「ChatGPT」が巷で大きな話題になっています。
最大の特徴は、人間が書いた文章のようにすらすらとした言葉で質問への返事を、それも秒速で出してくれるという点で、国内では省庁や自治体でも導入やその検討が続いています。
非常に便利なツールですが、人事採用側からすれば、例えば志望動機についての作文にも利用されることは考えなければなりません。
志望動機や自己PRは相手を採用するかしないかの大きな要素となることでしょう。しかしこれがAIで生成された文章である可能性を念頭におかなければならない時代にきているのです。
まず、「ChatGPT」がどのようなものであるかを知るために、筆者は身近な質問をいくつかしてみました。
冷蔵庫に、例えば下のような残り物があったとします。どうしようか尋ねてみるとこのようなレシピが返ってきました。
なるほど、試してみる価値のありそうなレシピです。
では、筆者が応援している球団について尋ねてみました。
なるほど、不確かなことは断言しない、という具合です。それにしても上手な言い回しです。
ただ、ベイスターズが過去にリーグ優勝し日本一になったのは1998年のことですから、少し話が古いような気もします。
いずれにせよ、ChatGPTは人間が書いた文章のように自然な言葉で返事をしてくれるというのは噂通りです。また、処理のスピードも高く、企業や自治体の間でChatGPTを利用する動きも広がっています。
例えばシステム開発のパナソニックコネクトでは、日本マイクロソフトと組んでChatGPTの技術を活用した独自の生成系AIを開発し、すでに2月からおよそ1万2000人の全社員に導入しています*1。
用途としては、業務の資料のひな型の作成、社内会議の式次第の作成やプログラミングのコードを作成する支援、統計データ分析の支援です。
また、自治体としては、神奈川県横須賀市役所が4月20日から全国で初めて業務への活用に乗り出しています*2。
まだ実験段階ですが、文章の作成や議事録の要約、政策立案などに利用し、使い勝手やコストを検証するといいます。また、農林水産省もChatGPTを一部業務で利用する方針を固めたことが日経クロステックの取材でわかっています*3。
煩雑な情報処理も即座にこなし、長い文章を扱うスピードにも長けているChatGPTの利点を活かそうというわけです。人手不足の解消につなげることができれば有効なツールとなり得るでしょう。
しかし、筆者はChatGPTの利用について懸念することもあります。
ある小学校で、5年生がChatGPTを使って読書感想文を書いて提出したという出来事がありました*4。
提出を受けた担任の教師は、大人が使うような表現が見られたことから本人が書いたものではないと感じていたということですが、これは「書く力」の習得に影響しかねません。
大学生ともなればそれなりの表現を使ってもおかしくはありませんから、エントリーシートをChatGPTに任せるということも出てくるでしょう。
実際、商社を対象にした志望動機をChatGPTに作成してもらったところ、下のような文章が返ってきました。
いかがでしょうか。それも「300字」という字数まで指定すれば、その範囲で文章を生成してくれるのです。
上記のような志望動機ではやや抽象的すぎる印象を受けますが、実在する個別の企業を指定して志望動機を書いてもらったところ、その企業についてそれなりに知っている雰囲気のある文章が生成されました。
また、こうした機能を使えば、面接での想定問答集も作成できることでしょう。
極端に言えば、さして頭を使わずともそれなりの受け答えができてしまうのです。そこに本人の熱意や本音がどれだけ含まれているのか、読み取ることは難しくなっていくでしょう。
また、エントリーシートは添削してもらうのが当たり前という現代の風潮の中では、本人が実はしっかりとした動機を持っているにもかかわらず「こちらの方が正しいのかな」と考えてしまう可能性もあります。
もちろん、自己PRも簡単に生成できます。
しかし筆者個人としては、「文章を書く力」は物事を考える力を試す非常に重要なことだと思っています。ビジネスの基本中の基本となる、あらゆるコミュニケーションは言葉で交わされます。メールにせよチャットにせよ、文章は専門スキル以前の問題です。
どのような立派なスキルを持っていようと、それを伝える力がなければ、そのスキルは無いに等しいのです。
さて、エントリーシートについては、添削が当たり前ということ自体に筆者は違和感を感じてきました。もちろん、添削しないままでいると本人の言いたいことがうまく表せていない可能性があるため、添削そのものを全否定するわけではありません。
ただ、本人が言いたいことを自分の言葉で引き出すのならば、例えば人事の側で「起承転結」を促す質問形式を取っても良いのではないかと考えます。
今は「志望動機を◯◯文字以内で」「自己PRを◯◯文字以内で」というざっくりした指定が多く見られますが、これを細切れにして話の動線を引く形です。
例えば志望動機であれば、
といった具合です。
数百字といったストーリー構成をしなければならないために文章力に自信のない学生がエントリーシートの添削を求めるのであれば、最初から質問をシンプルにしてしまうという方法です。ある意味では平等な方法でもあります。
あるいは逆に「考えをまとめる力」を求めて、受験などでよくある「小論文」をその場で書かせるという形式も、今となっては逆に良いのではないかと筆者は考えます。
もしくは、AIの存在を逆手にとって「あなたならChatGPTをどのように使いますか」という質問も、DX人材を求めるにあたっては必要かもしれません。
いずれにせよ、面接が「あらかじめ準備してきたことの発表会」に終始するのはもったいないことです。スマートフォンやAIを使うことが当たり前になった現代では、「多少下手でも発言してみる」勇気があるかどうかや、理路整然と物事を語れるかという側面を見るのも大切なことではないでしょうか。
もちろん、企業側が「あれもこれも持っている人材」と欲張ってしまうことも良くないことです。
便利なツールが溢れる時代だからこそ、AIの存在を前提にした人事戦略を練り上げていきたいものです。