就職を見据えた学生対象のインターンシップが急速に浸透しつつある一方で、社会人向けのインターンシップはまだあまり普及していません。
社会人のインターンシップの効果は、転職の際のミスマッチが回避できる可能性が高まるだけでなく、異業種体験やスキルアップができること、人脈が広がることなど、さまざまです。
企業側からみても、自社に必要な人材を確保できる可能性があるだけでなく、外部から人が参入することで、新しいアイディアや知識などに触れていい刺激を得ることができ、担当者にも学びが生じるというメリットがあります。
関係官公庁が公開している資料や事例集を参照しながら、社会人インターンシップの取り組みについてみていきます。
現在、国は社会人インターンシップを推進しようとしています。
それはなぜでしょうか。
2016年、文部科学省は有識者で構成される「インターンシップの推進等に関する調査研究協力者会議」を設置し、厚生労働省、経済産業省も連携して、インターンシップの望ましい在り方に関する協議を重ねてきました。*1
それらの協議は主に学生を対象にしたインターンシップについてでしたが、2017年に同会議が公表した報告書には、社会人インターンシップについても触れられています。*2:p.22
それは、国が現在取り組んでいる「働き方改革」に関連したものです。
「働き方改革」が目指す多様な働き方を実現するためには、転職・再就職に役立つリカレント教育プログラムを拡充することが必要だと指摘されていますが、そのプログラムにインターンシップを組み込むことは、教育的効果と転職・再就職支援の両面において有効な取り組みだと述べられているのです。
なぜなら、そうすることによって、転職・再就職を希望する人は就職する前に企業や業種の実態をよく知ることができ、未経験だった職種を体験することで視野が広がる可能性もあるからです。
2013年の「日本再興戦略」でも、同年からの取り組みとして、「『女性の力』を最大限活かす」の項目の中で、「学び直しプログラムの提供、主婦等向けインターンシップ等により、子育て女性の再就職を支援する」と謳われています。*3:p.16
一方、内閣府は、1990年代半ばから2000年代前半にかけて、雇用環境が厳しい時期に就職活動を行った、いわゆる「就職氷河期世代」に関連づけて社会人インターンシップの有益性に言及しています。*4:p.2
この世代には、就職の機会に恵まれなかったり、不本意ながら不安定な仕事に就いていたり、社会参加に向けた支援を必要とするなど、さまざまな課題に直面してきた人々が多く含まれています。それは、個々人やその家族だけの問題ではなく、社会全体で受け止めるべき重要な課題だというのです。
そして、そうした課題を解決するための1つの方策として、就職氷河期世代を含む求職者が転職・再就職を目指す際に、社会人インターンシップの機会を拡大して、企業とのより良いマッチングを実現していくことが望ましいという見解を示しています。
このように、政府はさまざまな文脈から社会人インターンシップを推進しようとしています。
社会人インターンシップは、企業にとってもメリットがあります。
社内の活性化につながり、さらに転職・再就職希望者の適性が見極めやすくなるなどの効果が期待できるからです。*2:pp.22-23
その反面、課題も指摘されています。
学生向けのインターンシップに比べて、より多様な参加者ニーズに合ったプログラムの開発や、受け入れ企業の開拓が困難であることは否めません。
また、採用に関しては、中小企業の採用活動のタイミングやニーズと合わない場合もあり、参加者とのマッチングが困難な場合もあります。
では、実際に社会人インターンシップを実施している企業はどのような取り組みをしているのでしょうか。
内閣府は企業へのアンケート調査とヒアリング調査の結果をふまえ、社会人インターンシップを実施している企業の事例集を公開しています。*4:p.2
中途採用者と企業・業務とのミスマッチを防ぐことを目的としたインターンシップが中心ですが、その中から3社の事例をご紹介します。
株式会社アーキ・ピーアンドシーは、初回の面接合格者を対象に、新卒採用・中途採用にかかわらず、基本的に3日間のインターンシップを実施しています。*4:pp.4-5
1日目は会社の業務説明を行い、その後3日目の午後まではOJTによる実務体験、3日目の最後にはフィードバックの場を設け、インターンシップ参加者の感想をきいたり、時間の関係で体験できなかった他の業務内容について説明したりしています。
このインターンシップは参加者からの意見を積極的に取り入れ、内容面の改善・充実を随時、図っています。
出所)内閣府政策統括官(経済財政運営担当)付参事官(産業・雇用担当)付「社会人インターンシップ事例集」p.4
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/suishin_platform/dai4/sankou.pdf
同社では、一般的な認知度が低い建築積算業務を行っています。入社時点ではほとんどが未経験者で、仕事をしながら技術を習得するため、業務を体験しなければ、正しいイメージを描くことが難しいと経営者は考えていました。
実際に、採用後、仕事内容が思い描いていたイメージとは違うという理由で、1、2日で退職してしまうというケースもこれまで複数ありました。
インターンシップを実施すると、「参加者への賃金の支払い」「OJTに対応する従業員の人件費」「使用する機材費」などの費用が発生するため、会社にとっての負担は少なくありません。
