職場でのハラスメントは多種多様|種類・予防策・相談先を弁護士が解説

    職場におけるハラスメントの代表例としてはパワハラ・セクハラが挙げられますが、それ以外にもさまざま種類のハラスメントが見られます。

    今回は、職場で散見されるハラスメントの種類、企業が講ずべき対策、ハラスメント被害を受けた場合の相談先などをまとめました。

    職場におけるハラスメントの種類


    職場におけるハラスメントの種類としては、以下の例が挙げられます。
    (1)セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)
    (2)パワー・ハラスメント(パワハラ)
    (3)マタニティ・ハラスメント(マタハラ)
    (4)パタニティ・ハラスメント(パタハラ)
    (5)ケア・ハラスメント(ケアハラ)
    (6)その他のハラスメント

    上記のうち、セクハラ・パワハラ・マタハラ・パタハラ・ケアハラについては、法律において(実質的な)定義規定が設けられています。

    セクシュアル・ハラスメント(セクハラ)

    セクハラに当たるのは、職場における性的な言動であって、以下のいずれかに該当するものです(男女雇用機会均等法11条1項)。
    (a)対価型セクハラ
    労働者の対応により、当該労働者が労働条件について不利益を受けるもの
    (例)部下に交際を断られたので、窓際部署へ左遷した

    (b)環境型セクハラ
    当該性的な言動により、労働者の就業環境が害されるもの
    (例)異性との交際歴をしつこく聞かれ、精神的に大きなストレスを抱えて仕事に支障が出た

    パワー・ハラスメント(パワハラ)

    パワハラに当たるのは、職場において行われる、以下の要件をすべて満たす言動です(労働施策総合推進法30条の2第1項)。
    (a)優越的な関係を背景としたもの
    (例)上司の部下に対する言動、集団の個人に対する言動、専門知識を有する労働者のそうでない労働者に対する言動

    (b)業務上必要かつ相当な範囲を超えるもの
    (例)仕事上のミスを繰り返させないために、多少厳しく叱責する程度であれば、必要かつ相当な指導としてパワハラに当たらない

    (c)労働者の就業環境を害するもの
    (例)過剰な叱責を受けて精神的ショックを受け、仕事に支障が出た

    マタニティ・ハラスメント(マタハラ)

    マタハラに当たるのは、職場において行われる、以下の要件をすべて満たす言動です(男女雇用機会均等法11条の3第1項、育児・介護休業法25条1項)。
    (a)女性労働者に対するもの

    (b)以下のいずれかの事柄に関連するもの
    ・妊娠または出産に関する事由であって、男女雇用機会均等法施行規則2条の3で定めるもの
    ・育児休業など、育児・介護休業法で定められる子の養育に関する制度の利用
    (例)妊娠したことを理由に退職を促された、育児休業を取得することについて嫌味を言われた

    (c)当該女性労働者の就業環境を害するもの

    パタニティ・ハラスメント(パタハラ)

    パタハラに当たるのは、職場において行われる、以下の要件をすべて満たす言動です(育児・介護休業法25条1項)。
    (a)男性労働者に対するもの

    (b)育児休業など、育児・介護休業法で定められる子の養育に関する制度の利用に関するもの
    (例)育児休業を取得することについて嫌味を言われた

    (c)当該男性労働者の就業環境を害するもの

    ケア・ハラスメント(ケアハラ)

    ケアハラに当たるのは、職場において行われる、以下の要件をいずれも満たす言動です(育児・介護休業法25条1項)。
    (a)介護休業など、育児・介護休業法で定められる家族の介護に関する制度の利用に関するもの
    (例)介護休業を取得することについて嫌味を言われた

    (b)労働者の就業環境を害するもの

    その他のハラスメント

    上記のほか、職場では以下に挙げるハラスメントも問題視されることがあります。
    (a)モラハラ(モラル・ハラスメント)
    →労働者に対する精神的な嫌がらせです。優越的な関係を背景としない嫌がらせ(同格の従業員間における嫌がらせなど)を、パワハラと区別する形で「モラハラ」と呼ぶことがあります。

