人材の「評価」は非常に重要で、組織の成功に直結するものです。
従業員の人事評価から採用選考まで、適切な評価がなければ、企業の成長は見込めません。
しかしながら、それを阻むさまざまな評価エラーが存在します。そのひとつが「中央化傾向」です。
この記事では、誰もが陥る可能性のある中央化傾向について、その概要や問題点、原因について解説します。
そのうえで、どうすれば中央化傾向の評価エラーを回避できるのか、考えていきましょう。
まずは中央化傾向とは何か、基本の知識からご紹介します。
中央化傾向とは、何かを評価する際に、評価尺度(スケール)の真ん中寄りに評価をしがちな傾向のことです。
たとえば、5段階のスケールで評価するとき、中央の[3]を選びがちである、ということです。
この傾向は、人事評価のみならず、消費者向けアンケートなどでも見られる傾向です。
ご自身がアンケートに回答するときを思い出してみると、イメージしやすいのではないでしょうか。
「よくわからないから、全部『どちらともいえない』にしておこう」
「本当は不満だけれど、逆恨みされたらイヤだから無難に『普通』にしておこう」
つい、真実とは異なる中央値(または中央に近い値)を選んでしまった経験が、あるかもしれません。
組織における中央化傾向の具体例を挙げてみましょう。
たとえば、あるチームのメンバーで、Aさんは高い成果を挙げており、Bさんは改善が必要な状況にあるとします。
評価者であるチームのマネジャーが、中央化傾向に陥っていた場合、AさんとBさんは、同程度の中間的な評価になります。
本来なら、昇給や昇格の要件を満たしていたAさんが報われず、問題を抱えたBさんは改善されない、ということです。
Aさんのモチベーションは下がって、転職するかもしれません。一方のBさんは、さらに助長してしまい、組織にとって深刻な問題を引き起こすかもしれません。
どちらにしても、組織にとってリスクとなります。
採用選考でも、中央化傾向が発生するシーンは、多く見られます。
たとえば、1次面接→2次面接→3次面接……と進むプロセスで、面接官の行う評価が以下の設定だったとします。
中央化傾向に陥っていると、[C]を選びがちです。
採用選考のプロセスに時間がかかりすぎている企業の多くが、中央化傾向に陥っています。
必要以上に面接の回数が増えることは、応募者・企業の双方にとって、大きな負担です。
企業としては、人材採用が全体的に後れを取るので、その分、組織の成長スピードも遅くなってしまいます。
なぜ、中央化傾向の評価エラーが起こるのでしょうか。
本質的な原因は、以下3つに集約されます。
1. 怖い
2. わからない
3. 知らない
1つめの原因は「怖いから」です。
恐れや不安の心理が、中央化傾向を引き起こします。具体的に見てみましょう。
このような感情は多くの人が抱えるものですが、本来は、乗り越えて、評価業務を完遂しなければなりません。
乗り越えるのが難しく、逃げの姿勢を取りたくなったとき、“無難な評価”として中央値を選択します。
中央化傾向とは「自己防衛の意識」の表れなのです。
2つめの原因は「わからないから」です。
どう評価すべきかわからない原因は、大きく2つに分けられます。
1. 評価に必要な情報やデータが不足しており、評価対象者の状態がわからない
2. 評価基準が不明瞭なため、評価のやり方がわからない
ところで、消費者向けアンケートでは[わからない]という回答選択肢を作ることがあります。
消費者が“わからない”と思っているのに、無理やり回答を求めることは、アンケート結果を真実から乖離させてしまうからです。
しかしながら、人事評価や採用選考では[わからない]の選択肢はありません。“わからない”を表す回答が、中央値に集まることになります。
3つめの原因は「知らないから」です。
別の表現をすれば、評価者として必要な評価スキルを習得していないマネジャーは、自覚なく中央化傾向の評価エラーに陥ります。
一例ですが、以下のような心理が挙げられます。
マネジャー業務として評価を行ううえで、上記は不適切です。
しかし、必要なスキルを身につける機会がないままに評価者になった場合、悪気なく無意識のうちに、不適切な評価を行ってしまいます。
不適切であることに気づける機会も持てず、何年・何十年と評価エラーを起こしている方も、珍しくないのです。
では、中央化傾向を回避するために、何ができるでしょうか。3つのポイントを見ていきましょう。
1. 評価者個人の責任をシステム的に分散する
2. 評価シートを実用的に改良する
3. 評価スキルを習得する
1つめのポイントは「評価者個人の責任をシステム的に分散する」です。
重要な視点として、評価者の恐れや不安からくる、自己防衛的な評価エラーは、
「仕組みで解決できないか?」
と検討してみます。
評価者個人の努力に依存するアプローチには、限界があるためです。
具体的には、1人の評価者が担当する定性評価の割合を、相対的に減らす方法を考えます。具体的なアイデアを挙げてみましょう。
これらの手法は、評価の精度を向上させるために有益ですが、本記事の主題である「中央化傾向」の回避にも、好影響があります。
評価者の立場から見れば、自分が全責任を負うようなプレッシャーが軽減し、自己防衛の意識にとらわれずに、評価に集中できるからです。
2つめのポイントは「評価シートを実用的に改良する」です。
評価エラーを回避するために、“評価項目や評価基準の定義”が重要であることは、よく指摘されるとおりです。
一方、「現実的に運用できるか否か」という点でも、精査が必要です。
すばらしく緻密な評価項目・評価基準でも、設計時の想定どおりに運用できなければ、意味がありません。
ひとつの方法としては、評価の選択肢に[わからない]を追加して、テスト運用をしてみると、実務上の問題点を発見しやすくなります。
テスト運用で[わからない]の評価が多かった評価項目は、そのまま運用すると、中央化傾向が強く出るリスクの高い項目です。
わからない理由を評価者にヒアリングしながら、改良していきましょう。
最後に、3つめのポイントは「評価スキルを習得する」です。
適切な評価を実行するために必要なスキルは、具体的に以下があります。
どのように身につけていけばよいか、まず、評価者自身が自分で習得するための方法を挙げてみましょう。
▼ 評価者自身が学ぶ方法一方、組織として、評価者間のスキルの差を縮め、均一的な底上げを図るためには、以下の実行が有効です。
これらの方法を組み合わせて、中央化傾向をはじめとする評価エラーを、回避していきましょう。
本記事では、評価者が中間的な評価を選んでしまう「中央化傾向」について、解説しました。
中央化傾向というと、「無難に済ませたがる、事なかれ主義」といった文脈で語られることも多いのですが、事なかれ主義でなくても陥るリスクがあることは、認識しておきたいポイントです。
中央化傾向は、認知バイアス(無意識の思考パターン)の一種だからです。
「どんな人でも、無意識のうちに陥る可能性がある」
と意識することが、評価エラーを防ぐ第一歩です。
よろしければ、続けて「ポジティブハロー効果とネガティブハロー効果とは?最小限に抑える方法」をご覧ください。
中央化傾向と並んで有名な認知バイアスであるハロー効果について、解説しています。