新卒採用ではインターンシップ・プログラム(インターン)を実施する企業が非常に多く、優秀な人材を囲い込もうとする動きが目立ちます。
採用希望者の適性を見極めるためには、新卒採用に限らず、中途採用でもインターンを実施することが有用です。ただし、内定を出すタイミングやインターンの実施方法によっては、法律上のトラブルが生じる可能性があるのでご注意ください。
今回は、中途インターンを実施する企業が注意すべき法的リスクなどを解説します。
中途インターンとは、中途採用を目的としたインターンシップ・プログラムまたはその参加者です。「社会人インターン」と呼ばれることもあります。
採用面接を実施するだけでは、候補者の能力や適性を十分に見極めることは困難です。
そこで、一定期間会社の中に入ってもらい、社員とコミュニケーションをとったり一緒に働いたりする中で候補者の見極めを行うため、インターンを実施する企業が増えています。
インターンは、参加の時間が確保しやすい新卒者をターゲットとするものが主流ですが、一部の企業では中途インターンも実施されています。インターンが候補者の見極めに役立つことは、中途採用も新卒採用と同様です。
中途インターンのターゲットとプログラム内容は、短期インターンと長期インターンで以下のように分かれる傾向にあります。
短期インターンの場合:転職希望者向け、採用面接の延長
長期インターンの場合:キャリア離脱者向け、実働を求める
1日から1週間程度の短期による中途インターンは、現勤務先で働きながら転職活動を行う転職希望者を主なターゲットとしています。
短期インターンは、採用面接の延長として位置づけられていることが多いようです。
そのため短期インターンのプログラムは、会社が候補者の能力・資質・性格などを知ることを目的として設計されます。
数週間から数か月間に及ぶ長期の中途インターンは、キャリアから離脱中で復帰を目指す人を主なターゲットとするケースが多いようです。
長期の中途インターンを実施する企業は、じっくり時間をかけて本採用する候補者を選ぶこと以外にも、別の思惑を有することがあります。
たとえば、
「単純に労働力を確保したい」
「キャリアのリスタートを支援して社会貢献したい」
などです。
いずれにしても、長期インターンにはパートタイム労働者としての働きが求められるのが一般的です。基本的には社員の指示を受けながら、社員と同等かそれに近い業務をこなすことになります。
法的な観点からは、企業が中途インターンを実施するに当たっては、特に以下の2点に注意が必要です。
インターン生に対して「内定」を出すと、法的にはその時点で労働契約が成立します(最高裁昭和54年7月20日判決)。
内定時点での労働契約には、会社側の解約権が留保されていると解されています。しかし、解約権は無制限に行使できるものではなく、以下の要件をいずれも満たす場合でなければ解約(内定取り消し)は認められません。
特に長期インターンの場合、期間が進むに連れてインターン生の実態がわかり、当初とは異なる印象となることがあります。
あまりにも早く内定を出してしまうと、後で採用を取り止めようと思っても、法的に内定取り消しが認められない可能性があるので注意が必要です。
インターン生を会社の指揮命令下で働かせる場合、インターン生は労働基準法上の労働者に当たります。
労働者に対しては、少なくとも最低賃金を支払わなければなりません(労働基準法28条)。また、労働者が時間外労働などをすれば、割増賃金を支払う必要があります(同法37条)。
特に長期インターンは、会社の指揮命令下で社員並みの労働をするケースが大半です。この場合、会社は長期インターン生に対して、労働基準法に沿った待遇を与えなければなりません。
インターン生が労働者に当たる場合、インターンだからといって無給としたり、最低賃金を下回る給与を設定したりすることは違法となるので注意が必要です。
上記の法的な注意点を踏まえて、企業が中途インターンを実施する際には、以下の各点に十分留意の上でご対応ください。
インターン生に対して出した内定は、会社が安易に取り消すことはできません。そのため会社としては、インターン生の能力や資質などを慎重に見極めた上で、誰に内定を出すかを適切に判断する必要があります。
特に長期インターンの場合、プログラムの終盤に差し掛かるまでは、内定を出すかどうかの判断を保留することをお勧めいたします。
インターン生について労働基準法違反の問題を発生させないためには、会社の指揮命令下において労働させないことが大切です。
具体的には、会社の実態として以下のような事情があると、インターン生が労働者であると認定されやすくなります。
特に無給インターンや、拘束時間に対して最低賃金を下回る給与しか支給しないインターンについては、上記のような実態が生じないように注意してプログラムを設計しましょう。
中途インターンを効果的に実施すれば、会社の求める人物像にマッチした人材を中途採用できる可能性が高まります。
その一方で、ターゲット設定やプログラムの設計を適切に行わなければ、中途インターンを効果的なものにすることはできません。また、内定を出すタイミングやプログラムの内容については、法的な観点からの注意点にも気を配る必要があります。
新卒採用においてインターンシップが全盛となっていますが、中途採用についても、インターンシップを通じた採用活動の可能性は広がっています。中途採用の特性や法的な留意事項などを踏まえつつ、自社にとって最適なインターンシップの実施方法を探ってください。