    (b)アルハラ(アルコール・ハラスメント)
    →飲酒に関する嫌がらせや迷惑行為です。嫌がる労働者を無理やり飲み会に参加させること、酒席でボディタッチや過剰な説教をすることなどがアルハラに該当します。

    (c)セカンド・ハラスメント
    →ハラスメントについて相談した労働者が、相談に応じた人からさらに嫌がらせを受け、または非協力的な態度をとられる二次被害です。

    これらのハラスメントは法律上定義されていませんが、行為者は「不法行為」(民法709条)、会社は「使用者責任」(民法715条1項)や「安全配慮義務違反」(労働契約法5条)に基づき、被害者に対して損害賠償責任を負う可能性があります。

    企業が講ずべきハラスメント対策


    企業は以下のハラスメント対策を講じて、職場におけるハラスメントの撲滅に努めなければなりません。

    (1)ハラスメント防止方針等の明確化・周知・啓発
    (2)ハラスメントに関する相談・苦情処理体制の整備
    (3)ハラスメント発生時における適切な事後対応

    ハラスメント防止方針等の明確化・周知・啓発

    まずは会社全体として、職場におけるハラスメントを排除・防止するための方針を策定すべきです。
    ハラスメント防止方針においては、職場において発生するおそれのあるハラスメントを列挙した上で、それらを禁止する旨、および違反者に対しては厳しい処分を行う旨を明記しましょう。

    策定したハラスメント防止指針は、管理監督者を含む労働者全体に周知・啓発することが大切です。定期的にハラスメント防止研修を実施するなど、労働者に対する周知・啓発に努めましょう。

    ハラスメントに関する相談・苦情処理体制の整備

    ハラスメント被害を深刻化する前に解決するためには、労働者向けの相談窓口を設置し、適切な処理体制を整えることが効果的です。

    相談窓口の担当者には、ハラスメントに関する十分な知識をインプットした上で、対応の指針となるマニュアルを整備しておくのがよいでしょう。実際の相談事例を踏まえた上で、定期的に担当者向けのアップデート研修を実施することが望ましいです。

    また、労働者がハラスメント相談窓口の存在を知らなかったため、結局相談できなかったというケースも散見されます。ハラスメント相談窓口を設置したら、従業員研修や社内報などを通じて定期的に周知を行いましょう。

    ハラスメント発生時における適切な事後対応

    実際にハラスメントが発生したら、企業は以下の措置を適切に講じることが求められます。
    (a)事実関係の迅速・正確な把握
    (例)メールなど資料の確認、関係者への聞き取り調査

    (b)被害者に対する配慮の措置
    (例)加害者から引き離す配置転換、カウンセリングの実施

    (c)行為者に対する措置
    (例)懲戒処分、厳重注意

    (d)再発防止策の検討・実施
    (例)ハラスメント防止研修の強化、対応マニュアルの改定、ハラスメントに関する人事部面談の実施

    ハラスメント被害の主な相談先


    もし職場でハラスメント被害を受けたら、一人で抱え込まずに専門家や行政機関などへご相談ください。ハラスメント被害の相談先としては、以下の例が挙げられます。
    (a)会社が設置するハラスメント相談窓口

    (b)都道府県労働局・労働基準監督署の総合労働相談コーナー
    厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」
    https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html

    (c)みんなの人権110番
    法務省「みんなの人権110番(全国共通人権相談ダイヤル)」
    https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken20.html

    (d)ハラスメント悩み相談室
    厚生労働省「ハラスメント悩み相談室」
    https://harasu-soudan.mhlw.go.jp/

    (e)弁護士
    日本弁護士連合会「法律相談」
    https://www.nichibenren.or.jp/legal_advice.html

    (f)社会保険労務士
    全国社会保険労務士会連合会「職場のトラブルを相談したい」
    https://www.shakaihokenroumushi.jp/consult/tabid/554/Default.aspx

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    著者:阿部 由羅(あべ ゆら)
    ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。 
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