帝国データバンクによると、2023年上半期は人手不足による倒産が110件発生し、年半期ベースで過去最多となりました。
現在はウィズコロナによる経済活動の活発化に伴い、サービス業を中心に人手不足感が強まりつつありますが、日本の人手不足は一時的な問題ではありません。常態的な人手不足は今後ますます深刻化すると予想されており、国は人材確保と省人化の両面で対応すべきだと考えています。
では、構造的な人手不足によって労働市場や企業行動はどう変化していくのでしょうか。また、国はどのような対策を打ち出しているのでしょうか。
まず、人手不足の現状と今後の推計をみていきましょう。
従業員の離職や採用難などによって人手を確保できず、業績が悪化したことが要因の倒産を「人手不足倒産」と呼びます。
帝国データバンクの調査・分析によると、2023年上半期の「人手不足倒産」は110件に上り、2013年に集計を開始して以降、年半期ベースで初めて100件を超え、過去最多件数を更新しました(図1)。*1
出所)PRTIMES 帝国データバンク「「人手不足倒産」、過去最多ペース 2023年上半期で110件発生、転退職による倒産も増加」
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000692.000043465.html
ポストコロナに向けて経済活動が本格化するなかで、「人手不足倒産」は増加傾向がみられ、現状の発生ペースで推移した場合、2023年通年でも過去最多の2019年(192件)を更新すると予想されています。
日本の生産年齢人口(15~64歳)は1995年をピークに減少しており、2020年の7,509万人から2050年には5,275万人へと、2,234万人減少すると推計されています(図2)。*2
出所)総務省「令和4年版情報通信白書>第1部 第1節 (1)生産年齢人口の減少」
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r04/html/nd121110.html
生産年齢人口の減少は労働力不足に直結するため、今後ますます大きな課題になることが懸念されています。
さらに今後は、外国人労働者も不足すると推計されています(図3)。*3
出所)経産省「未来人材ビジョン」 p.10
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
以上みてきたように、人手不足は一時的な問題ではなく、今後ますます深刻化すると予想される構造的な課題なのです。
こうした人手不足によって、労働市場は現在どのような状況にあるのでしょうか。また、今後どう変化していくのでしょうか。
まず、現在、人手不足感が強い業種をみてみましょう(図4)。*4
出所)経産省「「人材」について」p.8
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/014_03_00.pdf
図4から、特に、建設、運輸・郵便、宿泊・飲食サービス業などの非製造業分野での人手不足感が強いことがわかります。
では、職業別の有効求人数や求職者数のバランスはどうなっているのでしょうか(図5)。
出所)経産省「「人材」について」p.9
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/014_03_00.pdf
有効求人数が求職数に比べて多いのは、介護を含むサービス分野や、専門技術分野です。一方、求職数が多い事務分野などは求人数が少ないことがわかります。
デジタル化の影響について、AIやロボットによって「日本の労働人口の49%が将来自動化される」というショッキングな予測が発表されました。
下の図6はそうした推計の1つです。*3
出所)経産省「未来人材ビジョン」 p.4
https://www.meti.go.jp/press/2022/05/20220531001/20220531001-1.pdf
ただし、AIやロボットによる雇用の自動化可能性に関しては統一見解はなく、先行きは不透明です。
国は人手不足への対策として、中長期の人口減少を見据え、人材確保・ミスマッチの解消と徹底的な省人化を進めていくことが必要だという見解を示しています。 *4
その方策をみていきましょう。
以前は結婚・出産期に当たる年代に女性の雇用比率が一旦低下し、育児が落ち着いた時期に再び上昇する、いわゆる「M字カーブ」が課題となっていましたが、最近はM字の谷の部分がほぼ消滅し、「M字カーブ」問題は解消しました。
それにかわって現在では、結婚・出産を機に女性の正規雇用比率が低下する「L字カーブ」問題が顕在化しています(図7)。*4
出所)経産省「「人材」について」p.7
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/014_03_00.pdf
女性のパートタイマーをフルタイムの正規雇用に転換することができれば、全体の労働時間は0.9%増加すると推計されています。
また、節税対策としての配偶者控除、いわゆる「所得の壁」が解消すれば、全体の労働時間は0.8%増加すると推計されています。
こうした見通しをふまえ、パートタイム労働者への支援、活躍促進として、以下のような対策が示されています。
IT分野を含む高度人材のニーズが高まっています。
そこで国は、以下のような対策を打ち出しています。*4
「均衡失業率」とは、完全失業者のうち、企業が求める人材と求職者の持っている特性(職業能力や年齢)などが異なることにより生じる構造的失業と、企業と求職者の互いの情報が不完全であるため、両者が相手を探すのに時間が掛かることによる摩擦的失業から構成される失業者の割合、つまりミスマッチによる失業率を指します。*5
一方、「需要不足失業率」とは完全失業率と均衡失業率の差であり、景気が後退している時機に労働需要(雇用の受け皿)が減少することによって生じる失業者の割合と考えられています。
https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2022/pdf/honbun_1_4_1.pdf
上の図8をみると、失業率のうちミスマッチによるものの割合(均衡失業率)が高いことがみてとれます。
こうした状況を改善するために、国は労働者がリスキリングによって、企業とニーズが合致する業種に転職することを推進しようとしているのです。
この他、人材確保の対策としては、高齢者の活躍促進(現在3割に留まる70歳までの就業確保実施企業の割合を引き上げること)、就職氷河期世代への就労支援、外国人労働者の受け入れといった施策も掲げられています。*4
国はロボットやドローンの活用による省人化も推進しています。
「ものづくり補助金」に関しては、2021年度補正予算以降、デジタル技術を活用した生産プロセス・サービス提供方法の改善に取り組む事業者に対し、補助率を1/2から2/3に引き上げて支援しています。*4
以下の図9はその事例です。
出所)経産省「「人材」について」p.27
https://www.meti.go.jp/shingikai/sankoshin/shin_kijiku/pdf/014_03_00.pdf
人手不足の要因にはさまざまなものがありますが、日本の人手不足は構造的な問題であり、今後も労働市場に大きな影響を与えることが予想されます。
経営陣や採用・人事担当者は、常にその動向に注目し、適切な対策を講じる必要があります。