男性が活用できる育児休業制度|最新の法改正を踏まえて弁護士が解説
男性の育児休業取得率は、依然として低水準ではあるものの、年々上昇している状況です*1。
2022年には、男性の育児休業取得を促進する法改正が行われ、今後はさらに男性の育休取得率が向上することが期待されます。
今回は男性が活用できる育児休業制度について、法改正を反映した最新の内容をまとめました。
男性が利用できる育児休業制度の種類
男性が育児休業をすることは、産後間もない期間における母親の育児負担を減らすだけでなく、家族の在り方を考える良いきっかけとなるでしょう。
男性が利用できる育児休業制度は、育児・介護休業法*2に基づく制度と、会社独自の制度の2つに大別されます。
育児・介護休業法
育児・介護休業法では、通常の育児休業制度と「出生時育児休業制度(産後パパ育休)」の2つが認められています。
(1)通常の育児休業制度
原則として、子どもが満1歳に達するまで取得できます。
(2)出生時育児休業制度(産後パパ育休)
子どもの出生後8週間以内に、最長4週間(28日間)取得できます。
育児・介護休業法に基づく育児休業は、以下のいずれかに該当する労働者が取得できます。取得要件に該当する方は、会社が育児休業制度を設けていなくても、法律上の権利として育児休業を取得可能です。
(a)すべての無期雇用労働者(正社員)
(b)子が1歳6か月に達するまでに、労働契約の期間(更新される場合は、更新後の期間)が満了することが明らかでない有期雇用労働者
※ただし以下の労働者については、労使協定によって育児休業の対象外とすることが可能(同法6条1項、同法施行規則8条)
- 雇用期間が1年に満たない労働者
- 育児休業申出があった日から起算して1年以内に、雇用関係が終了することが明らかな労働者
- 1週間の所定労働日数が2日以下の労働者
会社独自の育児休業制度
育児・介護休業法に定められた育児休業制度は「最低ライン」であり、会社が独自にそれを上回る育児休業制度を設けることもできます。
会社によっては、たとえば育児休業期間を長めに確保しているケースや、パートやアルバイトにも幅広く育児休業を認めるケースなどがあります。
育児休業の取得を検討している方は、育児・介護休業法の制度に加えて、会社独自の育児休業制度が設けられていないかをご確認ください。
育児休業の期間と分割取得について
育児・介護休業法に基づく通常の育児休業を取得できるのは、原則として子どもが満1歳に達するまでですが、延長が認められる場合もあります。
2022年10月以降は、通常の育児休業を2回に分けて取得することが可能となりました。
育休期間は子どもが1歳まで|ただし延長できる場合あり
通常の育児休業が認められるのは、原則として子どもが満1歳に達するまでです(育児・介護休業法5条1項)。必ずしも「1年間休める」というわけではない点にご注意ください。
(例)
○子どもが生まれた日から1年間育児休業を取得する
○子どもが生まれた日の1か月後から、子どもが満1歳に達するまで育児休業を取得する
×子どもが生まれた日の1か月後から1年間育児休業を取得する
ただし、以下のいずれかに該当する場合には、育児休業期間の延長が認められます。
(1)両親がいずれも育児休業を取得する場合(パパ・ママ育休プラス)
→子どもが1歳2か月に達するまで延長できます(育児・介護休業法9条の6第1項)。ただし、各親の休業期間は最長1年間です(保育所等に入れない場合を除く)。
(例)
父親:子どもが生まれた直後~満1歳まで育児休業
母親:子どもが2か月~1歳2か月まで育児休業
(2)子どもが保育所等に入れない場合
→子どもが満2歳に達するまで延長できます(同法5条3項2号、4項2号、同法施行規則6条1号、6条の2)。
(3)以下のいずれかの理由により、配偶者が育児に参加できない場合
- 死亡
- 身体、疾病、身体上または精神上の障害
- 離婚
- 6週間以内(多胎妊娠の場合は14週間以内)の出産予定
- 産後8週間の未経過
→子どもが満2歳に達するまで延長できます(同法5条3項2号、4項2号、同法施行規則6条2号、6条の2)。
2022年10月から育児休業の分割取得が可能に
育児・介護休業法の改正により、2022年10月以降は、通常の育児休業を2回に分けて取得できるようになりました(育児・介護休業法5条2項)。
分割取得が可能になったことにより、会社の都合と調整しながら育児休業を取得しやすくなります。
(例)
(1)子どもが生まれた日から3か月間の育児休業(1回目)を取得
(2)繁忙期に合わせて3か月間出勤
(3)子どもが満1歳に達するまで6か月間の育児休業(2回目)を取得
新制度|出生時育児休業(産後パパ育休)のポイント
2022年10月に施行された改正育児・介護休業法では、子どもが生まれた直後の時期に取得できる「出生時育児休業(産後パパ育休)」の制度が新設されました(育児・介護休業法9条の2~9条の5)。
産後休暇中の妻をサポートできる
出生時育児休業は、子どもの出生後8週間以内に、最長4週間(28日間)取得できます。この期間は、母親の産後休暇期間に重なります。
産後休暇期間の母親は、体力が十分に戻っておらず、子どもの世話をするのは非常に大変です。また、新しく母親になったことにより、精神的に不安定になりやすい時期でもあります。
このような時期に出生時育児休業を取得すれば、産後休暇中の妻の負担を軽減し、共同して育児に取り組む土台を固めることに繋がるでしょう。
2回まで分割取得可能
出生児育児休業は、2回までの分割取得が認められています(育児・介護休業法9条の2第2項第1号)。
(例)
子どもが生まれた1週間後から3週間後、5週間後から7週間後の2回に分けて出生時育児休業を取得
分割取得をすれば、仕事から離れる1回当たりの期間が短くなるため、会社の業務への影響を小さく抑えることが可能となります。
なお、出生時育児休業を分割取得する場合は、最初にまとめて取得時期を申し出なければなりません。
※通常の育児休業は、取得の際にその都度申出を行います。
育児休業中の労働が認められる場合あり
労使協定でルールを定め、さらに労働者と日程・時間帯を調整すれば、会社は出生時育児休業中の労働者を労働させることができます(育児・介護休業法9条の5)。
分割取得が可能である点と併せて、会社の業務との間で柔軟に調整ができるため、比較的取得しやすいのが出生時育児休業の大きな特徴です。
まとめ
育児・介護休業法の改正により、男性が育児休業を取得しやすい制度・環境は整いつつあります。これからは、男性による育児休業の取得を当然の前提として、会社と従業員が話し合って働き方を決める時代になっていくでしょう。
会社・従業員のそれぞれが古い固定観念を刷新して、現代の制度・考え方に合った雇用の仕方・働き方を模索することが求められています。
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
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*1 男性の育児休業取得率は、2011年度で2.63%(岩手県・宮城県・福島県を除く)、2016年度で3.16%、2021年度で13.97%。
出所)厚生労働省「令和3年度雇用均等基本調査 結果の概要 事業所調査」p22
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/71-r03.html
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/dl/71-r03/03.pdf
*2 正式名称:育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=403AC0000000076_20221001_504AC0000000012