カルチャーフィットとは?企業文化への適合性を高めるヒントと注意点

    「どうすれば、自社に合う人材を採用できるのだろうか?」
    そんなお悩みの声を聞くことは、少なくありません。

    「たくさんの応募者と面接を重ねても、ピンとくる人に出会えない」
    「せっかく高スキルな人材を採用したのに、すぐ辞めてしまった」
    など、“自社に合う人材” を見つけるのは、難しいものです。

    そこで、具体的なヒントとなる概念が、「カルチャーフィット」です。

    この記事では、カルチャーフィットとは何か、どのように扱っていけばよいのか、考えていきたいと思います。

    カルチャーフィットとは何か?


    最初に「カルチャーフィット」に関する基本的な事項から、確認しておきましょう。

    カルチャーフィットの意味

    カルチャーフィットとは
    カルチャーフィットとは、企業文化(カルチャー)に従業員がどれだけ適合(フィット)しているか?を示す概念です。

    カルチャーに対する適合性の高い従業員ほど、企業の目標やビジョンに共感し、意欲的に行動すると考えて、評価します。

    仮に、スキルセット(能力・資質・経験などの組み合わせ)がピッタリと合う応募者を、採用したとしましょう。

    そのときは「いい人材を獲得できた」と思うかもしれません。しかし、カルチャーフィットの度合いが低ければ、長期的には成功しないリスクが高くなります。

    逆に、カルチャーフィットの度合いが高ければ、スキルセットが不十分だったとしても、長期的には成功する可能性が高くなるのです。

    カルチャーフィットしている人材の特徴

    なぜ、カルチャーフィットが重要なのでしょうか。

    カルチャーフィットしている人材の特徴として、3つのポイントが挙げられます。

    1. 離職率が低い
    2. 円滑に人間関係を築ける
    3. 高成果をあげる確率が高い

    離職率が低い

    1つめとして、カルチャーフィットが高い人材は、早期の離職率が低下します。

    「自分に合う会社に入社できた」という満足感を、得やすいからです。

    会社の考え方や価値観に共感していれば、働きがいを感じることができ、多少のミスマッチを感じたとしても、乗り越える原動力となります。

    円滑に人間関係を築ける

    2つめとして、社内での人間関係に対する影響も、見逃せません。

    既存社員との価値観が近いため、相互理解が深まり、意思疎通がスムーズになる傾向があります。

    たとえば、「オープンで活発なコミュニケーション」を重視する企業では、同じくオープンなコミュニケーションを好む人材が多く集まっています。

    カルチャーフィットの高い人材であれば、スピーディになじみやすいですが、そうでなければ、人間関係を構築する道のりが、つらく感じるかもしれません。

    高成果をあげる確率が高い

    3つめとして、高成果をあげる確率が高いことが挙げられます。

    採用においては「優秀な人材を獲得したい」というフレーズを、よく聞きます。しかしながら、スキルセットの観点で優秀な人材が、かならずしも高成果をあげるとは限りません。

