最近よく聞くようになった言葉のひとつに、「ギグエコノミー」があります。
単発・短期の細分化された仕事を請け負う働き方や、それによって成り立つ経済圏を指す言葉です。
これまで、正社員の採用をメインとしてきた企業の採用担当者にとっても、ギグエコノミーには注目しておきたいポイントがあります。
この記事では、ギグエコノミーの基本的な概念を確認したうえで、企業はどのように向き合っていけばよいのか、考えていきたいと思います。
ギグエコノミーとは何か、まずは基本事項から確認していきましょう。
もともと「ギグ(GIG)」は、音楽業界でよく使われてきた言葉です。
“ジャズやロックのミュージシャンが、単発請け負いで一夜限りの演奏をすること” の意味があります。
たとえば、伝説のバンドといわれたBOØWY(ボウイ)は、すべてのライブを「GIG」と呼ぶこだわりを見せていました。
一方、2000年代になると、ギグという言葉がより多くの業界で使われるようになっていきます。
公的な文献を紐解くと、2019年の総務省「令和元年版情報通信白書」にて、以下の記述が登場します。
人々が働くということについても、企業等の組織に所属するのではなく、フリーランスの立場で、インターネットを利用してその都度単発又は短期の仕事を受注するという働き方が注目されている。
そして、このような働き方や、これらによって成り立つ経済の仕組みは、「ギグエコノミー」と呼ばれている。
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同白書では、「ICTがもたらした新たな経済の姿」の一例として、ギグエコノミーが挙げられています。
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出所)総務省「令和元年版情報通信白書」p.3
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/pdf/01honpen.pdf
同白書は2019年7月に発刊されたものです。その約半年後、新型コロナウイルス感染症によって、世界中に大きな変化が起きました。
コロナ禍を経て、ギグエコノミーのような新しい働き方が、一気に加速したといえます。
とくに、リモートワークの普及は、ギグエコノミーにとって追い風となりました。
ただし、コロナ禍より前から、ICTがもたらした新しい形として流れができていたことは、念頭におきたい点です。
「新型コロナウイルスによる一時的なトレンド」と捉えてしまうと、動向を見誤るリスクがあります。
次に、ギグエコノミーは、ギグワーカー(ギグエコノミーの働き手)および企業の双方にとって、どのような意義があるのか、整理しておきましょう。
まず、ギグワーカーにとっては、以下が挙げられます。
一方、企業にとっても、ギグエコノミーにはさまざまな意義があります。
具体的に、企業はどのようにギグエコノミーと向き合っていけばよいのでしょうか。3つの戦略をご提案します。
1つめの戦略は「自社の社員のギグワークを許容する」ことです。
ギグワークに対して寛容な視点を持つことは、企業文化によってはチャレンジングかもしれません。
しかしながら、ギグワークの解禁は、短期的にも長期的にもメリットがあります。
まず短期的には、採用力の強化が挙げられます。現代の求職者は、自律性とリスクヘッジに対して敏感です。
“ギグワークOK”の職場であれば、1つの就職先に依存するリスクを回避しながら、自分のペースで働けます。
結果として、より力量のある人材を引き寄せやすくなるのです。
次に長期的には、既存社員の生産性やイノベーション力が、向上する可能性があります。
「リスキリング(新しいスキルの獲得)」が注目されていますが、ギグワークは、スキルを獲得するプラットフォームとしても、機能するからです。
2つめの戦略は「ギグワーカーを活用する」ことです。
ギグワーカーを活用するための最初のステップは、既存のビジネスモデルを見直すことです。
最初は多くの企業が、ギグワーカーの採用に対して、
「うちの業界では無理」「うちの会社には合わない」
と抵抗感を示していました。
しかし、ギグエコノミーの成長を脅威、あるいはチャンスと感じたなら、ギグワークに対応できるよう、自社のビジネスモデルを改良していく視点が重要です。
あるいは、これから立ち上げる新規事業では、“ギグワーカーの活用ありき”でモデルを構築することが、役立ちます。
3つめの戦略は「社内のギグワーカーを募る」ことです。
ギグエコノミーの考え方を社内に導入することは、社内転職(社内公募)制度と比較して障壁が低く、社内に眠るリソースを活用できる良策です。
これまで見過ごされてきた社員の才能やスキルを再発見することで、組織力が強化されます。
社員自身にとっても、キャリアの多様化や成長意欲、働きがいの向上につながることがメリットです。
部署を横断した“横のつながり”が強化されることにより、組織の結束力やチームワークの向上も期待でき、組織全体に対して好ましい刺激が生まれます。
就職氷河期世代である筆者が学生の頃、正社員ではない形態で働く人たちは、ネガティブなニュアンスで語られることが主でした。
「フリーター」や「派遣」という言葉が注目され、「誰もが正社員になりたい(はずだ)」という価値観がベースにありました。
一方、「ギグワーカー」に悲観や失望の色はなく、自由と高収入を目指す積極的な意志が感じられます。
企業としては、これらの変化に対応し、新たなリソースとの向き合い方を、深く考えるべき時期にきているといえるでしょう。