「フリーランス保護新法」とは? 個人事業主と取引する企業の注意点を弁護士が解説
2024年秋までに「フリーランス保護新法」が施行される予定となっています。
※正式名称:特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(以下「フリーランス保護新法」または「法」)
フリーランス保護新法では、フリーランス(個人事業主)や一人会社と取引する企業が遵守すべきルールが定められています。取引相手にフリーランスや一人会社がいる企業は、フリーランス保護新法の内容や注意点を理解しておきましょう。
本記事では企業側の視点で、フリーランス保護新法により適用されるルールや注意点などを解説します。
フリーランス保護新法とは
フリーランス保護新法とは、フリーランスの就業環境を整備する目的で、業務の受託および委託に関する規制などを定めた法律です。
フリーランス保護新法の目的
フリーランス保護新法の目的は、フリーランスが受託した業務に安定的に従事することができるように、発注者側が遵守すべき規制を定めて取引の適正化や就業環境の整備を図ることです。
フリーランスは雇用されている労働者と異なり、労働法による保護を受けられません。そのため、発注者である企業から簡単に契約を切られてしまったり、低単価による受注を強いられたりするケースがよく見られます。
このような状況を改善するため、フリーランス保護新法では、フリーランスと取引する発注者が遵守すべき各種の規制を定めています。
フリーランス保護新法の対象となる取引
フリーランス保護新法は、「特定受託事業者」が受託する業務に関する取引について適用されます。
特定受託事業者とは、以下のいずれかに該当する者をいいます(法2条1項)。(1)は個人のフリーランス、(2)はフリーランスが法人成りした一人会社を主に想定しています。
(1)個人であって、従業員を使用しないもの
(2)法人であって、代表者1人以外に他の役員(理事・取締役・執行役・業務執行社員・監事・監査役またはこれらに準ずる者)がなく、かつ従業員を使用しないもの
フリーランス保護新法の施行予定時期
フリーランス保護新法は2023年4月28日に国会で成立し、同年5月12日に交付されました。
施行日は未定ですが、公布日から起算して1年6か月以内に施行されることになっています。したがって、遅くとも2024年11月半ばごろまでにはフリーランス保護新法が施行される見込みです。
企業が遵守すべきフリーランス保護新法の主な規制
フリーランス保護新法の規制は、特定受託事業者(フリーランスなど)に対して業務委託をするすべての事業者(=業務委託事業者)が遵守すべきものと、そのうち特定業務委託事業者のみが遵守すべきものの2つに大別されます。
- 個人であって、従業員を使用するもの
- 法人であって、2人以上の役員があり、または従業員を使用するもの
(1)すべての業務委託事業者が遵守すべき規制
- 契約事項を明示する
(2)特定業務委託事業者のみが遵守すべき規制
- 報酬の支払期日を一定期間内で定める
- 発注者の禁止行為をしない
- 募集事項を的確に表示する
- 妊娠・出産・育児・介護との両立に配慮する
- ハラスメントを防止する
契約事項を明示する
すべての業務委託事業者は、特定受託事業者(フリーランスなど)に対して業務委託をする際、原則として以下の事項を書面または電磁的方法によって明示しなければなりません(法3条1項)。
- 特定受託事業者の給付の内容(提供すべき業務の内容や、納入すべき製品の仕様など)
- 報酬の額
- 支払期日
など
上記の明示の方法等については、今後制定される公正取引委員会規則によって定められる予定です。
報酬の支払期日を一定期間内で定める
特定業務委託事業者が特定受託事業者(フリーランスなど)に対して業務委託を行う場合、報酬の支払期日は給付の受領日(=成果物の納品やサービスの提供などを受けた日)から起算して60日以内に、かつできる限り短い期間内において定めなければなりません(法4条1項)。
ただし、特定業務委託事業者が他の事業者から委託された業務(=元委託業務)を特定受託事業者に再委託した場合は、元委託業務の対価の支払期日から起算して30日以内に、かつかつできる限り短い期間内において定めれば足ります(同条3項)。
発注者の禁止行為をしない
特定受託事業者(フリーランスなど)に対して業務委託をした特定業務委託事業者には、以下の行為が禁止されます。
(1)特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないにもかかわらず、以下の行為をすること(法5条1項1号~3号)
- 特定受託事業者の給付の受領を拒むこと
- 報酬の額を減ずること
- 特定受託事業者の給付を受領した後、特定受託事業者にその給付に係る物を引き取らせること(=返品)
(2)通常支払われる対価に比べて著しく低い報酬の額を不当に定めること(同項4号)
(3)給付内容の均質化・改善など正当な理由がある場合を除き、自己の指定する物を強制的に購入させ、または役務を強制的に利用させること(同項5号)
(4)以下の行為によって、特定受託事業者の利益を不当に害すること(同条2項)
- 自己のために金銭、役務その他の経済上の利益を提供させること
- 特定受託事業者の責めに帰すべき事由がないのに、特定受託事業者の給付の内容を変更させ、または給付を受領した後に給付をやり直させること
募集事項を的確に表示する
特定業務委託事業者が、業務委託先の特定受託事業者(フリーランスなど)を広告等により募集する際には、その広告等において、当該募集に関する虚偽の表示または誤解を生じさせる表示をしてはなりません(法12条1項)。
また、広告等によって特定受託事業者の募集に関する情報を提供するときは、正確かつ最新の情報に保たなければなりません(同条2項)。
妊娠・出産・育児・介護との両立に配慮する
特定業務委託事業者は、締結している業務委託契約の期間が一定以上の特定受託事業者(フリーランスなど)に対して、妊娠・出産・育児・介護(=育児介護等)と両立しながら業務に従事できるように、その状況に応じた必要な配慮をしなければなりません(法13条1項)。
育児介護等に関する配慮義務が認められる契約期間については、今後制定される公正取引委員会規則によって定められる予定です。
なお、上記の契約期間に満たない特定受託事業者に対しても、特定業務委託事業者には、育児介護等と業務の両立に関して必要な配慮をする努力義務が課されています(同条2項)。
ハラスメントを防止する
特定業務委託事業者は、業務委託先の特定受託業務従事者(=個人の特定受託事業者または法人の特定受託事業者の代表者)がハラスメント(=セクハラ・マタハラ・パワハラ)の被害に遭わないように、必要な措置を講じなければなりません(法14条1項)。
具体的には、相談窓口の設置やハラスメント発生時の対応体制の整備などが求められます。
また、特定受託業務従事者がハラスメントに関する相談をしたことなどを理由に、業務委託契約を解除するなど不利益な取り扱いをすることは禁止されています(同条2項)。
フリーランス保護新法に違反した事業者が受けるペナルティ
フリーランス保護新法に違反した事業者は、公正取引委員会・中小企業庁長官・厚生労働大臣による指導・助言や(法22条)、公正取引委員会・厚生労働大臣による勧告・措置命令・公表処分の対象となります(法8条、9条、18条、19条)。
特に措置命令に違反した場合や、報告・検査を不当に拒否した場合などには刑事罰の対象にもなり得るので要注意です(法24条以下)。
フリーランスなどと取引のある企業は、フリーランス保護新法が施行されるまでに、その内容を正しく理解して遵守に努めましょう。
ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。
https://abeyura.com/
https://twitter.com/abeyuralaw