日々の業務から人事考課まで、職場で「フィードバック」を行う機会は多いものです。
しかしながら、トレーニング制度が充実している一部の企業を除けば、
「フィードバックのやり方を、習ったことはない」
「これでいいのか迷いながら、試行錯誤している」
という方が多いのではないでしょうか。
この記事では、多くの方が独学で取り組まざるを得ない「フィードバック」について、具体的な伝え方や注意点をご紹介します。
まず、基本的な事項から確認しておきましょう。
そもそも、フィードバックとは何でしょうか。
「部下に、改善点や修正点を伝えること」のように、“ダメ出し”に近い意味合いで捉えている方もいるかもしれません。
フィードバックはもともと、制御系などで“出力を入力に戻すこと”を表す用語です。日本大百科全書の解説を引用します。
〈フィードバックとは、ある原因から生み出された結果がその原因に反作用をもたらすことによって、原因自体が自動的に調整され、より望ましい結果が導かれる過程をいう〉
*1
現在では多分野で使われる「フィードバック」という言葉ですが、もとの意味のニュアンスをつかんでおくと、何が正解なのかヒントが見えてきます。
では、職場におけるフィードバックとは何かといえば、
〈従業員の行動・スキル・パフォーマンスが、組織に与えた影響に関する情報を、本人に戻すこと〉
と表現できます。
さらに、
〈戻ってきた情報によって、従業員が自発的に調整され、より望ましい結果が導かれる過程〉
がフィードバックである、といえるでしょう。
職場で行われるフィードバックは、さまざまな内容や形式で行われます。以下に一例を挙げましょう。
この中で、意外と軽視されやすいのが、「ポジティブなフィードバック」です。
2022年12月に、こんなニュースが話題となりました。
「ねぎらいの言葉なく、腹が立った」部下の男は長さ74センチの“刀”で社長を襲った 驚きの動機(FNNプライムオンライン)
もちろん、どんな事情があったとしても、暴力は許されるものではありません。
ただ、
「ポジティブなフィードバックが不十分と部下が感じれば、恨みを買うリスクがある」
という戒めとして、心に留めておきたい事件です。
続いて、職場でのフィードバックが不適切だと起きる問題を、もう少し構造的に見てみましょう。
以下3つの視点から、解説します。
まず、部下の視点から見ると、
「フィードバックが、適時に実施されないと、働きにくくなる」
という調査データが出ています。
*2
出所)厚生労働省「令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について-」p.137
https://www.mhlw.go.jp/wp/hakusyo/roudou/19/dl/19-1.pdf#page=143
“働きにくいと感じている人”の割合が最も高いのは、「フィードバックが実施されない職場」となっています。
フィードバックを行うことは、働きやすい職場を作るうえで、重大な意味を持つことがわかります。
一方、組織の視点から見ると、管理職・マネジャー層が適切なフィードバックをできない場合、「組織全体の生産性が低下する」という問題を抱えます。
具体的には、フィードバックの不足は「働きづらさ」を感じる従業員を増やし、不適切なフィードバックは、従業員のモチベーションを奪います。
誤ったフィードバックで従業員を誤った方向へ導けば、ミスの増加やパフォーマンス低下のリスクがあります。
最後に上司の視点から見てみましょう。
組織の問題として挙げた「生産性の低下」に加えて、「上司自身が、部下からの信頼と尊敬を失う」という問題があります。
たとえば、部下の心を傷つける、敬意がない、プロフェッショナルさが感じられない——、といった質の低いフィードバックは、上司の評判を落とします。
結果として、意思の疎通がスムーズにできなくなって業務に支障を来したり、上司または部下が離職する原因となったりと、深刻な悪影響は免れません。
では、適切なフィードバックを行うために、どうすればよいのでしょうか。
ポイントとなる6項目をご紹介します。
それぞれ見ていきましょう。
1つめは「正確である」ことです。
フィードバックをする前に、事実関係を正しく理解して、正確な情報を準備しておきます。
部下のミスやエラーに関するネガティブなフィードバックをするときには、その情報に誤りがないことが重要です。
あるいは、
「部下が正しいのに、自分の不勉強のせいで知識が古く、誤ったフィードバックをする」
ということが、ないようにしましょう。
2つめは「具体的に事例を挙げる」ことです。
あいまいで抽象的なフィードバックは、相手を混乱させてしまいます。
独りよがりではない、“相手に伝わる言葉”を吟味して、選択しなければなりません。
たとえば、
「昨日のプレゼンは、自信がなさそうに見えたから、直したほうがいい」
というのは、あいまいで抽象的なフィードバックです。
「昨日のプレゼンは、下を向いて資料を読んでいる時間が長かった。
次回は、視線を上げて、出席者と目を合わせながら話すようにしよう。
声も、1.5倍くらいに大きくすると、堂々と自信があるように見える」
と、具体的に例を挙げて、伝えるようにします。
ポイントは、
「聞いたら、すぐ“行動”できる、実践的なアドバイス」
を心掛けることです。
3つめは「行動に焦点を当てる」ことです。
これは、上司と部下との間に感情的な対立を作らないために、非常に肝要です。
部下に対する個人攻撃や人格否定にならないよう、細心の注意を払います。性格・気質ではなく、「行動」にフォーカスするようにします。
たとえば、
「あなたは、注意力が足りない」
と、“相手”を主語にするのは、よくないフィードバックです。
「あなたの検品作業は、ミスが多い」
という具合に、“行動”を主語にしましょう。
4つめは「タイミングを見計らう」ことです。
フィードバックは、いつ・どんなタイミングで行うか?によっても、効果が変わってきます。
タイムリー・スピーディーであることが必須のケースもあれば、半年後の人事考課まで待ったほうが適切なケースもあります。
相手のメンタル面も考慮しながら、ベストなタイミングを見計らって、フィードバックを行いましょう。
間違っても、自分の感情にまかせた突発的なフィードバックは、しないことです。
5つめは「オープンマインドである」ことです。
別の表現をすれば、部下の反応や質問、コメントに対して、寛容であることです。
フィードバックの内容によっては、部下は動揺したり、不機嫌になったり、反論したりするかもしれません。
フィードバックをする側は、それらを受け入れるスペース(余裕)を持っておくように努めます。
さまざまな反応に対して、冷静かつ寛容でいましょう。
6つめは「付け足さない」ことです。
基本的には、
「1フィードバック・1メッセージ」
を心掛けます。
まるで不満を一気にぶつけるかのように、一度にたくさんのフィードバックをすると、部下のモチベーションが下がってしまいます。
話しているうちに気分がよくなって冗舌になり、長く話しすぎてしまう方や、感情的になると相手をやり込めて圧倒しようとする癖のある方は、とくに注意が必要です。
フィードバックする側の立場では、
「少し物足りない、言い足りない」
くらいで、スッと引きましょう。
部下が〈自発的に調整され、より望ましい結果が導かれる〉プロセスを、そっと見守ることも大切です。
本記事では「フィードバック」をテーマにお届けしました。
個人的に感じるのは、「ナメられてはいけない」という虚勢ほど、フィードバックを邪魔するものはない、ということです。
「ベクトルが、相手に向いているか?自分に向いているか?」
によって、フィードバックの質が変わるように思います。
質の高いフィードバックは、相手の成長はもちろん、信頼関係やチームワークに至るまで、職場に好循環をもたらしてくれます。
今日これから行うフィードバックより、意識してみていただければと思います。