人事部の資料室

中途採用のトラブル事例|よくある問題と予防策・解決と対処法を弁護士が解説

作成者: e-falcon|2023/07/16

中途採用は即戦力人材や、自社に不足するスキルを持つ人材を発掘できる貴重な場です。企業には、自社のニーズに合った人材を採用することに加えて、中途採用に関するトラブルを予防するための取り組みも求められます。

今回は、中途採用に関連するトラブル事例を挙げながら、よくあるトラブルとその予防策・対処法をまとめました。

中途採用に関するトラブル(1)|採用面接における不適切な質問

<事例1>
A社の人事担当者Xは、最近何かと宗教絡みの事件が報道されているので、特定の宗教を信仰していない人を採用したいと考え、候補者Yに対して「信仰している宗教はありますか?」と質問した。

YはXの質問に不快感を覚え、A社とXを相手に損害賠償請求訴訟を提起した。

中途採用の面接では、どのような質問でも許容されるわけではありません。
このように、内容によっては不適切な質問に当たり、候補者とのトラブルの原因になりかねないので注意が必要です。
以下、詳しくみていきましょう。

採用面接における不適切な質問の例

中途採用の面接においては、適性・能力以外の観点から、候補者を差別的に取り扱うことに繋がりかねない質問をすべきではありません(職業安定法3条、男女雇用機会均等法5条)。

たとえば、以下のような質問をすることは不適切と考えられます。
(1)本籍・居住地・住環境などに関する質問
・本籍地はどこですか?
・ご両親はどちらのご出身ですか?
・自宅付近の地図を書いてください。

(2)家族に関する質問
・ご両親の職業は何ですか?
・ご両親の収入はどのくらいですか?
・どのような雰囲気のご家庭で育ちましたか?

(3)資産に関する質問
・持ち家に住んでいますか?それとも賃貸住宅ですか?
・ご両親は土地を持っていますか?

(4)思想・信条・宗教・支持政党などに関する質問
・信仰している宗教は何ですか?
・尊敬する人物は誰ですか?
・○○政権の政策をどのようにお考えですか?
・購読している新聞はありますか?

(5)交際・結婚・出産などに関する質問
・現在誰かと交際中ですか?
・結婚のご予定はありますか?
・出産しても働き続けることは可能ですか?

採用面接における不適切な質問の予防策

中途採用の面接において、候補者に対して不適切な質問が行われることを防ぐには、面接担当者に対して十分な教育訓練を行うことが大切です。

不適切とされる質問内容について、面接担当者を対象とするコンプライアンス研修などを実施するのがよいでしょう。

採用面接で不適切な質問をしてしまった場合の対処法

もし実際に中途採用の面接で不適切な質問をしてしまった場合、速やかに候補者へ謝罪をすることが事態収拾への第一歩です。

候補者の怒りが収まらない場合には、解決金などを支払うことも検討すべきでしょう。もし解決金などを支払う際には、候補者と締結する示談書面の中で、会社の評判を害するような言動を行わない旨を明記することが重要になります。

中途採用に関するトラブル(2)|採用後における経歴詐称の判明

<事例2>
B社は中途採用面接において、類似業種で豊富な経験を持つという候補者Xに魅力を感じ、採用を決めた。しかし、入社後のXのパフォーマンスは素人レベルであり、類似業種で豊富な経験を持っていたとは思えない。

X本人を問い詰めたところ、経歴詐称をしており、実は完全に未経験であることが判明した。

中途採用面接の段階では見抜けなかった経歴詐称が、実際に雇用した後の段階で判明するトラブルはよく見られます。
経歴詐称が発覚した場合、会社としては雇い入れにかかった時間・労力・コストが無駄になってしまいますので、雇入れ前の段階で見抜くように努めなければなりません。

経歴詐称の候補者を採用しないための予防策

中途採用の選考は短期間で行うケースが多いと思われますが、採用決定を急げば急ぐほど、経歴詐称を見落とすリスクが高まります。

経歴詐称の見落としを防ぐには、入社前の段階で短期インターンを課すなどの対策が考えられます。
特に類似業種での経験などをアピールする候補者については、実際に関連業務を担当させてみる(あるいは意見を求める)ことによって、その経験が真実かどうかを推し量ることができるでしょう。

履歴書のチェックや数回程度の面接で済まさず、よりよく候補者の人物像を知ろうとすることが、経歴詐称の見落としの予防に繋がります。

短期インターンを実施することが難しければ、入社面接等の段階で経歴が正しいことを候補者に再三確認し、後日発覚すれば内定取り消しや懲戒処分の対象となる旨を警告することが考えられます。 

経歴詐称の候補者を採用してしまった場合の対処法

もし経歴詐称の候補者を採用してしまったら、その従業員に対する懲戒処分を検討しましょう。重大な経歴詐称は懲戒解雇相当となる可能性が高いですが、従業員とのトラブルが生じた場合に備えて、弁護士のアドバイスを求めることをお勧めいたします。

また、なぜ経歴詐称を見落としてしまったのかを検証した上で、中途採用フローを見直して再発防止を図ることも大切です。

中途採用に関するトラブル(3)|候補者の個人情報の流出

<事例3>
C社の人事担当者Xは、中途採用候補者の履歴書データをUSBメモリに入れて管理していた。USBメモリにはパスワードを設定していなかった。

XはUSBメモリをポケットに入れて持ち運んでいたところ、何かの拍子に落としてしまったらしい。後日、インターネット上の匿名掲示板に「C社に応募した人の個人情報を暴露!」などと称して、USBメモリに入っていた履歴書データが何者かにより公開されてしまった。

C社による個人情報の流出事件は大々的に報道され、ブランドイメージが大きく傷ついた。

中途採用の候補者から受領した履歴書などの個人情報は、個人情報保護法の規定に従って管理しなければなりません。
しかし、メールの誤送信や記録媒体(USBメモリなど)の紛失などにより、候補者の個人情報が流出してしまう可能性は常にあります。会社としては、人為的ミスによる個人情報の流出には特に注意を払い、適切な予防策を講じなければなりません。

個人情報の流出を防ぐための予防策

中途採用の候補者に関する個人情報の流出リスクを抑えるためには、個人情報にアクセスできる役員・従業員を必要最小限の範囲に限定すべきです。具体的には、配属予定の部署の責任者(部長など)と所管役員、候補者と直接接触する従業員などに限定するのがよいでしょう。

さらに、保存先フォルダにはアクセス権を設定し、候補者情報を管理する採用管理ツールのログイン情報(ID・パスワードなど)を厳重に管理した上で、ファイル自体にもパスワードを設定し、携帯できる記録媒体への保存を禁止するなどの対策を講じれば、流出リスクを効果的に予防できます。

また、個人情報の厳重管理を強く意識づけるため、定期的に従業員研修を行うべきです。特に中途採用に関して、候補者の履歴書などを閲覧する従業員に対しては、改めて個人情報に関する研修を行うことをお勧めいたします。

個人情報が流出してしまった場合の対処法

万が一個人情報が流出してしまった場合には、速やかに個人情報保護委員会に対する報告を行いましょう。また、いち早く流出の事実と対応状況を公表し、ミスと誠実に向き合う姿勢を示すことが、ステークホルダーからの信頼回復に繋がります。

さらに、個人情報流出の再発防止策を適切に講じることも大切です。流出の原因を突き止めた上で、その再発リスクを最小限に抑えられる個人情報管理の在り方を再検討しましょう。