しかし、インターンシップを実施することで、ミスマッチの発生を防ぐことができ、さらに、採用後の定着・成長につながるため、実施する意義は大きいと考えています。
実際、インターンシップを中途採用者にも導入して以降、これまで課題となっていた早期退職者は見受けられなくなったということです。
次にご紹介するのは、情報通信業の株式会社ダンクソフトの事例です。*4:pp.22-23
同社は、中途採用者には即戦力としての役割を期待しており、採用された社員はWebデザイナーやプログラミングなどのWeb系業務を担当することになります。
同社は、地方出身の従業員が地元でサテライトオフィスを立ち上げてそこで勤務したり、海外からのインターンシップ参加者が入社するなど、多様な働き方・人材を受け入れています。
インターンシップはすべてテレワークで実施しています。
人柄は、リアルに会わないと全く感じ取れないということはなく、リモートでもある程度わかると認識しているのです。
また、完全テレワークにすることで、時間や場所の制約を軽減できることに加えて、遠隔でも働ける人を確保することができ、経営面においても意義があると考えています。
インターンシップの内容には、Webデザインとプログラミングのほか、事務処理の体験も含まれ、5日かけて実施しています。
出所)内閣府政策統括官(経済財政運営担当)付参事官(産業・雇用担当)付「社会人インターンシップ事例集」p.23(左写真), p.22(右写真)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/suishin_platform/dai4/sankou.pdf
インターンシップの参加者も多様です。たとえば、NPOなどと連携して、いわゆるひきこもりの人に参加してもらったり、海外在住の外国人や出産後に復職を希望する女性なども受け入れています。
こうした取り組みが必ずしも採用につながるわけではありませんが、社会人インターンシップを実施した場合の方が定着率が高く、教える側にも新しい学びがあることがメリットだと捉えています。
また、たとえお試しのインターンシップであっても、人が外部から1人入ってくるということは、その人の考え方を企業の中に受け入れるということを意味します。
多様性の中でしかイノベーションは実現できないと考える同社は、その多様性を確保する機会を創出するという意味でも、インターンシップは重要だと考えています。
さらに、情報通信業を営む同社は、インターンシップを通じて若者の考え方を知ることができるのも、経営的に意味があると考えています。
最後にご紹介する事例は、主に介護職を募集している社会福祉法人新生会の取り組みです。*4:pp.18-19
同法人では、会社説明会後に募集している施設の見学を行い、その後、人事担当者との懇談を行います。そして、希望者はインターンシップを受けますが、実施期間は、1日、2日、1週間の中から、参加希望者の要望をもとに調整します。
出所)内閣府政策統括官(経済財政運営担当)付参事官(産業・雇用担当)付「社会人インターンシップ事例集」p.18(左写真), p.19(右写真)
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/shushoku_hyogaki_shien/suishin_platform/dai4/sankou.pdf
同法人がインターンシップを取り入れたのは、これまで他業種からの転職者を採用した際に、職場になじめず1年未満で離職するケースがあり、定着率が低かったためです。
インターンシップでは職員と同じ業務を体験することによって、実際の業務の流れを通して参加者にイメージとギャップがないかを確認してもらいます。
1日の終わりには振り返りを行い、参加者の気づきを共有します。
同法人は、こうしたインターンシップによって、法人側も参加者側も相互に理解が深まっていると感じています。
実務を見たり体験したりすることで、仕事への興味がより深くなり、参加者の不安や悩みなどもある程度解消できるため、納得した上で就職するよい機会になっています。
また、職員も、参加者に教える側に立つことで、新たな気付きが得られ、成長につながっているということです。
最後に、インターンを採用する際の留意点を押さえておきましょう。
インターンを採用する場合も、通常の雇用者(社員・アルバイト等)と同様、関連法規の順守とリスクマネジメントが求められます。*5:p.20
インターンシップによって就業する人が「労働者」(労働基準法9条)に該当する場合は、労働関係法規が適用されます。
賃金などの労働条件については労働基準法や最低賃金法などの労働基準関係法令の適用、実習中の事故に関しては労災保険法の適用があります。
インターンが労働者に該当しない場合であっても、会社はインターンに対して安全配慮義務を負う必要があり、企業内での事故に対して過失が認められれば、損害賠償の責任が発生します。
インターンの地位や雇用条件、万が一の対応方針、保険の加入について、インターンと受入企業間で、できる限り文書によって明確化しておいた方がいいでしょう。
これまでみてきたように、社会人インターンシップは、参加者、企業の双方にとってさまざまなメリットがあります。
もちろんコストもかかりますが、それに勝るメリットがあるのなら、事例などを参考にしつつ導入を検討してみる価値があるのではないでしょうか。