新卒採用で「志望動機」「ガクチカ」はどこまで重視すべきなのか
エントリーシートの内容、志望動機、いわゆる「ガクチカ」の3つは、新卒採用では基本セットのように考えられているかもしれません。
学生側もこれらの「対策」をしっかり行ってから就職活動に臨みます。
しかし、これらの情報と数回の面接だけでは、なかなか学生の「本音」を掴むのは難しいのもまた現実です。
面接の内容も、どのような質問があったかも詳細にネットで共有される時代でもあり、学生の間には「ノウハウ」も出回っている状態です。
そのような中、新卒採用にあたっては「志望動機」や「ガクチカ」をどこまで重視すればよいのでしょうか。
学生が本当に就職したい会社とは
まず、学生の就職に関する意識からみていきましょう。
マイナビの調査によれば、大学生の企業選択のポイントは下図のように推移しています(図1)。
(出所:「マイナビ 2022年卒大学生就職意識調査」株式会社マイナビ)
https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2021/04/2022_syusyokuishiki.pdf p3
上記は就職氷河期以降の統計で不安定さや不景気が続いた時期と言えますが、「安定している会社」を求める傾向がどんどん強まり、ついに2020年の新型コロナ流行以降は「自分のやりたい仕事(職種)ができる会社」を逆転しています。
よく「業界研究」「企業研究」ということが近年の就活では求められる風潮がありますが、学生の企業探しの根底にあるのは「安定」です。
面接では本音「言えなかった」が6割
また、就職情報サイト「ONE CAREER」を運営している株式会社ワンキャリアが、興味深いアンケート調査結果を公表しています。
2023年卒の就活生を対象に実施したものですが、学生が面接で「本音を言えたかどうか」というものです。
結果としては、約6割が「面接で、本音で話せなかった経験がある」と回答しています。背景には不採用への不安があるといいます(図2)。
(出所:「【2023年卒就活の実態調査】約6割の学生が、面接で本音を『言えない』」PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000072.000035321.html
さらに学生の約6割が、企業説明会や企業のサイトでは「社風カルチャー」を理解できなかった経験がある、と回答しています(図3)。
(出所:「【2023年卒就活の実態調査】約6割の学生が、面接で本音を『言えない』」PR TIMES)
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000072.000035321.html
その理由として、下のようなものが挙げられています*1。
- 企業にとって良いことしか言わない・書いていないから。
- 説明が少なく、写真で明るいイメージを強調するサイトが散見されました。具体的な雰囲気が伝わりづらいと感じた。
- 本音を話しているように感じられなかったから。人事の方が一方的にしゃべっていたから。
というものです。
企業を理解できないまま、そして面接では本音を言えないまま内定をもらって入社したものの、のちになって「違う」となる学生が出てくることは珍しくないといえるでしょう。
「どの会社がいいなんて言えるわけがない」
もう20年以上経ちますが、現代に比べれば筆者はずいぶん荒っぽい就職活動をしたものだなと思います。
当時はインターネットも今ほど便利なものではありませんでしたし、今のようにSNSなどで情報を活発にシェアするという時代でもありませんでした。
ただ、アルバイトの経験から放送局に就職したいと思い、アルバイト先や顔見知りになった同業他社の放送局社員の先輩方に色々と教わり就職活動を始めました。また、放送局以外の就職は考えていませんでした。
社員の先輩たちは人事担当ではありませんので、無理に自分達の業界の良いところだけをアピールするということもありません。具体的なものとしては、いわゆる「圧迫面接」への対応という具体的なアドバイスがあったくらいでした。
また、当時であれば履歴書についても、どのようにした方がいいというアドバイスはありましたが、自分の書きたいことを曲げたわけでもありませんでした。
そして先輩のアドバイスに従ったこともあってか数回の面接が進み、最終面接を迎えたときのことです。
