「キャリアの曲がり角」 40代の中途採用で注意すべきことは?転職者の本音は?
人手不足解消や専門職確保などのため、中途採用に積極的な企業は多いことでしょう。なかでも、40代は専門知識・マネジメント力の両方が期待される中核人材となり得ます。
一方で40代はビジネスパーソンとして「キャリアの曲がり角」とも言われ、さまざまな葛藤を抱える世代でもあります。
その内情や、採用にあたっての注意点についてみていきましょう。
年代別の転職経験から見えるもの
リクルートの調査によると、40代では6割が転職を経験しており、他の世代より最も多くなっています(図1)。
(出所:「『就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022』第1弾」リクルート)
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20220922_hr_01.pdf p4
そして、転職経験者の転職回数は下のようになっています(図2)。
(出所:「『就業者の転職や価値観等に関する実態調査2022』第1弾」リクルート)
https://www.recruit.co.jp/newsroom/pressrelease/assets/20220922_hr_01.pdf p4
転職経験者の転職回数は40代以降で約3回です。
また、転職経験者の割合と回数は40代と50代でそう大きく変わらないことから、多くの転職者は40代までに転職を終えている、とリクルートは分析しています。
その後フリーランスになっている、という人も少なくないことでしょう。
40代は「キャリアの曲がり角」?
さて、パーソル総合研究所がキャリア観と年代の関係について、興味深い分析をしています。
「キャリアの曲がり角は42.5歳」というものです。
どういうことでしょうか。
これは、「成長志向の変化」についての分析です。
年代別に見ると、働く人の「成長志向」と「成長実感」はこのように変化しています(図3)。
(出所:「働く1万人成長実態調査2017」パーソル総合研究所)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/201712140930.html
青線の「成長志向」とオレンジ線の「成長実感」のギャップが、40代から広がっていることがわかります。
また、40~45歳で、一度「成長志向」が低くなっています。
同時に、出世意欲についてはこのような結果が出ています(図4)。
(出所:「働く1万人成長実態調査2017」パーソル総合研究所)
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/column/201712140930.html
「出世したいと思わない」のほうが「出世したい」よりも割合として多くなるのがおよそ42.5歳です。
パーソル総合研究所はこれらの現象について、「出世コース」と年齢の関係を挙げています。
若いうちにはあまり差はありませんが、年齢を重ねるごとに、いわゆる「出世コース」に自分が入っているかどうかがわかってくるものです。それが「出世したいと思わない」という意識を持つ人が大幅に増え、出世を望む割合と逆転するようになるのです。
出世を考えるか考えないかによって、キャリア観に変化が起きるのは不思議なことではありません。
そして「出世できないなら転職」という選択肢を考える人も出てくることでしょう。40代での転職が多い理由のひとつにもなっていそうです。
「積極的転職」なのか「消極的転職」なのか
すると、40代の転職の動機は、こうした傾向に分けることができると筆者は考えます。
- 現在の会社では自分のスキルが生かせないことが理由での転職
- 出世コースから外れたことが理由での転職
これを前提に、2つのパターンについて注意すべきことを考察していきましょう。
異職種・異業種からの受け入れ
このような調査結果があります。エン・ジャパンによると、退職経験者のうち、会社に退職する「本当の理由」を伝えていない人が一定割合存在しています(図5)。
(出所:「『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)『本当の退職理由』実態調査」エン・ジャパン)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/31043.html
表向きの退職理由はこのようなものです(図6)。
(出所:「『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)『本当の退職理由』実態調査」エン・ジャパン)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/31043.html
「新しい職種にチャレンジしたい」「別の業界にチャレンジしたい」というポジティブな意向が伝えられています。
一方で、「本音」はこちらです(図7)。
(出所:「『エン転職』1万人アンケート(2022年10月)『本当の退職理由』実態調査」エン・ジャパン)
https://corp.en-japan.com/newsrelease/2022/31043.html
全世代にわたって「人間関係が悪い」「給与が低い」が上位にきています。本音で「新しい職種にチャレンジしたい」「別の業界にチャレンジしたい」というのは1割ほどにすぎず、大きな乖離があります。
性悪説というわけではありませんが、まず「新しい職種にチャレンジしたい」「別の業界にチャレンジしたい」という転職動機の人の場合は、この1割に当たる人材かどうか見極める必要があります。
経験者の受け入れ
また、経験者の受け入れについても、やはり転職動機の本音の大半は「人間関係」「給与」であることを忘れてはなりません。
その際に気をつけたいのは、「ダニング=クルーガー効果」に陥っていないかどうか、あるいは実際に自分のことを誇張していないかの見極めです。
特に給与は大きなトピックです。
最初から互いに具体的な目安を提示し、素直な話し合いの場にすることも一つの方法でしょう。「給与」が大きな転職理由である以上、満足がいかなければ優秀な人材であったとしても、すぐにまた転職してしまうからです。
また、本当に実力のある人には「独立」という道もあります。そのあたりにも注意が必要です。
客観的なデータを手に入れられるツールの導入も有効でしょう。
綺麗事だけでは上手くはいかない
いまは転職に関しても「面接対策」のHow to本や情報が多く溢れており、転職者も一定の「方法」は心得ています。社会でいろいろな経験を積んでいる40代となるとなおさらでしょう。基本的に内情や本音は、表面的な面接だけでは見えてこないものです。
もちろん、他社で出世コースから外れたからといって自社にとっても不適格な人材とは限りません。企業と本人の方向性の違いが明確になっただけ、ということもあるでしょう。
しかし「隣の芝生は青く見える」と言われる心理は転職希望者、求人側の企業ともに抱いているものです。
ただ、40代に「伸びしろ」を求めるのは期待のしすぎ、という側面もあります。
だからこそ互いのホンネから逃げず、デリケートと思われる部分にもある程度切り込んでいく必要があるでしょう。
2002年京都大学理学部卒業後、TBSに主に報道記者として勤務。社会部記者として事件・事故、テクノロジー、経済部記者として各種市場・産業など幅広く取材、その後フリー。
取材経験や各種統計の分析を元に多数メディアに寄稿中。