契約社員に適用される法律|企業が契約社員を採用する際の注意点を弁護士が解説

    人材の流動性の観点から、正社員ではなく契約社員を中心に人材採用を行う企業もあるかと思います。

    たしかに、契約社員は正社員に比べて、企業側の都合で労働契約を打ち切りやすい側面があります。ただし、契約社員にも労働法のルールが適用され、安易な雇い止めなどは違法となる可能性があるので注意が必要です。

    今回は、契約社員に適用される法律の観点から、企業が契約社員を採用する際の注意点をまとめました。

    契約社員にも適用される労働法|主な法律を紹介


    会社に対して弱い立場に立たされがちな労働者(従業員)を保護することを目的とした法律は、総じて「労働法」と呼ばれています。正社員のみならず、期間限定で雇用される契約社員も労働法の適用対象です。

    特に以下の法律については、契約社員の労働条件を決めるに当たり、企業側は十分注意しなければなりません。

    労働基準法|労働条件の最低ラインを規定

    労働基準法は、労働者に適用される労働条件の最低ラインを定める法律です。労働基準法の水準を下回る労働条件の定めは無効となり、自動的に労働基準法上の労働条件が適用されます(同法13条)。

    労働基準法では、一例として以下のルールが定められており、いずれも契約社員にも適用されます。

    • 労働条件の明示義務(同法15条)
    • 賃金の支払方法(同法24条)
    • 休業手当(同法26条)
    • 最低賃金(同法28条、最低賃金法)
    • 法定労働時間(労働基準法32条)
    • 休憩(同法34条)
    • 休日(同法35条)
    • 時間外労働、休日労働のルール(同法36条)
    • 割増賃金(同法37条)
    • 年次有給休暇(同法39条)

     

    など

    労働契約法|無期転換ルールや雇い止め法理を規定

    労働契約法は、労働契約に関する基本的なルールを定めて、労働条件の決定・変更が合理的・円滑に行われるようにし、労働者を保護することを目的とした法律です。

    労働契約法では、一例として以下のルールが定められており、契約社員にも適用されます。

    • 労働契約と就業規則の関係性(同法7条、9条、10条、12条。特に、就業規則による労働契約の不利益変更につき10条)
    • 出向命令の有効性(同法14条)
    • 懲戒処分の有効性(同法15条)
    • 解雇の有効性(同法16条)

     

    さらに、期間の定めのある労働契約(有期労働契約)を締結する契約社員には、以下のルールも適用されます(後述)。

    • 契約期間中の解雇制限(同法17条)
    • 無期転換ルール(同法18条)
    • 雇い止め法理(同法19条)

     

    パートタイム・有期雇用労働法|同一労働同一賃金を規定

    パートタイム・有期雇用労働法*1は、短時間労働者および有期雇用労働者につき、通常の労働者(正社員)と均衡のとれた待遇を確保することを目的とした法律です。

    パートタイム・有期雇用労働法では、「同一労働同一賃金」のルールなどが定められています(同法8条、9条。後述)。

    契約社員を雇用する企業が注意すべき法律上のルール


    契約社員を雇用する企業が特に注意すべきルールとして、以下の4つを紹介します。

    • 契約期間中の解雇制限(労働契約法17条)
    • 無期転換ルール(同法18条)
    • 雇い止め法理(同法19条)
    • 同一労働同一賃金(パートタイム・有期雇用労働法8条、9条)

     

    契約期間中の解雇制限

    有期労働契約を締結する契約社員について、使用者はやむを得ない事由がある場合でなければ、契約期間の途中で解雇することはできません(労働契約法17条)。

    正社員についても「解雇権濫用の法理*2」が適用されますが、契約社員に対する解雇の有効性は、正社員よりも厳しく判定されます。
    よほど悪質な非違行為がある場合や、契約締結の段階で重大な経歴詐称があった場合などを除き、契約社員の解雇は認められないと考えるべきです。

    無期転換ルール

    有期労働契約が1回以上更新され、かつ通算契約期間が5年を超えた場合、契約社員は使用者に対して申し込めば、労働契約を期間の定めのないもの(無期労働契約)へと転換できるようになります(無期転換ルール、労働契約法18条)。

    労働契約の無期転換が行われると、使用者は期間満了によって労働契約を終了させることができなくなります。
    この場合、使用者が一方的に労働契約を打ち切るには解雇による必要がありますが、解雇できる場合は厳しく制限される点に注意が必要です(解雇権濫用の法理、同法16条)。

    雇い止め法理

    使用者が有期労働契約を更新せず、期間満了をもって終了させることを「雇い止め」といいます。

    雇い止めは契約内容に沿った契約終了であるため、使用者の判断によって行うことができるのが原則です。ただし、契約社員の雇用を安定させる観点から、労働契約法では雇い止めに一定の制限が課されています。

    具体的には、以下のいずれかに該当する場合には雇い止めが認められず、契約社員の申込みにより、自動的に従前と同一の条件で労働契約が更新されます(雇い止め法理、労働契約法19条)。

    (1)有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあり、かつ雇い止めが正社員の解雇と社会通念上同視できること

    (2)契約社員の側において、期間満了時に有期労働契約が更新されることに関して、合理的な期待が認められること

     

    特に、過去に複数回契約を更新している契約社員を雇い止めする場合、雇い止めの有効性が厳しく判定される点にご注意ください。

    同一労働同一賃金

    パートタイム・有期雇用労働法8条・9条では、「同一労働同一賃金」のルールが定められています。

    同一労働同一賃金とは、正社員とそれ以外の労働者(短時間労働者・有期雇用労働者)の間で、不合理な待遇差を設けることを禁止するルールです。
    基本給のみならず、賞与・退職金・福利厚生など、あらゆる待遇が同一労働同一賃金の対象とされています。待遇差が不合理と認められた場合、差額の支払いを義務付けられる可能性があるので要注意です。

    なお、不合理な待遇差は認められないものの、業務の内容や責任の程度、配置転換の有無や範囲などに応じて、相当な待遇差を設けることは認められます。
    正社員と契約社員の間で待遇差を設ける場合は、その理由を合理的に説明できるようにしておくことが重要です。

    まとめ


    企業が契約社員を中心的に雇用する背景には、正社員よりも待遇を低く抑えられる、雇い止めによって人件費を調整できるといった思惑があるのかもしれません。

    たしかにそうした側面はあるものの、各種労働法のルールによって、契約社員の雇用や待遇は相当程度保護されています。契約社員に対して安易に軽んじた取り扱いをしてしまうと、労働法違反の責任を問われてトラブルになる可能性があるので要注意です。

    契約社員を雇用する企業は、労働法のルールを織り込んだ上で、適切な計画に基づいて労働者の雇用を進めることをお勧めいたします。

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    著者:阿部 由羅(あべ ゆら)
    ゆら総合法律事務所代表弁護士。西村あさひ法律事務所・外資系金融機関法務部を経て現職。企業法務・ベンチャー支援・不動産・金融法務・相続などを得意とする。その他、一般民事から企業法務まで幅広く取り扱う。各種webメディアにおける法律関連記事の執筆にも注力している。 
    https://abeyura.com/
    https://twitter.com/abeyuralaw

    *1正式名称:短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律
    https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000076_20200601_501AC0000000024

    *2解雇権濫用法理:客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は、権利濫用として無効となるルール(労働契約法16条)