を求めます*1。

それには積極的に現地の人材を採用しなければなりませんが、海外では日本のようなメンバーシップ型雇用は主流ではありません。
そこで、海外のスタンダードである「ジョブ型雇用」に転換する必要があったというわけです。

メンバーシップ型雇用が抱える評価制度の課題

特に「人事評価制度」については、多くの人事担当の悩みになっていることでしょう。

リクルートマネジメントソリューションズの調査によると、勤務先企業の人事評価制度については、半数近くが「満足していない」と回答しています(図1)。


(出所:「人事評価制度に対する意識調査」リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000572/

そして、不満足の理由はこのようになっています(図2)。

(出所:「人事評価制度に対する意識調査」リクルートマネジメントソリューションズ)
https://www.recruit-ms.co.jp/issue/inquiry_report/0000000572/

満足の理由・不満足の理由で最も多い項目に共通しているのは「評価制度の透明性」です。

メンバーシップ型雇用の企業では、「頑張りも評価する」という風潮があります。しかしそれでは、上司の主観を拭い去ることはできません。評価される側からすれば、目に見えない部分があまりにも多すぎるのです。実際そのように感じている社員が多くいるというのが上のアンケート結果でもあります。

テレワークと「ジョブ型雇用」

また、新型コロナ流行と時を同じくしてジョブ型雇用の拡大に乗り出す企業が相次いでおり、資生堂、富士通などなどがジョブ型雇用への移行を発表しています*2。

富士通の時田隆仁社長はジョブ型雇用の導入について、「テレワークだと労働時間の管理や人事評価が難しい面はあります。仕事の内容に沿って採用する欧米流のジョブ型に転換して、仕事そのものの成果に着目した評価の仕組みに変えざるを得ないでしょう」と述べています*3。

テレワークでは日中お互い何をしているかが見えないので不安になる、というのはテレワーカーも上司も感じていることですが、確かに仕事の成果に着目した人事評価制度を念頭においておけば、このようなもどかしさはなくなることでしょう。

時には「結果重視」も大事

もちろん、ジョブ型雇用が日本でどこまで浸透していくかには不透明さも残ります。
というのは、日本企業の長い慣習である「終身雇用」とジョブ型雇用は決して相性の良いものではないからです。

また、会社が突然ジョブ型雇用に舵を切ると従業員は「単なる成果主義である」と考えてしまい、抵抗する声もあることでしょう。離職してしまったり、結果を出そうとして働きすぎたりしてしまう従業員が現れてもおかしくありません。

その上で、日本でジョブ型雇用を導入するメリットとして期待できることは、少子高齢化によって「人生100年」「45歳定年」と、変革しつつある社会構造への処方箋の一つとしてでしょう。
実際に近年、ジョブ型雇用を通り過ぎて従業員を個人事業化させる動きまであります。
最初に大きな話題になったのは計測器大手のタニタでしたが、DeNAの南場智子社長も、優秀な社員には起業を持ちかけるといいます*4。
結果を出す優秀な人物はいずれ辞めていく、ならば起業を後押ししてDeNAと関わり続けてほしいという意図です。

特定のジョブに強みを持つ人材は、ある程度の年齢を重ねても自分の強みをいかして「自力で食っていく」ことができるのです。
従業員にとっても、再雇用で安い賃金を強いられることのないようにするためには必要なことでしょう。

「なんとなく企業に属している」人材は、企業としても従業員本人としても、あいまいなまま時を過ごしてしまうことになります。
そのあいまいさのまま年齢を重ねてしまい、強みを持たない「負債人材」を量産してきたことは「令和の大リストラ」が示しています。

従業員に特定の強みを持たせ、明確なスキルアップ意識を持たせるという「ジョブ型雇用」のメリットを取り入れることを、労使ともに検討すべき時なのかもしれません。