    カルチャーフィットは、業績への貢献にかかわる重要要素です。

    企業のビジョンやミッションに対する理解が深い人材は、業績向上の核心を突くアクションを起こすケースが、珍しくありません。

    もちろん、熱意やモチベーションの面でも、カルチャーフィットの高さが好影響を及ぼします。

    カルチャーフィットの概念を取り入れる具体策


    続いて、カルチャーフィットをどう取り入れればよいのか、具体的な方法をご紹介します。

    採用プロセスにおけるカルチャーフィット評価の組み込み

    カルチャーと合致する人材を採用するためには、選考設計の際に、評価項目にカルチャーフィットを入れておくことが不可欠です。

    具体的にどのように見極めるのかは、各企業のカルチャーに合わせて、柔軟に検討したいところです。

    以下は一例です。

    • コミュニケーション重視:グループディスカッションを導入して、応募者が有意義なコミュニケーションを実現できるか評価する。

    • チャレンジ精神:チャレンジ精神が強いことが具現化された、過去の行動例を聞き出す質問をする。

    • クリエイティブ思考:実務に近いケーススタディを出題し、その対応を観察する。

    ほかには、「適性検査」の導入も有効な手段です。

    適性検査を利用すると、応募者のパーソナリティや価値観、思考スタイルなどを定量的に把握できるため、カルチャーフィットの度合いを可視化するために役立ちます。

    均一性のある評価をできる点では、採用プロセスの公平性・透明性の向上にもつながります。

    カルチャーに焦点を当てたオンボーディングプログラム

    新入社員が、企業文化をより深く理解し、スムーズに組織に適応するためには、採用選考だけでは不十分です。

    「カルチャー」に焦点を当てたオンボーディングプログラム(新入社員向けの取り組み)が、有効に機能します。

    新卒社員だけでなく、中途採用の社員向けにも、ぜひ準備したいところです。

    【オンボーディングプログラムの具体例】
    • 各部署のリーダーとの1on1 ミーティング
    • 他部署業務の1日体験でカルチャーを体感
    • 企業のミッションやビジョンを共有するセッション
    • ロールプレイングやケーススタディを通じた自社らしい判断基準のトレーニング
    • メンター制度によるメンターからのレクチャー

    筆者自身の経験では、中途採用の社員向けのオンボーディングプログラムを準備したところ、
    「こんなふうに、丁寧に歓迎してもらったのは初めて」
    と、感激されたことがありました。

    たしかに、中途採用の場合、必要最低限のレクチャーさえなく、
    「さあ、早く即戦力に」
    というプレッシャーを受けるのは、ままあることです。

    「お手並み拝見」とばかりに、見定めるような冷たい空気が蔓延していることもあります。

    筆者が勤務していた組織では、新卒から役員まで分け隔てなく、プログラムを実行していました。

    なぜなら、どんなプロフェッショナル、エキスパートだとしても、「この会社のカルチャー」については、初心者だからです。知らずに戸惑うことが多くて当然です。

    「この会社ではたらくために必要な情報」を明確に共有することは、カルチャーフィットを高めるカギとなります。

    カルチャーフィットの注意点と解決のヒント


    最後に、カルチャーフィットを扱ううえで注意したいポイントを、お伝えします。

    ダイバーシティとのバランス

    カルチャーフィットは重要な考え方ですが、その一方で、米国では、カルチャーフィットのマイナス面を危惧する論調が目立ち始めています。

    以下は一例です。

    • Hiring For Cultural Fit Can Be Good But Comes With Risks
      訳:カルチャーフィットを重視した採用は、よいことでもあるが、リスクもある
      (2022/12/8、Forbes)
    • Move Beyond Hiring for Culture Fit
      訳:カルチャーフィットのための採用からの卒業
      (2022/10/11、Gallup)

    ※筆者訳

    企業がカルチャーフィットを過度に重視すると、組織内のダイバーシティ(多様性)が失われることが、代表的な懸念要因です。

    日本でも、洗脳まがいの手法で社員を教育する企業や、慣習的なしきたりを強制する企業に対して、危険性を指摘する声があります。

    ダイバーシティが失われることは、企業の倫理観の問題だけでなく、成長にも影響します。

    全員が類似した考え方を持つ組織は安定しますが、イノベーションは生まれにくいためです。

    「カルチャーアド」という考え方

    カルチャーフィットとダイバーシティを両立させるために、近年、注目されているのが「カルチャーアド(Culture Add)」という概念です。

    カルチャーアドでは、「従業員が企業文化にどのような価値を加えるか?」を重視します。

    「従業員自身が企業文化にフィットしていること」を重視するカルチャーフィットとは、以下の点が異なります。

    【カルチャーフィットとカルチャーアドの違い】

      カルチャーフィット カルチャーアド
    定義 従業員が既存の組織文化に適合(フィット)することを重視する考え方 従業員が新たな価値や視点を組織に付加(アド)することを重視する考え方
    効果 組織の統一性や安定性を維持する 組織の多様性や革新性を促進する
    採用基準 既存の組織文化や価値観に合致する応募者を選ぶ 新たな視点やアイデアを持つ、組織に新しい風を吹き込める応募者を選ぶ

    これからのカルチャーフィットを考える際には、念頭に置いていただければと思います。

    さいごに


    本記事では「カルチャーフィット」をテーマにお届けしました。

    筆者自身は、“カルチャー不適合者” 集団 とでも言いたくなるカルチャーの組織で、働いていたことがあります。

    年代や学歴などの属性はもちろん、国籍から性的指向、興味関心・趣味嗜好まで、あえてごちゃ混ぜの採用を行っていました。

    カルチャーフィットの利点とともに、カルチャーフィット“ではない”からこその利点も視野に入れることで、本当に強い組織を作れるのではないでしょうか。

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    著者:三島 つむぎ
    ベンチャー企業でマーケティングや組織づくりに従事。商品開発やブランド立ち上げなどの経験を活かしてライターとしても活動中。