社長を含む役員が相手の面接でしたが、いくつかの質問に答えた後、「なぜうちの会社なのか」と問われ、思わず筆者の口をついて出てきたのは、
「これだけ競争率の高い業界の中で、どの社がいいなんて選べません。いち早く内定が出たところに入るだけです」
という言葉でした。というのも、筆者は金銭的に追い込まれていたからです。
「最後に言いたいことはありますか?」と問われ、正直に、
「就職活動を始めるとアルバイトもあまりできないし、京都から毎回通っているのでもうお金がないんです。きょうは青春18きっぷでここまできました。だからここで決めていただいたら他社の活動はやめますので、お願いします!」
と答えました。
これ以上ない、という本音です。特に「御社の番組作りは〜」という蘊蓄を語るつもりもありませんでした。
というのは、学校に行ったりアルバイトをしたりしていれば、そこまでテレビを見ている時間はなかったというのもありますし、学生の段階ではそこまでの知識はないというのも現実です。
結果、後日内定通知が届きました。驚くべきことに、入社式での新入社員代表にも選ばれました。
今思い出す、先輩のアドバイス
さて、時間が経って今は新入社員や若い社会人を「観察」する側に回った筆者ですが、当時放送局の先輩から受けたアドバイスのうち、とても印象に残っている言葉があります。
それは、
「会社側は、学生に知識なんて求めてないから」
というものです。
これは現代の企業側にとっても、ある意味では必要なスタンスだろうと筆者は思います。
上述のとおり、「不採用への不安」から面接で本音を言えなかったり事実と異なることを言ってしまったり学生がいるのは、「企業カルチャーを理解できない」まま面接に望んでいることとも関連があると筆者は推察します。
また、学生の間に得られる知識は限られたものです。そして、会社員となってからのほうが長いわけですし、就職は「やってみないとわからない」ものでしかありません。
そして、学生側の本音は圧倒的に「安定している会社かどうか」です。
「やりたい仕事」だと学生のときに考えていたものが、実際のビジネスになるとそうではなくなってしまうことなど十分にありえます。「好き」を仕事にする難しさは、先輩社員のほうがよく知っていることでしょう。
一部の研究職を除けば、「働く」というのは学生時代に想像している姿とは別次元のものということは少なくありません。
その場で成長していけるかどうかも、「好き」だけでは決まりません。
「ガクチカ」を聞かない企業も
さて、日立製作所は採用面接で「ガクチカ」に関する質問をやめることを明らかにしています*2。
今年就職活動を迎える学生は、新型コロナの影響で入学当初から対面での活動が制限されてきたため、というのを直接の理由としていますが、進みすぎた「就活ノウハウの拡散」の時代には必要なことと筆者は考えます。
代わりに導入するのは「入社後にどの職種で社会課題の解決に取り組みたいか」という「プレゼン選考」です。
人事側の質問に答えるという形式だけでは学生が本音を出せないケースがあったとしても、「プレゼン」は自分の考え方をもとに話す他ない場所になりやすいことでしょう。
なお日立製作所は、日本では他に先んじて「ジョブ型雇用」を採用した企業でもあります。一目置かれる人事戦略を持つ企業とも言えるでしょう。
今はエントリーシートも添削が前提と考える学生は少なくありませんし、エントリーシートの添削がビジネス化すらされている時代です。どこまでが本人の本音で、どこからがノウハウを参考に「妥協」したものかは、見た目ではわかりません。
もしあなたの会社の新卒採用で、画一的な学生が多いなと感じる場合には、その裏に指南役がいてもおかしくないと考えるべきでしょう。
企業側もきれいどころをアピールし、かつ就活生にも相当な「入れ知恵」がある。
そのような状況で繰り広げられる採用活動は、冷静に考えれば「一時的な騙し合い」になりかねません。
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。
*1
「【2023年卒就活の実態調査】約6割の学生が、面接で本音を『言えない』」PR TIMES
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000072.000035321.html
*2
「日立 面接で“ガクチカ”質問やめプレゼン選考導入」テレビ朝日
https://news.tv-asahi.co.jp/news_economy/articles/000291168.html