「最近、全然いい人が採れない」
いつの時代も、こんな嘆きの声が聞かれます。
とくに、ベースを中途採用に置いている中小企業では、せっかく採用してもすぐに辞めてしまう、想定したパフォーマンスを発揮してもらえない、といった悩みが多いのではないでしょうか。
本記事では、繰り返されるミスマッチに隠された問題について、取り上げたいと思います。
中途採用の社員が会社になじめず離職率が高い、あるいは期待した成果をあげられない場合、その理由は2つあります。
1つめは採用プロセスの不十分さ、2つめはそもそも自社が中途採用者にやさしくない会社であることです。
採用プロセスの改善に関しては、多くの企業にとって既知の問題であり、すでに対策に取り組んでいるケースが多いかもしれません。
ですが、「学ぶ」「意識を変える」「トレーニングをする」といった具合に、担当者の努力に依存する側面が大きいと、成果が出るまでに時間がかかります。
スピーディな改善のカギを握るのは、採用担当者や面接官の力量にかかわらず、安定的な成果が担保される仕組みを、組織としてつくることです。
中途採用者のオンボーディングは巧い会社とそうでない会社があります。メンター制度、研修プログラム、交流イベントの導入などが、成功事例としてよく話題となるところです。
筆者の経験では、そういったテクニカルな施策の「手前」に、根本的な問題が隠れているケースが少なくないと感じます。
前述の採用プロセスとは逆に、オンボーディングの仕組みだけ整えても、中途採用者にやさしい会社とはなりません。
なぜなら、一緒に働くメンバーが中途採用者にやさしくなければ、中途採用者は成果をあげられませんし、会社に居続けようとは思わないからです。
それぞれの問題を、どう解決していくべきか。次の章で考えていきましょう。
まず1つめの採用プロセスの強化について、「3Kの排除」と「ビッグデータの活用」の2つの視点をご提案したいと思います。
近年、マーケティングや営業においてよくいわれるのが、3Kに頼らない活動です。
▼ 3Kとは?
勘、経験、記憶(または根性)
中途採用の選考プロセスでは、勘や経験に頼っているシーンが多く見られます。
3Kが見事な判断をもたらすこともありますが、3Kだけに依存するのはリスクとなります。
「0%か100%」という具合に、成功率が大振れするためです。
「3Kに依存しない仕組みで土台の成功率70%を確保し、残りを3Kで積み上げる」
といった発想が推奨されます。
*1
「勘や経験に頼らない仕組み」の具体策としては、適性検査や能力試験の導入が挙げられます。
次に「ビッグデータの活用」です。
ビッグデータとは、総務省「平成29年版 情報通信白書」では、「暗黙知(ノウハウ)をデジタル化・構造化したデータ」と定義しています。
企業:暗黙知(ノウハウ)をデジタル化・構造化したデータ(「知のデジタル化」と呼ぶ)
「知のデジタル化」とは、農業やインフラ管理からビジネス等に至る産業や企業が持ちうるパーソナルデータ以外のデータとして捉えられる。今後、多様な分野・産業、あるいは身の回りに存在する人間のあらゆる知に迫る、様々なノウハウや蓄積がデジタル化されることが想定される。
*2
採用プロセスにおいても、
「採用における暗黙知(ノウハウ)をデジタル化・構造化して蓄積していくこと」
を進めていきましょう。
具体的には、属性・選考評価・適性検査・能力試験などの応募者データと、採用率・内定辞退率・離職率などのデータを蓄積し、データを根拠とした意思決定ができる環境を整備します。
続いて、中途採用者にやさしい会社となるために、
「何がそろっていれば、やさしいといえるのか」
について、見ていきましょう。3つの条件があります。
最も重要といっても過言でないのが、既存社員たちの「礼節」です。
たとえば、新入社員に対して敬意を持ち、柔和な表情であいさつをすること。話しかけられたら作業の手を止めて顔を向け、目を見て話を聞くこと。
文章にすると当たり前と思えることですが、実際の職場ではこれをできない(あるいはやらない)人も珍しくありません。
自社の社員たちに礼節が欠けていると感じたら、その理由を考えたいところです。
価値観として礼節を重視しない人々が集まっているのか。あるいは精神的な余裕がないのか。
じつのところ、後者であるケースは多く見られます。『衣食足りて礼節を知る』という言葉があるとおり、余裕がないと礼節を持つゆとりが生まれないからです。
なぜ礼節を持つ余裕がないのかを深掘りし、真因を解決することが、中途採用者の定着率向上に直結するかもしれません。
面接のときは、上司、同僚、社長と総出で会社の魅力をアピールし、笑顔で明るい雰囲気だったのに、いざ入社してみると全然違う……ということがあります。
悪徳商法の勧誘活動のごとく美辞麗句を並べても、実態と異なるのなら、離職率は高まるばかりです。
中途採用社員が定着しやすい会社は、面接時の印象とその後の印象が変わりません。入社前後のギャップがないのです。
意外なところでは、「営業力の強い社長」は面接でも持ち前の営業力を発揮し、人材獲得力は高いものの定着率がついてこない、というケースがあります。
よかれと思っての行動が、じつは不信の原因となっていないか、振り返りたいところです。
中途採用社員に対して、
「よくウチの会社に来てくれました。本当にうれしいです。ありがとう」
という歓迎ムードのある会社は、定着率が高くなります。
逆に「お手並み拝見」とばかりに品定めする冷淡なムードは、中途採用社員にとって居心地の悪いものです。
中途採用社員は社内を冷静に見つめているもので、既存社員がわからないだろうとやっていることにも気づいています。
たとえば、ライバル意識を隠しきれない既存社員の意地悪な行動はお見通しです。
中途採用社員が即戦力となるために、研修プログラムや業務マニュアルの充実はもちろん大切です。一方、日々の業務は、チームの連携によって成り立っています。
中途採用社員を歓迎し、「うまくいってほしい」という温かい親切心がチームのベースになければ、中途採用社員がなじめないのも無理はないのです。
本記事では、中途採用がうまくいかない理由について取り上げました。
筆者自身、転職者として中途採用されたこともあれば、中途採用者を迎え入れる側で採用から定着までにかかわる業務を行っていたこともあります。
本文中で触れた内容にひとつ補足すると、迎え入れる側のムードやホスピタリティは、すぐに変わることはありません。ですが、“少人数であっても、その種が生まれること”が重要です。
小さな種に助けられて定着した中途採用者が、ひとり、またひとりと増え、迎え入れる側になると、よいムードやホスピタリティを発揮してくれます。遺伝するのです。
高精度な採用プロセスと、中途採用者にやさしい風土づくりの両輪で、ミスマッチを減らしていきましょう。