人材のスキルや傾向をAIなどで分析し、人事に活用する「ピープルアナリティクス」が注目されています。
ピープルアナリティクスの導入は人材配置の合理化だけでなく、離職防止も期待されます。
また、従業員エンゲージメントの向上にもつながっています。
では、ピープルアナリティクスとはどのようなもので、導入した企業にはどのようなメリットがあるものなのでしょうか。
今、注目を集めている理由と併せて、みていきましょう。
ピープルアナリティクスとは文字通り、「人材の分析」です。
個人のスキル、志向、行動傾向、性格などを数値で「見える化」し、社員のエンゲージメント上昇や人事異動、離職防止に役立てる企業が増えてきています。
以下は、ピープルアナリティクスでできることの一例です(図1)。
(出所:「ピープルアナリティクス」PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/services/consulting/analytics/human-capital-analytics.html
そしてPwCの2021年のレポートによると、人材分析にデータを活用している企業のうち、「3年後に人材マネジメントとして活用していたいデータ」は下のようになっています(図2)。
(出所:「ピープルアナリティクスサーベイ2021調査結果(速報版)」PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/people-analytics-survey.html
調査時点での活用状況に比べて3年後に活用を拡大したいと考えられているデータの種類は、
「スキル情報(マネジメントスキル・専門スキルなど)」
「キャリアプラン情報(希望職種・希望勤務地など)」
「パルスサーベイ(メンタルヘルス・エンゲージメントなど)」
といったものが上位にきています。
実際のスキルにあった「適材適所」の人事や、いわゆる「配属ガチャ」でのエンゲージメント低下を防ぐための本人の希望、これらに関するデータへの注目度が高くなっています。
以下、いくつかの事例をみていきましょう。
まず、電通の事例があります。比較的シンプルといえるものです。
全社員5000人を特性ごとにカテゴライズし、カテゴリごとに別の研修を実施するという方法です(図3)。
(出所:「ピープルアナリティクスで人財を成長させる要因を分析―電通コーポレートワン」日経BP)
https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00066/101800005/?P=2
それまでは、人材データは各部署に散在していました。それぞれの部署がそれぞれの目的で収集したデータはあるものの、部署によって内容も形式も異なるものでした。
ピープルアナリティクスにあたっての取り組みの第一歩は、これら散在するデータの一元化です。
次いで、縦軸と横軸に何を取るかを決定し、分析を開始しています。
上の図でいけば、パフォーマンスが高く、かつ自己成長の意欲も拡大しているという、(1)のエリアに属する人材が多い組織が理想でしょう。その対局にある(9)のエリアに属する人材の場合は底上げをはかる必要があります。
まず、それぞれの人材がどの層に属するか、また、その割合はどのようなものかを探ろうというわけです。
その結果、2021年3月に実施した集計では、(7)〜(9)の模索層に属する人材の合計が全体の半数近く、45.8%にのぼっていたということです*1。
そこで(7)をターゲットにした改善プログラムを実施し、模索層の割合を減らすことに成功しています(図4)。
自分のことを考え直す機会があれば、大きく成長できる人たちだと捉えたためです。
(出所:「ピープルアナリティクスで人財を成長させる要因を分析―電通コーポレートワン」日経BP)
https://project.nikkeibp.co.jp/HumanCapital/atcl/column/00066/101800005/?P=3
将来的には売上のデータなども活用し、経営へのインパクト予測についてもデータ活用をしたい、ということです。
また、日立製作所では配属マッチングのために、筑波大学の指導を得て独自の分析方法を開発しています。特に人材の「内面」の分析にフォーカスしたシステムです。
日立のシステムでは個人の内面により迫るために、個人の意識を「生産性サーベイ」と「配置配属サーベイ」という2つに分けて調査、マッピングしています。
たとえば、個人の生産性に関する意欲を調査する「生産性サーベイ」は3次元6因子で構成されています(図5)。
図5:日立製作所の設定する「生産性サーベイ」個人因子
生産性サーベイ | |
創造性次元 | (1)挑戦意欲度 |
(2)多様性関心度 | |
効率性次元 | (3)役割理解度 |
(4)成果意識度 | |
(5)計画段取度 | |
心身の調整 | (6)心身調整度 |
(出所:「まるわかり!HRテクノロジー」日経HR p71 より筆者作成)
そして、個人だけでなく、組織側の特性についても5つの因子を設定し(「役割明確性」「価値観調和性」「相互尊重性」「成長促進性」「環境快適性」)、カテゴライズしています。
その上で、その人材が今いる組織(部署)が本人にマッチしているのかどうかを計測するのです。個人や組織へのアドバイスにも用いられます。
人を目の前にした「面接」の場では、自分の内面について口にしにくいこともありますし、人が個人を評価するにはバイアスもかかってしまうことでしょう。これらの課題も解消できるシステムともいえます。
人材評価や人事をシステムで決定することに抵抗のある人もいるかもしれません。
しかしPwCの調査によると、ピープルアナリティクスをはじめとしたHRテクノロジー(Human Resource Technology)の活用は、従業員エクスペリエンス(EX)の向上にも寄与しています(図6)。
(出所:「2020HRテクノロジーサーベイ報告書」PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2020/assets/pdf/hr-technology-survey2020.pdf p8
グローバル調査では、82%の企業が「効果的だった」としているのです。特に以下のような項目について従業員のエンゲージメントが向上しています(図7)。
(出所:「2020HRテクノロジーサーベイ報告書」PwC)
https://www.pwc.com/jp/ja/knowledge/thoughtleadership/2020/assets/pdf/hr-technology-survey2020.pdf p8
特に上位にきている「キャリア開発」「ストレスチェック」といった項目は、冒頭にご紹介したように(図2)企業側も注目している項目でもあります。
なお、デロイトトーマツの試算によると、3000人規模の企業の場合、退職率を1%減らすと2.6億円のコスト低減効果があるということです*2。
人材に不足感がある企業の場合、離職防止は大きな課題でもあります。
冷静に人材を分析して適材適所の配置をする、あるいは離職予備軍には早期に声をかけて予防し、人材育成にかかるコストを抑えていくといった取り組みは、今後より必要になっていくことでしょう。