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自社の「コア・コンピタンス」は何? 意味を確認し使い方を再確認しよう

作成者: e-falcon|2023/01/24

近年、企業経営にあたって「コア・コンピタンス」が注目されています。

コア・コンピタンスとは1990年代にゲイリー・ハメル氏とC・K・プラハラード氏によって提唱された概念で、「顧客に対して、他社には真似のできない自社ならではの価値を提供する、企業の中核的な力」のことです。

日本がバブル崩壊後、復活に向けた懸命の努力を始めたさなかの1995年に出版された「コア・コンピタンス経営」はベストセラーになりました。

企業が未来を展望し、未来で勝つために欠かせない「コア・コンピタンス」とはどのような考え方なのでしょうか。
事例をまじえてご紹介します。

コア・コンピタンスの「3つの条件」

「コア・コンピタンス」という言葉は、1990年にゲイリー・ハメル氏とC・K・プラハード氏が「ハーバード・ビジネス・レビュー」に寄稿した記事の中に出現した言葉です。

両氏は、企業のコア・コンピタンスには3つの条件があるとしています*1。

1)複数の商品・市場で通用する自社能力
2)顧客にメリットをもたらす自社能力
3)競合他社が真似しにくい自社能力

なお、似たようなものをさす言葉に「ケイパビリティ」があります。
ケイパビリティがバリューチェーン「全体の」強みを指すのに対し、コア・コンピタンスはバリューチェーンの「特定の」技術力や製造能力といった強みを指す傾向があると言ってよいでしょう。

提唱者が日本企業に見いだしたコア・コンピタンス

さて、ゲイリー氏は記事の中で、1980年代の米GTE(ゼネラル・テレフォン・アンド・エレクトロニクス)と日本のNECの立ち位置の変化について言及しています*2。

1980年初頭、GTEは情報技術の中で世界の主要プレーヤーになる好位置につけていました。電話だけでなく伝送システム、半導体、衛星、照明製品などじつに広いジャンルに事業を展開し、1980年の売上高は99億8000万ドルをあげています。
一方のNECは当時、売上高38億ドルの「はるかに小さな会社」でした。

しかし、1988年にはGTEとNECの立ち位置は大きく変化します。この年のGTEの売上は164億6000万ドルであったのに対し、NECの売上は218億9000万ドルにのぼっていたのです。

この圧倒的な逆転の理由が、NECが当初から半導体を「コア製品」と位置付けた上で多くの戦略的提携を結び続けたのに対し、GTEの関連企業吸収による多角化にはそのような意図は存在しないように見えたことであるというのです。

NECには「コア・コンピタンス」があり、それを軸に企業が成長していった一方で、GTEにはそのような戦略性がなかった、その結果として両者の立ち位置は大逆転したという指摘です。

身近な場所にみられるコア・コンピタンス

また、コア・コンピタンスは、現代では身近なところにも見られます。

Appleが訴訟を退けられたユニークな理由

2011年に、このような裁判がありました*3。

Appleが韓国のサムスン電子を相手取り、サムスン社の「GALAXY」が「iPhoneのデザインに酷似している」として、世界中で訴訟を起こしていた最中のことです。

その中で、イギリスの高等法院の判断が世界中で話題になりました。
ここでは、結果としてAppleの提訴は退けられました。しかし、その理由がじつにユニークなのです。

「GALAXYは(表面上似せようとしていても)、アップル製品のデザインが持つ控えめで究極のシンプルさはない。アップル製品ほどクールでない」というのがその理由だったのです*2。

この判決によって、逆にiPhoneの「競合相手に真似されにくい」面が強調され、Appleが持つデザインという技術力の高さをAppleの強みとして世界に知らしめる結果になったといえます。

バリューチェーンの広さを商機に

「ちょっと、コンビニでお金おろしてくる」。
そんなシチュエーションは、大多数の人が経験していることでしょう。

日本国内でコア・コンピタンスを明確にしている企業の一例として、セブン銀行があります(図1)。
(出所:「セブン銀行統合報告書ディスクロージャー誌2019」)
https://www.sevenbank.co.jp/ir/library/disclosure/pdf/2019073103.pdf p17


セブン銀行の2019年の統合報告書によると、セブン銀行のATM利用者は年間8億2900万件にのぼっています。ATM1台あたりの利用件数は1日92.3件、これはひとえにコンビニチェーンを基軸にした巨大ネットワークがもたらすものであり、他社には簡単に真似できるものではありません。

さらにセブン銀行は、金融機関等との提携により、決済インフラやカードローンといった別の市場にも事業を拡大しています。

その結果、

・経常収益:998億円(2013年度) → 1195億円(2018年度)
・経常利益:371億円(2013年度) → 430億円(2018年度)

と成長を見せています。

未来を展望する方法とは

ゲイリー氏らは、コア・コンピタンスは未来の市場で勝つためのものだと位置付けています。そして、未来に向けて企業は、下のような質問について考える必要があるとしています*4。

現在 5年~10年後
現在、あなたの会社が対象としている顧客は誰だろうか。 将来、あなたの会社が対象とする顧客は誰だろうか。
現在、あなたの会社はどのような販売経路を使っているだろうか。 将来、あなたの会社はどのような販売経路を使うだろうか。
現在、あなたの会社の競争相手は誰だろうか。 将来、あなたの会社の競争相手は誰だろうか。
現在、あなたの会社の競争優位の源は何だろうか。 将来、あなたの会社の競争優位の源は何だろうか。
現在、あなたの会社の利益はどこからきているだろうか。 将来、あなたの会社の利益はどこからくるだろうか。
現在、あなたの会社の独自性はどのような能力からきているだろうか。 将来、あなたの会社の独自性はどのような能力からくるだろうか。
現在、あなたの会社はどのような商品ジャンルに参入しているだろうか。 将来、あなたの会社はどのような商品ジャンルに参入するだろうか。

また、産業の未来を展望するためには、ライフスタイルや人口構成、地政学の動きを洞察するだけでなく、どんな未来をつくることができるのか、言葉と絵で力強く表現してみる想像力が重要だと説いています。
その上で、以下のような条件が必要だとしています。

何が可能だとか、どうあるべきかだとかいうような先入観を捨てて、子供のように純真になること。現時点では自分が専門外のことでも、いろいろ考えてみる意欲を持っていること。我々の経験では、こうすると産業の未来が展望できてくる。未来を展望するための条件は、いろいろなものをとり合わせる力、類比と比喩を活用する力、何にでも興味をもつこと、顧客主導以上になること、そして人間のニーズに敏感であることなどである。

<引用:ゲイリー・ハメル/C・K・プラハラード「コア・コンピタンス経営」文庫版p132>

また、興味深いのはこの言葉です。

顧客に先を見通すことはできない。これは自明である。

<引用:ゲイリー・ハメル/C・K・プラハラード「コア・コンピタンス経営」文庫版p160>

これは、どんな時代にも通じる真理といえるでしょう。

自社のコア・コンピタンス、つまり「顧客にメリットをもたらし、複数の市場や商品に通じ、真似されにくい能力」で自ら市場を創り、顧客をリードしていく姿勢は、どの時代にあっても失ってはならないのです。